第一のお話 おはよう俺
毎日投稿なんて言ってますが、自信が無くなってきた。
ーー彼は俺を呼んでいた。ーー
ーー彼は俺に何かを伝えたがっていた。ーー
ーー洞穴の様に暗い双眸をこちらに向け、潰れ果てた喉を引き絞り、枯れた老木の様な手をかざす。ーー
ーー波紋のように意識が波立つ。ーー
ーー彼の姿を見ると、自責の念を覚えた。ーー
ーー今すぐ彼のかざした手を、手と手を重ねる様に握り潰し、その双眸に指を突き入れ、灰になるまで燃やし尽くしたい。ーー
ーー俺は悪くない、彼は彼だ。ーー
ーーいまさらどうしようもない。ーー
ーー全ては遅い。ーー
俺は彼の言葉に耳を貸そうとはしない。
それに彼の言うことはどうせ決まっている。
「死にたい」だ。
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淡い光の中……ではなく、薄暗い中、俺は目覚めた。
いつものベットでの心地よい目覚めではなく、吐き気と目眩で最悪の気分だった。
「頭、痛すぎる……。」
頭を駆ける酷い頭痛に気がつき、自分の体に掛かってる筈の布団から出ようとした。
その時、自分が硬い地面に体を寝かせていることに気付いた。
「……ん? というかここ何処?ベットは?pcは!?」
自分の体が埃まみれなのにもかかわらず、こんな事を叫んだ。
ここで身の安全を確認する前にpcの心配をするあたり、手遅れだということは置いといて、あたりを見渡すと、いつもの薄暗い部屋では無く、見慣れない光景がそこにはあった。
灰色の曇天。
ひび割れた外壁の小屋、汚く黒ずんだ地面、所々にある水溜まりには蛆が湧いている。
簡単に言うとスラムのようだった。
自分が、幸せになれる粉の売買でも行われてそうな小道に寝ていた事に気付くと、心臓が握りつぶされたような緊張感に襲われた。
じぶんの置かれた状況に気付き、恐怖と不安で心が潰されそうな中、状況確認のために眠気で働かない頭を総動員させていると次の瞬間、頭に鈍い痛みが走り、叩き起こされた。
「オイコラナンジャワレドリャアア!!?」
えー…………。
なんというかめちゃくちゃ頭の悪い言葉を吐かれた。
突然の事で状況に追いつけない。
ただでさえ、ココハドコ? キミハダレ? みたいな記憶喪失っぽい状態なのに、突然無精髭生やした強面のおっさんに怒鳴られて俺の頭は混乱した。
おっさんの右手に棍棒のような物が握られてるから、このおっさんに頭を殴られたのだと言うことはわかった。
そしてこの時の俺は何を血迷ったか、この狂気のおっさんに向かって何か文句を言おうとしていた。
多分寝起きのテンションである。
さっきの発言からして「こいつ頭が悪いな……。」なんて思ってたから、自分はもっと理知的な言葉でかえそうとしてたのだが、いかんせんおっさんへの怒りが強く、つい声を荒げて、こう言ってしまった。
「オイコラナンジャワレドリャアア!!?」
馬鹿である。
自分でも「え、俺バカ?」と思った。
そして全く同じ言葉を返されたおっさんは一瞬ビビったが、直ぐに態勢を立て直しヒートアップ。
そのままおっさんとおっさんの怒鳴り合いに発展した。
もうね、馬鹿なんです。
いい歳したおっさん同士の怒鳴り合いは、はたから見れば、さぞ滑稽な事だろう。
自分の身に起きた数奇な現象の把握をする事なく、おっさんとの怒鳴り合いは夜まで続いた……。
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その後、おっさんとは親友になった。
おっさんとの怒鳴り合いは殴り合いに代わり、全力を出しきって倒れた俺達は互いの健闘を称え、友情が芽生えた。
今では肩を揃えて、おっさんの奢りで酒を酌み合っている。
……………馬鹿である。
つくづく思うが馬鹿である。
自分が置かれた状況の把握もできないまま、知らないおっさんと酒を飲んでる自分が怖い。
もしかしたら俺は適応力が高いのかもしれない。
自分の新たな才能に気付けて有意義だった、とはならない。
だが俺は一つ、おっさんとの戦闘で疑問に思った事があった。
おっさんといっても相手は棍棒を持っていた。
武器を持った相手に俺は互角に戦えたのだ。
家にひきこもって、ろくに運動もしていない体が十年前に戻ったような軽さだった。
そんなことを考えていると、相変わらずやかましい声でおっさんが話しかけてきた。
「もう飲まねぇのか!? にぃちゃん!」
は? にぃちゃん?
俺はまだ二七歳だが、風貌としては髭ダルマのおっさんだ。にぃちゃんではない。
「こいつ目も節穴かよ…。」なんて思いつつ、おっさんから差し出された、大振りな盃に顔を覗き込んだ。
そこに映し出された酒の中にはまごうことなく十年前の俺がいた。
「……、おぉ…。」
夢みたい状況を酒のせいにして、眠りたくなった。
勇なま楽しい。