到着!スウトト山
翌朝、武豚村でアルと合流した一行は、スウトト山に向かって出発した。
「最近、レベルが上がってパワーアップしてるみたいだから、テレポートで行けるところまで行ってみるね!」
昨日巨大なクッコロパレスを取り寄せられたリンは、かなり距離でもテレポートできるのではないかと考えていた。
空間認識は200mであったが、その代わりかなり連続で跳べるだろうと思っていたのだ。
自信満々に一行を自身の周りに集めると、さっそくリンはテレポートした。
一回目は何とかなった。二回目のテレポートが終わると、リンは力尽きた。
「ぜぇぜぇ、あーきついっ! な、なんで? どうして? アレだけ取り寄せられるなら、テレポートし放題じゃないの!?」
「あらあら、リンが、『やった! 美幼女・美女、貧乳・巨乳に合法的に密着されるっ!』とか良からぬことを考えてたからじゃない?」
「ちょ、ちょっと! それは言っちゃダメでしょ! リンちゃんのイメージが!」
オラクルのさらっとした暴露に、リンは焦って突っ込んだ。
「な、何を考えておるのじゃ!?」
クッコロはオラクルの後ろに隠れた。
「いやいや、それは、クッコロちゃんが可愛すぎるからいけないんだよ。後空様もメロメロになっちゃうんじゃない?」
「むむむぅ、そうかっ! なら、仕方ないかも知れんのじゃ。可愛すぎるのも罪なのじゃ」
クッコロはチョロかった。昨日と同じパターンでもチョロかった。
「で、解説のオラクルさん、なんでテレポートがイマイチなんですか?」
「はい、それはですねぇ、リンちゃんは、お取り寄せに極振りだからなんですね。主婦かOLみたいですね」
「えー!? してないよー、した覚えないよ? どういうこと?」
オラクルのあっさりした解説にリンは疑問をぶつけた。
「まあ、極振りしたっていうか、自然と極振りされてたっていう感じかな。
ほら、私って各世界を股に掛ける、高次元ワールドワイドな人じゃない?そういう風に集合的無意識が存在してるのは、前に言ったでしょ。
この世界に存在する集合的無意識より、他の世界に存在する集合的無意識の方が大きいの」
「ほほう、それで?」
「だって、ここ一つの世界分と他の複数の世界分トータルだとかなり差があって当たり前でしょ?
ただでさえ、この世界ではリンと私の存在にエネルギーを取られてるのよ? 残りで使う超能力が有るだけで凄いの。
お取り寄せは、向こうの世界のエネルギーを使ってるから、余裕なの。エネルギーが余り気味だから暴走気味というのも考えられるわね。
レベルが上がると、近くの世界からもエネルギーを少し取り出せるようになるみたいで、超能力も強くなるみたいよ。
あとついでに言っておくと、お取り寄せできる世界も、エネルギーが余ってる世界からになるから、自然と偏りが出るみたいね。今のところ、クッコロちゃんの世界が取り寄せ易いみたい」
「なるほどー。それで暴走してクッコロちゃんやクッコロパレスが出現したんだね。サクッとスウトト山行けると思ったのになぁ」
「訳が分からんのじゃ」
「私も分からん」
気を取り直して、一行は歩いていくことにした。アルがいるため、クッコロトレインは断念した。
「じゃあ、私は着いたら出てくるから、頑張ってねー」
「ず、ずるいっ!」
オラクルはウインクして姿を消した。
クッコロのダッシュ移動という希望を却下し、妥協案としてジョギングしながらスウトト山に向かった。
飽きた。
リンは早々に飽きた。何故なら森の中で見通しは悪く、ほとんど同じ景色が続き、しかも現在のペースでは三日ほどかかると、アルが言い出したせいだった。
「さすがに三日は嫌じゃ。やっぱりダッシュで…」
「「ムリ!」」
クッコロダッシュについて行ける者が、この世界に居るのだろうか。
「むぅ。では、飛んでいくのじゃ!」
「ううっ、気乗りはしないけど、見通しの悪い森でクッコロトレインするよりはマシか」
「私は飛べない。申し訳ない」
アルは悲しそうに俯いた。慌ててリンは自分の胸を叩いて言った。
「大丈夫だよっ、私が引っ張っていくから!」
「ほう、アルを連れて妾に付いてこれると?」
クッコロの目が妖しく光った。
「無理に決まってるでしょっ! ダッシュでもついて行けないのに。私がアルとクッコロちゃんを繋ぐの。
いくらアルでも、オークを背に乗せるのは嫌でしょ?」
クッコロはアルをチラチラ見て、気まずそうに頷いた。
大魔王が背に人を乗せるだけでもプライドが許さないだろうし、ましてやトラウマのあるオークでは言わずもがな。
最初はリンがクッコロとアルを纏めて抱き抱えようかと思ったのだが、オークに抱きつかれてトラウマが再燃する可能性を考えて、クッコロの足に掴まるリン、そしてその後ろにアル。
アルが落ちると不味いので、リンとアルは手を繋いだ状態だ。
「何だか窮屈じゃー」
文句を言いながらも、クッコロは空を舞った。
「ギャーッ! 速いよーっ! う、腕が千切れるよーっ!」
「う、腕がぁ!」
リンの腕が千切れそうとなれば、アルの腕も千切れそうである。しかし、気流で声が届かなかった。
リンとアルは、ジットストリームに翻弄されながらも、死にそうな思いで何とかしがみついていた。
そして、限界を迎えた頃、マラソン三日の距離を、一時間程度でスウトト山に到着した。
「う、腕が、腕が伸びた気がするっ! 思ったより息ができなくて、ほんと死ぬかと思ったよっ! クッコロジットストリームアタック、恐るべし…」
「し、死ぬかと思った」
アルは真っ青になって吐いていた。それでもオークに戻っていないのが健気だった。
「さ、風呂はどこじゃ?」
クッコロは、そんなことお構いなしに、そわそわと辺りを見回していた。
リンとしてはオークの集落に寄ってから山に来るつもりだったが、お風呂大好きクッコロちゃんは、すっかり忘れて山の中腹まで飛んできていた。
「あなた達、だあれ? ここは私のお家だよー?」
いつの間にやら、三歳くらいの青い髪の少女がそこにいた。頭髪から、ちょこんと二つの角が顔を出していた。
「にゃーっ! ぷ、ぷりてぃー! 何この可愛いお子さまは! むはーっ! たまらん、ほっぺたプニプニしたいっ!」
「なんじゃ、貴様は? 迷子になったのか? 一人でフラフラしてたら危ないのじゃ。妾と手を繋いでおくのじゃ」
クッコロはニッコリ微笑むと、女の子の手を取った。
「にょほーっ! 何なんですかっ! 美幼女姉妹ですか!? 初めてのお使いの撮影ですかっ!?」
「あらあら、素敵ねー。絵になるわぁ」
リンがスクショ連打を始めた横に、いつの間にやらオラクルが動画撮影を行っていた。
「おおっ、青龍の御子殿ではないかっ! これはこれは、失礼仕った。
私は、マウトトのオーク、アル。こちらは、神の子リン殿、美少女天使オラクル殿、大魔王クッコロ殿だ。
今日はスウトトの温泉に視察に参った。挨拶が遅れ、申し訳ない」
アルは女の子の前でかがみこみ、視線を合わせて言った。
「へー、青龍の子供なんだ。ちっちゃい角生えてるんだね」
「ああ、同じ龍でも青龍殿は四聖獣の一角。暴れるだけの黒龍とは格が違う。青龍殿に比べれば、黒龍など知性のない蛇も同然」
「へー、四聖獣なんだ。崇めたりしてるの? その割には敬語じゃないけど」
女の子は、オラクルに頬をつつかれたり、頬擦りされたりしている。
「部族内の上下はあれど、魔物には種族間の上下はない。武人はお互いを尊重すれど、遜りはしないのだ。
強ければ強いほど、格が高ければ高いほどその辺りには寛容だ。魔物ではないが、大魔王クッコロ殿も寛容であられる。それと似たような物だ。
さすがに四聖獣そのものには敬意を払うが、御子殿にまで跪きはしない。我らなりの礼を持って接するだけだ」
「ふーん、こんなに可愛いもんね。遜るより一緒に遊びたいもんね!」
リンはズレた言葉を返し、オラクルに混ざって、女の子を抱っこしたり頬擦りしたりし始めた。
「あははっ、なあに、お姉ちゃんー。やめてよぅー、あははっ」
リンは女の子を高く掲げてクルクル回っていた。
「リン、その辺にしておくのじゃ。親が心配しておるじゃろう。連れて行ってやるのじゃ」
クッコロはリンを窘めると、女の子の手を取った。
「して、その方、名は何というのじゃ?」
「私はねー、マリンっていうのー」
のんびりした答えに、リンは悶えた。
「か、可愛いっ! 私もこんな子、欲しいっ!」
「あらあら、ついに男に抱かれたくなったのね」
「ち、違うっ! それは無理っ!」
「あらあら、照れちゃって。隠さなくても良いのよ?」
「違うのー! 無理なのー! 想像しただけで、鳥肌が立つよっ」
チュートリアルで男だった記憶があり、女の子になってから日が浅いリンには、男に抱かれるなど生理的に無理だった。
「マリン、おぬしの親はどこにおるのじゃ?」
「うーんとねー、お出掛けしてるのー。お姉ちゃんとお留守番なのー」
「そうか、では帰ってくるまで、お姉ちゃん達とお留守番してるのじゃ」
「んー? お姉ちゃん達もお留守番ー?」
「そうじゃな、お留守番じゃ」
美幼女クッコロちゃんとプリティマリンちゃんの会話に身悶えた。
「はー、たまらん。今日は良い日だねっ!」
「ただ待つのも詰まらんのじゃ。一緒に温泉でも行くのじゃ」
「な、な、ナイスアイディーア! ぐふふっ、お姉ちゃん達と一緒に温泉に行きましょうね」
「マリン、あの変態には近付いてはならんのじゃ」
「ノーノー! 私、女、一緒っ。風呂入るだけ」
「あらあら、だから片言は古いと言っているのに」
「変態淑女の名に賭けてっ! R18なことはいたしませんっ!」
「あらあら、R15はするのね」
「オブジェクション! 言い掛かりです! 愛でるだけであります!」
「あらあら、逆転法廷海外版ね」
オラクルのツッコミはシンプルだ。
アルはついて行けずに呆然としている。
クッコロは華麗にスルー。
「変態は放っておいて、さっさと行くのじゃ」
「うん、分かったー。マリン、お風呂大好きー。こっちだよー」
マリンはクッコロの手を引いて、トコトコと歩き出した。




