3話 ヒロイン⁈怪我する少女
俺は街で1つしかない治療病院で働くこととなった。
まぁタダで治療ってわけにもいかないもんね。ちょっとは給料とかもくれないかな……今後暮らしていくのにお金が必要だからな……流石におじいさんに頼ってばかりなのも良くない。
というわけで今日からがんばるぞ! というか、頑張らないといけないんだけどね。
〜1時間後〜
「ちょっと、そこの君? 今日から入ったんだよね? そこに怪我人いるから処置しといて」
白衣、とは言い難い少し黒く汚れた服に身を包んだ看護師が言った。
「処置って、消毒液とか包帯とかは無いのですか?」
診察室らしき部屋には消毒用アルコールは疎か、救急箱さえ見当たらなかった。
「回復魔法でですよ? 何をおっしゃっているのですか?」
かっ、回復魔法⁉︎魔法だって⁉︎
キタコレーーーーーー‼︎‼︎ 魔法あるんだな! 異世界だ! 俺も使いたい!
「でっ、ですよね〜。やってみます!」
怪我人の元まで進む。足を怪我していた。何かで斬られたような跡。これは酷いな。
取り敢えず、やれるか試してみよう。異世界物の小説でもよくあるだろ? 案外簡単に出来るかもしれない。
両手を怪我人の足にかざし、力を込める。力が怪我人に流れ込む感じが……しなかった。
俺が治療できるわけないだろぉぉぉぉぉぉぉ‼︎
そりゃそうじゃん。初めてなんだもん。
というわけでただの雑用になった。
今いる患者さんはみんなかすり傷とか風邪とかその程度なので俺は特にすることない。 やることといったらトイレ掃除や床を掃くぐらいだ。このまま何も無いといいなー
これってまさかフラグか⁉︎
雑念だらけで掃除をしていると、入り口の方から大きな音が。
「医者の方はいますかっっ‼︎⁉︎」
ほら来た。めっちゃ慌ててる男来た。絶対重症人来るわ。
村人らしき格好の男達が誰かを抱えて来た。
そこには傷んでボロボロになった服を着て所々から血を出した金髪の少女がいた。
これだけは言える。
キャワイイいい‼︎‼︎
彼女はとても美しい金髪だったのだろう。しかし、今は土で汚れ、輝きを失っている。
よぉ〜し! この冬夜張り切っちゃうぞ!
袖を捲り上げやる気満々だぜ!
「冬夜くん! 急いで薬持ってきて! 回復魔法だけじゃ対応出来ない!」
「はい! わかりました。てか薬あるんかーい」
薬の入った救急箱はベッドの下の奥の方に隠されていた。
お嬢ちゃん(おじいさんの話し方がうつった)の症状は悪いらしいが、回復魔法や薬を使った治療により、一命を取り留めた。
おそらく魔王軍にでもやられたのだろう。俄然やる気出てきた! お嬢ちゃん、俺……仇討ちするよ!
看護師が俺のやる気を察したのか、俺はお嬢ちゃんの看病を任された。
二人きりの病室はやっぱり緊張しちゃうな。
べ、別に思春期なんだからしゃーないじゃん!
やっぱり可愛い子と二人きりだと..….うんダメだ! 自制しろ‼︎ 俺には別に好きな人がいるんだ!
そんな時だった。
「...…ん..….? ここは...…?」
少しあどけなさが残るその声は細かく震えて部屋に響いた。
お嬢ちゃんが目を覚ましたのだ。安心させないと。平常心……平常心……
「病院ですよ。あなたは重症を負ってたんです。でも今は命の別状はありませんよ!」
「は! え...…とあの、そ……のありがと」
俺がそばにいたことに気づいていなかったのか、俺が声をかけると驚いたように目を見開いた。
ぱっちりと開かれた二つの瞳は燃え盛る炎のように紅く、思わず見入ってしまった。
そもそも俺が治療したわけではない。なんか申し訳ない気持ちになる。
「いいんだよ! 君が謝ることじゃないんだよ。君は立派に戦ったんだから。僕は君のためにそしてこの世のために仇討ちするって決めたんだ。」
よくぞこれほどまでになるまで魔物と戦ってくれた。普通の人に出来ることじゃない。
俺の声を聞いたお嬢ちゃんはぽかんと口を開けている。
「戦い……? 私、その..…的な牛の散歩してたら転んじゃって石に頭ぶつけた上に牛に踏まれて怪我しちゃったんです......」
あらもぉ。やだ僕ったら勘違い屋さん♡
君のために世のためにとかキザいこと言っちゃった!
てかドジすぎる。なんてドジっ子なんだ!転んで牛に踏まれるって。顔的にすごくなんでもできる可愛い完璧少女だと思ってたんだが.....
まぁいい。可愛いことに変わりはない。
この子凄い気に入った! よし、ここでパーティーメンバーにひきいれよう。どうにかして入れたい。
「僕の名前は大神 冬夜! よろしくね」
「私は...り、や。リヤ・メルフィーヤ、あの...よろしくと、トーヤ? ...…」
「キャわあああああいいいい!!」
「……‼︎」
駄目だ……心を取り乱し過ぎだ。つい声に出してしまった。俺! 平常心だっ! リヤに変な奴だと思われた‼︎ でも、仲間になって欲しい…
「あっ、あの! 俺と冒け……あれ?」
「……すぴー」
寝ちゃったのか……しょうがないな。誘うのは退院してからでもいいよね。予定では退院は3日後か。それまでに好感度あげないとな……
〜好感度UP作戦1日目〜
「ねぇ、リヤさん? 俺の話を……」
「……(ちらっ)……(ぷいっ)……」
チラ見されて顔を背けられた…嫌われてる⁉︎やばいぞ!
〜好感度UP作戦2日目〜
「ねぇ、リヤさん? 仕事は何してるの?」
「……牛飼い」
進展あり。明日ぐらいに冒険の話を振ってみるか。
〜好感度UP作戦3日目〜
「ねぇ、リヤさん? 俺は冒険家なんだけどね。リヤは冒険に興味ある?」
「……‼︎ ぼ、冒険? 本当に?」
んん⁉︎ 話に食いついて来たぞ。リヤ、冒険に興味があるのか?
「あぁ。花を探しにな。世の中には珍しい花が沢山あるんだ。俺はそれを集めている」
全ておじいさんの話をパクらせてもらった。悪いね。
リヤは花を取りに行ったときの話に目を輝かせて聞いている。
「実は、ね。私、牛飼いなんて辞めたくてね。それで自由な冒険家に憧れてて…」
基本、子供は親の仕事を受け継ぐらしい。それは決められたことで自由に職業を決めることなど許されなかった。
今言うしかないっ‼︎
「リヤ、頼みなん「トーヤ...頼みが」だけど」
被ってしまった。恥ずかしい。
ここはやはりレディファーストであろう。
「いいよリヤからで」
「ご、ごめん! 怒って...ない?」
「こんなことで怒んないよ、リヤったら可愛いんだから」
ここでリヤに意識させる言葉攻撃だぁぁ!
「か、可愛い?‼︎」
うぉぉおおすごい顔が真っ赤だ。なんか初々しいな。
「で頼みって?」
「あの、えーと...…すごく迷惑かもしれないけど...…退院したら、私を連れて行ってください‼︎ 私も冒険したいんです‼︎」
そっちから言われてしまったぁぁ!
「勿論いいよ!」
「ありがとう、トーヤ!」
その時のリヤの顔はすごく楽しそうな可愛く綺麗な表情だった。
「そういえば、トーヤは何を言おうとしてたの?」
「いや、なんでもないよ。そうそう、今日退院だってね」
「うん。もう今すぐにでも行けるよ」
俺も…あれ?俺…
どんっ!と肩を叩かれる。看護師さんだ。やけに力が強いな。
「トーヤ君。実は一昨日で仕事終わりだったのよ?でも真剣そうだったから。はい、これ」
茶封筒を渡される。もしかしてこれって…
封を切る。中からはお札らしきものが二枚入っていた。
「2日分の給料よ。少ないけど我慢してね。2000ジィよ」
ここの世界のお金の単位はGなのか。ゴールドの略かな?ありふれたやつで良かった。
「あっ、ありがとうございます‼︎」
看護師が俺に耳打ちする。
「あの子、気に入ってるんでしょ? もう仕事は終わりでいいから、一緒に行きなさい♪」
俺はこくこくと頷く。本当に感謝だ。ありがとうございます‼︎
「じゃあね。トーヤ君。人手が足りなかったから助かったよ。今度来るときはしっかりお金持って来なよ!」
「はい! ありがとうございました!」
「あ、ありがとうございます…」
リヤもぺこりとお辞儀をする。
俺らは医療施設から出た。はぁ、久しぶりに外歩くな……ある意味監禁されていたともいえるもんな。
今俺のパーティー(勝手に作った)にリヤが入った。記念すべき仲間1号だ!
医療施設内で見たときと比べ、光の当たる外で改めてリヤを見てみると……やっぱりかわぇぇ‼︎
リヤは金髪、灼眼で顔の整った女の子だ。医療施設で見た土で汚れていた金髪は綺麗に洗われ、きめ細かくサラサラの太陽に反射し輝きより一層、リヤを美しくさせていた。いつの間にかにお風呂に入ってきたのだろう。彼女が動くとワンテンポ遅れて髪が揺れ、シャンプーのくすぐったい匂いが俺の鼻を打つ。
飴細工のように触ったら壊れてしまいそうな、儚げで美しく、自然と守ってやりたくなるような女の子だ。
事実、リヤは少し体が弱いらしく、華奢で背も小さいためやはりロリ感が少し残っている。ロリ、と言ってもリヤは俺と同い年らしい。
ん? このロリコン捕まれだって? 残ねぇん! 警察とかいないんだよ! あと同年代だしぃ……合法? だしぃ……なんか虚しくなってきたな…
というわけで俺はリヤと共に冒険を始めようと思う。
しかし、始める前に問題がでてきた。というか、問題だらけだ。
まぁ言ってしまうと
・お金がほぼない(2000Gだけ)
・魔法まだ使えない
・攻撃する手段がない
・どこに向かえばいいの?
・てかこの世界ってなんやねん
etc…
というわけでまずはお金を稼がなきゃならない。武器を買うのにもお金が必要だし、お腹もすく。今は給料の2000Gがあるけどおそらく大した額ではないのだろう。すぐ無くなる。
また働かないといけないのか…