グルメ番長、リン
「じゃあ、とりあえず黒龍出して切り分けよっか。腐ってないかな?」
「あらあら、大丈夫よ。あれも収納と同じ様に違う時空間に放り込んでいるから、時間はほとんど進まないわ」
「そうなんだ! さすがはポイポイコーポレーションだねっ!」
宮殿の大きな倉庫に移動し、カプセルから黒龍を出した。さすがはクッコロパレス、黒龍の巨体も収納できる倉庫があった。
「ほう、これはなかなか大きくて美味そうなのじゃ!」
「こ、これは! 本当にあの黒龍なのだな! これも一撃ではないか! 貴公等は本当に人間なのかっ!?」
「あらあら、違うわよ」
「うん、まぁ、違うかなー」
「違うのじゃ」
全員が否定した。
「考えたら誰も人間じゃないね」
「ええっ!? で、では貴公等も魔物なのか?」
「妾は大魔王であれど、魔物ではないのじゃ。誇り高きヌメック星人じゃ」
「私は、美少女天使、神ってるオラクルちゃん!」
「私も一応、神の子という体です」
「ええっ!? 大魔王で異星人と、神ってる天使と、神の子っ!? せ、世界を滅ぼしにいらしたのですかっ!?」
「まとめて言われると、無茶苦茶なパーティーだね…」
「あらあら、本当ね」
「前までは滅ぼすつもりじゃったが、今は違うのじゃ。良い女はそんなことしないのじゃっ!」
「これまでのご無礼を、何卒お許し下さい!」
凄い勢いで、アルは土下座した。久々のジャンピング土下座である。
「良いって! クッコロちゃんはともかく、私達は別に偉い訳でもないし。今まで通りにしてよ。ねぇ、クッコロちゃんもそう思うでしょ?」
「そうじゃな。良い女はその程度気にせんのじゃ」
「あらあら、私のことは敬ってくれて良いのよ?」
「もう、オラクルちゃん!」
「冗談よ、冗談」
リンはアルを引っ張り起こした。アルはまだ恐縮していたが、何とか今まで通りの対応をしてもらうことに納得した。
「包丁で切るには大きいし、刀で切ってみよっか。この刀結局一回も使ってないんだよね」
リンは白鞘の日本刀を抜いた。
「今宵の斬鉄剣は、血に飢えておるわ」
「うん? 妖刀には見えんのじゃ?」
「あらあら、何を言ってるの」
「これだったら、ムチャな惨状にならずに龍の鱗も切れると思うんだよね。ルピン三世テレビ版第一期量産型バージョン斬鉄剣! 量産型だから五左衛門も困らないし、第一期バージョンだから、コンニャクも切れるんだよっ!」
斬鉄剣はチュートリアル世界でも上杉謙信が鉄砲玉を切った物だとか、テレビの検証番組で作られた軟鉄に超合金で刃を付けたリアル斬鉄剣などもあるが、この世界で使うには心許ない。
やはりチート斬鉄剣と言えば、ルピン三世ということで以前マサムネと一緒に取り寄せた物だった。
斬鉄剣は設定がバラバラなので、ダイヤモンドが切れたり切れなかったり、コンニャクが切れたり切れなかったりするが、第一期バージョンはどちらも切れる。
マサムネほどおかしな性能ではなく、刀身より程良く長い範囲が切断される斬鉄剣は使い勝手が良さそうだった。
五左衛門の斬鉄剣もエグいバージョンでは、月や人工衛星など、衛星軌道まで斬撃が届くので、下手をするとマサムネより酷いので要注意だ。
第一期では盗まれたルピン二世の秘伝書から斬鉄剣が量産されているので、犯罪者から一本くらい借りパクしても良いだろうと返しもせず持っていた。
「とりゃー!」
気合いとともに黒龍が捌かれる。それを見たクッコロも何かを取り出した。
「中々良い刀じゃな! しかし、妾の神剣も一味違うぞ!」
クッコロは自身の身長程もある鞘から、大剣らしきものを抜いたが、刀身はなかった。
「大魔王時代は抜けなくなっておったが、やはり再び抜けるようになっておるのじゃ」
「えっ!? それまさか、やばい奴じゃないの!?」
「あらあら、うふふっ」
「せいっ!」
見えない刀身の一撃は倉庫の壁ごと黒龍を切断した。
「ふふふっ、さすがは神剣エクスカリパー!」
「いや、金髪女騎士といえばエクスカリパーだけれどもっ! 解体に使うようなもんじゃないでしょっ!」
常勝無敗の神の呪いの掛かった剣だった。
「エクスカリパー禁止っ!」
壁をクッコロ魔法で修復した後、全員で黒龍を何とか捌き、肉塊と牙や鱗などの素材に解体した。今日食べる分を除き、残りはカプセルではなく、新たに覚えた収納に入れておくことにした。
カプセルでは出すときに煙が出るため、コッソリ出すというのができないためだ。
肉を持って厨房に移動し、調理を開始することにした。
「しかし、一々遠いね。広過ぎてパレス内での移動が面倒だよ。ここはイベント用にして、やっぱりカプセルハウス出さない?
庶民は小さい家が落ち着くのよねぇ」
「あらあら、社長令嬢で開発者のカプセルハウスなんだから、そこそこ豪邸なんじゃないのかしら」
「旅用だからそんなに大きくなかったよ? まあ、テレポートで移動したら良いんだけど、クッコロちゃんは面倒じゃない?」
「まあ、自分は動かずに何でも持ってこさせておったし、そうでも無かったが、今は下僕共もおらんし、面倒かもしれんのじゃ。
別に妾がこの宮殿をここに出したわけではないから、どっちでもいいのじゃ」
「じゃあ、こっちはパーティー用ってことで、移動移動!」
クッコロパレスは見た目が格好良かったので、送り返さずそのままにした。
世界遺産レベルの温泉に、世界遺産レベルの宮殿で観光名所のようだった。
温泉から少し離れた見晴らしの良い所に、カプセルハウスを設置し、当面の住居とした。
「テレテ、テッテッテ、テレテ、テッテッテ、テレテ、テテテテ、テッテテ。お料理ターイム! 本日のメニューは、烏龍ステーキですっ!」
「あらあら、張り切ってるわね」
「なんか、楽しそうじゃ!」
「私は温泉から温泉卵を取ってこよう」
アルが卵を取りに行っている間に下拵えを開始。
「まずは血や筋などを落とし肉を掃除。厚めに肉を切り分け、数ヶ所に隠し包丁を入れ肉が縮むのを防ぎます。熱を入れると筋が縮むんだよね。
次に肉が熟成していないので、ローズマリー、タマネギやリンゴ、セロリなんかを刻んだ液に漬け込みます。エイジングみたいなもんです。野菜や果物の酵素がタンパク質をアミノ酸に分解して、旨味が深くなるんだよ。
で、半日くらい漬け込むんだけど…」
「半日っ! お腹減ったのじゃっ!」
「分かってますよ、お客さーん。ジャーン!」
リンの持つタッパーが一瞬消え、再び現れた。
「はい、ここに半日漬け置いた物がっ!」
「ええーっ! どういうことじゃ!」
「あらあら、巧いこと考えたわね」
「はいっ、これはですね、超能力収納を用いた時短マジックなのです! さっき、オラクルちゃんが収納やカプセルは時空間が違うって言ってたでしょ? ほとんど時間が流れないって。
だから、時間が止まってる訳じゃないの。で、元々時空間がズレてるから、入れたところから時間軸だけズラしてもう一度出すってわけ。
お取り寄せで色んな時間の物を出せるのと一緒なのよね。だから、できちゃいましたー!」
「もう、リンは訳が分からんのじゃ」
「あらあら、さすがは神の子ね」
取り出した肉は黒っぽく変色していた。
「それ、腐っておるのではないのか?」
「ドライエイジングだと黒くなったところ菌がいっぱいいるので切って捨てるんだけど、これは筋肉のミオグロビンが分解されて色が変わってるだけだから大丈夫! 美味しいよー、たぶん」
「た、たぶん?」
「うん、まあ本当はステーキじゃなくてローストビーフの下拵えなんだけど、牛だと美味しいよ。黒龍なんて食べたことないからね。まっでも、似たようなもんよ、きっと!」
「まあ、ドラゴン肉は美味いのじゃ」
「じゃあ、出して、塩胡椒。おお、さすがは社長令嬢。塩だけでも何種類もあるよっ! とりあえずピンク岩塩とブラックペッパーを挽いてっと。せっかくだから、ソースなしでこのお塩各種とワサビで食べましょ!」
「むむむっ、なんだか美味そうなのじゃ」
そこへアルが卵をもって戻ってきた。
「烏骨鶏の卵だ。この辺りのニワトリは、黒龍の影響か、烏骨鶏しかおらんのだ」
「おおっ、高級卵! 温玉につけて食べるのも美味しそうっ! ご飯がほしいっ!」
ほかほかご飯が現れた。
「うひょー! 今日のお取り寄せはナイスアシストだね! ちょっと泥棒だけど。
今度お米と炊飯器も取り寄せよっか。多めに取り寄せて一部残して、銀貨か金貨でも入れて送り返せば良心も痛まないし」
フライパンに油の固まりをいれ溶かし、ニンニクを焼いた後に肉を焼く。ジューッという焼ける音とともに、ニンニクの匂いが芳ばしい。
「あらあら、美味しそうね」
「美味そうな匂いなのじゃ!」
「本当に美味そうな匂いだ」
「白米も良いけど、ガーリックライスも捨てがたいっ! よし、両方やるかっ!」
「あらあら、男の子みたいね」
「お客さん! 焼き加減は?」
「レアじゃっ!」
「ミディアムレアでお願いね」
「私も同じで」
「あいよっ! まずはレアステーキ! 続いてミディアムレア! ボナペティ!」
暖めて置いた皿に、いつの間にか用意されていた焼き野菜の付け合わせが載っており、そこにそれぞれのステーキが載せられた。
「脂が載ってるから、ワサビだけでも美味しいと思うよ。お塩は左から、藻塩、海塩、岩塩、抹茶塩に、山椒塩、なんと燻製塩までありました! 温玉を載せても美味しいんじゃないかな」
「スープはインスタントのコンソメだよ。ゴメンね。今度烏骨鶏の鶏ガラスープを作ってみるよ」
「あらあら、リンは一体何を目指しているのかしら」
それぞれ思い思いの食べ方で食べ始める。
なんということでしょう。あの筋張って固かった黒龍肉がスポンジのように柔らかなり、ナイフがほとんど抵抗無く入っていきます。
そして切られた肉の断面からは、表面の焼き色からミディアムのピンク、そしてレアの鮮やかな赤へと美しいグラデーションが顔を出し、そこから溢れるように肉汁が零れます。
まずはそのまま一口。
「「「「美味ーっ!!」」」
下処理によって肉の臭みが消され、ニンニクの芳ばしい香りが鼻をくすぐり、食欲を刺激します。そして一噛みごとに溢れる肉汁が口内を満たし、口の中を旨味のプールへと変えます。
「な、なんじゃ、これは! 無茶苦茶美味いのじゃ!」
「美味しいねっ!」
「絶品だな」
「腕を上げたわね、リン」
「いや、生まれて初めて料理したけど」
料理スキルはチュートリアルの一人暮らしで身につけていた。
リンは次にワサビをチョイス。
ステーキに載せられたワサビの辛味が脂のしつこさを打ち消し、ワサビの刺激が鼻に抜け旨味だけが口の中に広がります。
ワサビを載せることによって、今まで美味しいと思っていた物のしつこさが分かるほどの、爽やかな味わい。
さらに藻塩や海塩は、ワサビに比べると脂のくどさは若干残るものの、丸みのある塩気が脂の旨味を強調します。
そして、連続で食べて重くなった口の中を、ホクホクの白米がリフレッシュ。
山椒塩はワサビとは違った舌が痺れるような刺激が脂くどさを打ち消し、食欲を増進します。
燻製塩は、仄かな燻製香が鼻腔をくすぐり、香りが旨味を一層芳醇な物に変えてくれます。
「妾はやはり岩塩じゃな! レアには藻塩よりもハッキリとした切れ味のある塩気がよく合うのじゃ。ミディアムならワサビかもしれんのじゃ」
「あらあら、うふふっ。そうねぇ、その点ミディアムレアは良いわよ。レアの良いところと、ミディアムの良いところどりだもの。
私は、山椒塩かな」
「私はどれも甲乙付けがたい! 黒龍自体も素晴らしいのだろうが、リン殿は強いだけでなく、素晴らしい料理の腕をお持ちだな!」
「ふふふっ、皆の者、満足するのはまだ早いぞ? 更なる一品を用意する故、マウリョ酒かこの烏龍茶で口の中の脂を流しておくが良い」
グルメ番長が現れた。
「ほほう、ステーキをもう一枚頼もうかと思ったのじゃが、まだ他にあるのじゃなっ?」
「あれね?」
「あれだ」
オラクルリンの心は一つ。
肉の油が残ったフライパンに、ニンニクを入れ炒めた後、バターと残った白米を入れ、白米の水分を飛ばすように炒める。
そして、最後に焼けたフライパンに、醤油を流し込むと、メイラード反応による醤油の焼ける芳ばしい匂いが、再び食欲を刺激し始めた。
さっと全体を混ぜ合わせると、皿へと移し、最後に粉末パセリをパラリ。
「あいよっ! リンちゃん特製ガーリックライスだよっ!」
ニンニクに加えてバター醤油の暴力的なまでの香りに、一堂は唾を飲んだ。
「「「うままま、まいっ!!」」」
「うーん、我ながら美味しい!」
「さ、最高じゃ! リンは妾の専属料理人じゃっ!」
クッコロは、思わずリンに抱きついた。初めてクッコロに抱きつかれたリンは、満面の笑みを浮かべた。
「ふふふっ、花嫁修業に協力しても良くてよ?」
「あらあら、うふふっ。あなた達本当に仲良くなったわね」
「人間の料理は皆これほど美味いのか?」
アルは唸った。
「さあ、どうかな? まだ何食も食べてないからなぁ。まあ、今日のご飯は食材が良かったのと、この家に置いてあった調味料なんかが一級品だってのが大きいんじゃない?」
どうやらアルは人間の食文化に興味を持ち始めたようだった。
「じゃあ、明日はスウトト山の温泉に行った後、街で食べ歩きしよっか!」
「おお、それはいいのじゃ!」
「いいわね」
「私も行って大丈夫だろうか」
「大丈夫、大丈夫。全然オークって分かんないもん。いやぁ女子会みたいでたのしいねっ!」
最後にマウリョをデザートにして、その日の晩餐は終了した。
料理を褒められたリンは、調子に乗って一人マウリョのジェラートを仕込むのであった。
最初は「ステーキ作った。美味かった」くらいで前話の最後に付けてたんですが、たまにはお食事回もいいかと、詳しく書いてみました。
いかがでしたでしょうか。
お楽しみ頂けたようでしたら、ご感想など頂ければ嬉しいです
アクセスは一時期ほど酷くないのですが、大して増えるわけでもないし、ブックマークや評価ポンイントも変化が有りません。感想も入らないので、正直楽しんでもらってるのか、どうなのか全然分かりません。
どなたか、一言で良いので感想書いていただくか、ブックマークとかリアクションしてもらえませんでしょうか。
もう一つの作品「ALICE」はもっと酷くてブックマークもゼロなんです。
http://ncode.syosetu.com/n0713du/
一度読んでみて面白いかどうか教えてもらえませんでしょうか。




