宿屋にて
「初回サービス!一泊二食で銀貨三枚ですよ!」
10歳くらいの可愛らしい女の子が受付をしてくれた。ニコニコ笑顔が愛らしい少女だった。
部屋は四畳半ほどで、ベッドの他は壁に備え付けの棚が一つあるだけだった。
ベッドに腰掛けたリンはそのまま眠りたい衝動にかられたが、なんとか眠気をこらえ、現状に思いを巡らせた。
「女になってることとか、モンスターのいる世界になってることは、考えても分からないからもういい。いわゆる異世界物みたいなかんじかな」
そもそも凛太郎時代から超能力があり、普通の人からすると初めからファンタジーだ。気にしても仕方ないことは気にしない。身の安全を確保したらとりあえず異世界周遊を楽しもうと考えた。
「とりま、ステータス!」
リンは呪文を唱えた。しかしなにも起こらなかった。
いや、リンの顔が真っ赤になり、うるうると涙のたまった目でキョロキョロ辺りを見回した。
『恥ずい!』
リンは枕を抱えて身悶えた。
なんとか気を落ち着けると、何もなかったことにして、使える超能力を調べることにした。
よく思い出そうとすると、凛太郎時代のことがあまり思い出せないことに気が付いた。自分の年齢や仕事、家族のことなどは何も思い出せなかった。
その割に昔よく読んだ漫画の内容などは憶えている。凛太郎は孫後空の冒険という漫画が好きだった。龍珠といわれる玉を八つ集めるとヤマタノオロチが封印から解き放たれ、オロチを倒した者の願いを叶えてくれるのだ。
「この世界にも漫画があるのかなぁ。孫後空の冒険、続き読みたいなぁ」
そう呟くといつの間にか膝の上に本が載っていた。孫後空の冒険だった。
「え?、えええっ!?」
しかもそれは読んだ本の続きの巻だった。パラパラめくってみると、もちろん日本語で、野菜の国出身の孫後空が超野菜人になって、『クリキントンのことかー!』と叫んでいた。
「おぅ、マイ…」
なんちゃって欧米人な反応をしつつも、リンはマンガを読みあさった。
凛太郎は元々アポーツという物体をテレポートで引き寄せる超能力を持っていた。しかし、それは見えているものだけだった。
「あれ、ここ元と同じ世界?魔王でも復活したの?」
復活も何も倒された話も、そもそもいたという話も聞いたことはない。
「アポーツだけ強くなったのかな?」
とりあえず何か取り寄せてみようと思ったものの、特に思いつかない。ふと、受付の女の子を思い出した。
「この世界はゴムは一般的かな?ラノベでパンツがズロースだかカボチャパンツだかになってるのがあったなぁ」
そう呟いたリンの手の中には生暖かいカボチャパンツがあった。
「ギャーッ!」
思わず叫び声を上げると、ドタドタと足音が響き続いてドアがノックされた。
「お客さん、大丈夫!?」
「だ、だ、だ、大丈夫!」
どもっている間にドアが開け放たれた。
「大きな声出してどうしたの?」
受付の女の子が現れた。リンの手には生暖かいカボチャパンツ。
「ギャーッ!」
「ギャーッ!、私のパンツー!」
2人は同時に叫んだ。