7 城崎先生と転校生
八重は六時半に目を覚まして、由依と共に食堂で朝食を取った後、一年生の教室のある三号館に向かった。八重の所属する一年E組のホームルームはその直後に始まった。
担任は城崎という三十そこそこの男性教師で、チンパンジーを思わせる粋な外見とその流暢な喋り方から、クラスの生徒に愛されていた。
チャイムが鳴る少し前に、城崎はなにやらへらへらと笑いながら入室してきた。
ゴールデンウィークが明けて出揃った生徒たちの顔を眺めまわして、城崎はさも愉快そうな、その実はたから見ても愉快な顔をした。
「お前たち、今日も一日、頑張ろうな」
「はい!」
「そう、その意気だ」
「先生!」
「なんだ」
「今日も猿みたいですね」
「……うるさいよ」
何はともあれ、城崎は生徒たちから提出物を集め始めた。
「先生……、忘れました」
「またかよ」
「先生……、俺も忘れました」
「お前も?」
「先生、私も……」
城崎は自分の七三分けのような髪型の頭を撫でると、
「こりゃ、まいったな……」
と呟いた。
「お前たち、ゴールデンウィークが明けてたるんでるんじゃないか。いいか。ゴールデンウィークだけは気を抜いちゃいけないんだよ。そうでなくても、ゴールデンウィークが明けると、ホームシックになって、学校に来なくなるやつがいるんだから。いいか。お前たち、もう学校生活は始まったんだから、気を引き締めてやらんといかんぞ。もお……」
「先生」
「どうした?」
「田中がまだ部屋で寝てます」
「田中はもう、ほっとけよ……」
城崎はやれやれといった顔をしていたが、しばらく黙るとにやりと笑った。
「まあ、しかし、お前たちにハッピーなニュースをプレゼントしてやろう」
「なんですか?」
と馬顔の男子生徒が尋ねる。
「先生、転校生でしょう?」
とお転婆の女子生徒が高い声を上げる。
「先生、転校生なんですか?」
「転校生がいるんすか、先生!」
「男? 女?」
生徒たちが口々に好き勝手なことを言うので、城崎は呆れて眉をひそめた。
「お前たち……、動物園じゃねえんだから」
八重はどんな転校生が来たのだろう、と期待に胸を膨らませた。八重の目の前の由依を見ると、昨日あれほど喋っていたのに、今ではあまり興味がなさそうに指先でペンをまわしていた。そのペンはとんでもない方向に飛んで、床に転がった。由依は足を伸ばしてそのペンを取ろうとしているが、なかなか取れない様子だった。
「それでは入っていただきましょう。転校生です!」
城崎はやかましい手拍子をしながら、入り口に向かって叫んだ……。




