一冊の本
拙いながらも完結目指します!
はるか昔、この世界には4つの氏族があった。
血のように紅いその眼は全てを見通すと恐れられ、情報を扱う闇の化身とも呼ばれた『鵺』
身体のどこかに花弁の痣を持ち、筋力に特化した戦闘を得意とする『殲』
自らの血液を対象に触れさせることで、恐ろしい妖術を使い、人を意のままに動かせる『戟』
夢を通じてのみ遥か先のことまで見通し、予知や占いを得意とした『言』
「全ての氏族は各々良好な関係を築き強大な敵を滅ぼしたとされる…ねぇ…なんだこの本…バカらしい、さて帰るか」
学校のチャイムの音で本から目を離す。
外を見ると、もう夕日が沈みかけていた。今日はうちの姉ちゃんが婚約者を連れてくるとかで、それを聞いた両親が料理やらなんやら朝から張り切って計画をたてていた。あの勢いだと完全に手伝いという名のパシリにされるだろうことが予想できたから、こんな時間まで学校にいたわけなんだけど。だって手伝いたくないじゃん。
時間つぶしに入った図書室で、背表紙も掠れて何も読み取れないのに、なぜか無性に気になって手に取った本。
ちょっと期待したのに、正直拍子抜けもいいところだ。
さすがに本に吸い込まれたり不思議な力が働いたりなんてどっかのアニメや映画みたいなことが起こるなんて思ってなかったけどさ。
「それにしても…なんていうか和洋折衷もいいところだろ…忍者なのか鬼なのかヴァンパイアなのかもうはっきりしろよな…」
席を立ちながらチラリと横目で本を見ながらひとりごちる。
いつかのテレビの黒魔術かなんかの特集で見たような気味の悪い挿絵があった。
目を光らせながら壁を走ってるような人や、筋肉隆々の化け物みたいな大男、マリオネットを動かすような仕草で笑う女に眠り姫。
その下には英語?なのかよくわからない言語で何か書いてあるけど読めないからどうでもいい。それよりもはっきり言ってきもい。
本を閉じ元の場所に戻す。薄気味悪い挿絵を思い出して思わず体がぞわっとしたのを振り払うように図書室の扉を勢いよく開いたら、図書委員の先輩にギロリと睨まれた。
「藤原君、図書室では静かに」
そういや、この先輩名前なんだっけ?クラスの女子が図書室の鉄仮面とか言ってた気がするけど名前思い出せないわ。とりあえず謝っておこう。
「あ、すみません、気をつけます。失礼しまーす」
そーっと扉を閉めて図書室を後にする。
時計を見るともう6時半だ。
「やべ、姉ちゃん7時に連れてくるって言ってたっけ、急いで帰らないと!」
いつもより豪勢であろう夕食に期待しつつ、空腹を訴える腹の虫をなだめながら家路を急いだ俺は…
あの変な本のことなんて頭からすっかり抜け落ちていた。