ダンデリーグ 開花の瞬間
2018年5月12日土曜日。ダンデリーグ1年目のシーズンがいよいよ幕を開ける。ダンデリーグは首都圏に散らばる8つのクラブで構成される女子フットサルの独立リーグだ。大阪府に女子セミプロリーグが生まれて10年。ようやく関東でもリーグが結成された。名前の由来は英語でタンポポを意味するダンデライオン。選手の年齢制限は11歳から20歳まで。つまり小学5年生から大学2年生まで、最大でも10年間限定の現役生活となる。
東京都港区。東京メトロ赤坂駅に直結している港区メトロボックス。4つの開幕戦のひとつ、フットウィング対ホンマーレ群馬がこのあと午後2時から開催される。ホーム、フットウィングのピヴォとして先発出場が予定されている中学3年生の実塚美兎はベンチからフィールドを眺めている。観客の入場はキックオフ1時間前から。まもなく始まるだろう。
試合開始30分前の午後1時30分まではピッチの半分を使って練習する時間が設けられている。もう半分では半袖のポロシャツとフラップ付きショートパンツ、それにニーソックスが茶色いユニフォームを着たホンマーレ群馬の選手たちがパス回しをしている。ダンデリーグにはアウェイユニフォームがない。全てのクラブでポロシャツとスコートにハイソックスというファッションは同じでも、カラーが違うためだ。
「私が、プロ選手に」
前日の夜から何度も繰り返していた言葉を、美兎はもう一度復唱した。そして、全身赤のユニフォームでピッチに駆け出した。
千葉市のジェフ千葉屋内競技場。ここは千葉☆グリーン対大江戸女子球会の舞台となる。既にスタンドは緑とピンクに染まった。
——小さなリーグなのに、よくこんなに人が集まったもんだ。
この試合で主審を務める峠寧々はそう思った。黒のユニフォームは審判の証。スポンサー広告を除いてデザインまで全クラブ共通。もちろん審判もだ。
審判の採用条件は1年以上のフットサル経験がある25歳までの女性。インターネットのリクルートページによればコーチも25歳まで、監督は30歳までだった。ダンデリーグは選手以外のスタッフの若さも売りにする狙いがあるらしい。これも新しいプロスポーツのあり方なのだろうか。ただ、寧々としては選手はアイドルとは違うと思う。広いようで狭かった門を潜り抜けた審判は、真新しい笛を吹いた。練習時間終了の合図だ。
——開幕戦がアウェイとは、この子たちもついてないなあ。
水戸市の弥生大学第一体育館を訪れたのは、彼女にとってはこれが初めてではない。球団カラーである青のネクタイを締めた横崎ユニテッド初代監督、柏れいるは弥生大学の卒業生だ。ただし、第一体育館はアイホープ茨城のホームスタジアムとして改修されており、れいるの記憶とは違う。何より、全体的にオレンジ色が目立つカラーリングになった。新設された観客席の塗装までオレンジ。
伝統ある弥生大学のカラーも橙。ここまでオレンジにアウェイを感じたのはれいるにとっては初めてだ。現在、ピッチ上では開幕セレモニーが行われている。弥生大学の男子学生による和太鼓の演奏。選手はもちろんコーチ、監督、審判にまで男子禁制を求めるダンデリーグのベンチには、どこか女子校のような雰囲気が広がっている、とれいるは感じた。試合前から中高生の選手が太鼓の奏者に見惚れている。
最初にこのリーグの存在を知ったとき、実力よりも色気で勝負するつもりか、と小学4年生の三池桜花は思った。だが、連日ニュースで流れる地元チーム、栃木シティFCに徐々に惹かれていった。そして今日、ダンデリーグの思う壺とわかっていながらも宇都宮市民体育館に足を運んでしまった。スタンドは白と紫に分かれていた。白が栃木の色だ。オープニングゲームの対戦相手はネオこうふ山梨。
白のユニフォームを着た選手たちが5人、フィールドに広がる。その中に、桜花自身とそれほど変わらない体格の選手を見つけた。きっと小学生の選手だろう。ダンデリーグは特別ルールを採用しており、ベンチ入りできるのが先発選手以外では3人だけ。だからスタミナのある小学生選手も必要になるらしい。
「私もダンデリーグに入れる……かな?」
試合開始を告げる主審の笛を聞きながら、桜花はそんなことを考えていた。
それぞれの想いを込め、花は咲く。ダンデリーグ、開幕。
川里隼生は小説家になろう内でダンデリーグの試合・イベントを広報していきます。