3ルームメイトの田所由依
紫雲学園の女子寮は二人で一部屋となっている。したがって八重と同じ部屋で寝泊まりしているルームメイトもたった一人だった。
八重は一階の談話室の横の階段を登って、二階にある自分の部屋の中に入った。
室内には、棚と勉強机とベッドが、各一つずつ左右に並んでいる。八重は向かって左手側、ルームメイトは右手側を使用していた。部屋の正面にはガラス戸が二つ並んでいて、外には小ぶりなベランダがある。ガラス戸には、ピンク色のカーテンが付けられているが、それも今は開かれていて、深い緑色の山並みが見えている。部屋は白い壁を除いて、全体が明るい木の色で統一されているように見えた。
ルームメイトの鞄が、ベッドの上に放り出されているところを見ると、彼女はすでに学園に戻ってきているようだった。というのは、彼女もまた東京の実家に帰っていたのである。
その時……。
「八重ぇ」
後ろから声をかけられて、八重ははっと振り返った。
そこには、短い黒髪のスポーツ少女風の女子が立っていた。化粧っ気のない綺麗な目の、活発な印象の少女である。彼女はルームメイトの由依であった。
「由依、もう帰ってたの?」
「今、帰ったところ……。それより、どうだった? 実家」
「何も変わってなかった」
「そりゃそうだ」
由依は少し笑うと、軽快な足取りで部屋に入ってきて、ひょいとベッドに腰を下ろした。
「まだ、八重はこの学校に入ってから一月しか経ってないんだから……」
そう言うと由依は靴を脱いで、ベッドの上であぐらをかいた。
彼女は田所由依と言って、八重の唯一のルームメイトだった。彼女は中学の頃からこの学園に通っていたので、八重と比べて妙に寮生活に慣れているところがある。
由依は男の子っぽい女子という印象だった。短い黒髪のせいでもあるが、何があってもあまりくよくよせず、後腐れなくさっぱりとしているように見えた。身長も八重より高いし、胸が大きくて白いシャツの胸元が窮屈そうに膨らんで見えるのも、なんとなく堂々たる感じがした。
実際、彼女はバレーボール部の部員なのだった。
「それよりもさ」
由依は、チラリと八重の方を向いた。
「うん?」
「転校生の話、聞いた?」
「転校生?」
「そう。転校生……」
「聞いてない、けど……転校生がいるの?」
「そう。入ってくるらしいよ」
「何組に?」
「知らないけど、寮に、荷物運び入れてるよ」
「へー。どんな子なの?」
そこで、由依はなんと言ったら良いのかわからない様子で考えていたが、しばらくして口を開いた。
「すごい美少女らしいよ……。この世のものとは思えないほどの」
「………」
八重は何と答えて良いのだか分からなくなって、口をつぐんだ。