烏龍と烏龍茶とウーロンティー
温泉から上がった一行は、大魔王宮殿へと移動した。
「うわーっ、凄いねぇ。やっぱりクッコロハウスじゃなくて、クッコロパレスだねっ! 三人で住むには大きすぎるかなぁ」
「ううむっ、そうじゃな。元々大量の部下や下僕が詰めておったのじゃ、三人では管理も儘ならんかも知れんのじゃ」
『では、我らが詰めて下働きをしよう』
「えっ、悪いよ、そんなの。それに、申し訳ないけど、オークと一緒に住むのはちょっと抵抗があるね。
だって、人間の女の子攫って犯すでんしょ?」
リンは言葉の後半だけ、クッコロに聞こえないように声をひそめた。
『いや、他の部族はそうだが、我ら武豚村の部族は、そんな卑劣なことはせんぞ』
「えっ、村の名前、『北東のケンちゃん』の原作者に似てるっ!
あっ、それはどうでも良かった、犯さないの?
さっき、パートや山ブドウさんに、孕ませるって言われたり、股間おっ立てたりされたよ?」
『確かにオークやゴブリンは、人間と交配することがある。
だから、脅し文句として孕ます、犯すなど言うことがある。
山ブドウに関しては、右腕だった親父が一撃で倒されるほどの戦闘に、興奮しすぎたのだろう。戦闘自体に性的に興奮する、ヤツは特殊な変態だ』
「ああ、確かに山ブドウさんには犯すとか孕ますとか言われてないね」
「あらあら、リンに潰される前から変態だったのね」
『それに、わざわざ人間の女を攫わんでも、我ら女オークもおるし、第一、考えてみてくれ。武豚村の男共の一物が人間の体内に入りきれると思うか?』
「あらあら、うふふっ。山ブドウちゃんの潰れちゃったけど、大きかったものね」
「ああ、そう言えば、オークって女性居るんだね、イメージなかったけど。アルも女だし。
オークのはかなり大きいって聞くし、山ブドウちゃんのでなくても、入りそうにないね。
でも、他の部族ではするんでしょ?」
『ああ、そうだな。他の部族は体つきも筋肉質なだけで人間と大差ないから、性交可能なのだ。
だが、基本的に魔物は強きを好み、普通、自分達より弱い種族と交配することはない。
それは、自分が同族に相手にされないほど、自分が弱いと言っているようなものだし、弱い血が入ると部族が段々弱くなっていくからな。
山ブドウが股間を立てていたのは、本能として我らより強い貴公等の血を欲したのもあるのかも知れんな』
「なるほど。ところで、山ブドウちゃんとかパートって、本当に山ブドウとかパートって名前なの?」
『我らはマッチョ語で会話するため、人間が発音できる名は持っておらん。
貴公等の頭の中で、イメージに合う名に変換されているのだろう。
人間の言葉は、エンシェントドラゴンなど一部の高等種を除き、魔物には理解されない。
我が武豚村の部族は高等種なので、人間の言語も理解できるが、基本的には貴公等の言葉も基本的にマッチョ語として認識している。
だから、名前など気にせず、好きに呼べばよい』
「マッチョ語便利だねぇ」
「便利なのじゃ」
「あらあら、うふふっ。お茶でも入れてきましょうか」
『ああ、すまない、気が利かなかった。
姉御に入れてもらうなど、とんでもない。すぐ調理室から茶をとってくる』
アルは走って風情のある茶器と茶葉を取ってきた。
そして、金属製の水挿しに手をかざすと、アルの手から暖かな炎が出現した。
「あっ、アルも魔法使えるんだね。高等種だから? ハイオークとかオークメイジってやつ?」
『我らは、ハイオークやオークメイジではない。武豚族と呼ばれている。
私は魔法戦士なので、魔法が使えるが、皆が使えるわけではないのだ』
「あらあら、とても良い香りね」
アルによって淹れられたお茶から、芳しい湯気が上がっていた。
『ああ、この山で採れる、茶葉から作った烏龍茶だ』
「烏龍茶かぁ。ウロンティー思い出すなぁ。ヤマタノオロチにパンツ願ったオーク」
「ウーロンティー? 知らんのじゃ」
「ああ、ウロンティーっていうのはね。後空の友達のチビオークで、変化の術が使えるんだよっ!」
「ほう、変化とな? それは面妖じゃな」
『そうか? 我らも使えるぞ』
「ええーっ!?」
「あらあら、うふふっ」
『ほらっ』
ドロンっと、湯気のような白い靄がアルを包んだかと思うと、そこに見目麗しい人間の女性が現れた。
「ええーっ! す、凄いっ! 生で見るとなまらすげぇだ!」
リンは訛ってしまった。
「ほほう、これはなかなかじゃな。一見してオークには見えんのじゃ」
「そうね、本当に凄いわ」
「ありがとう。圧倒的武力の上に、こんな宮殿まで出現させる魔力まで持つ、貴公等の方が凄いのだが、その貴公等に褒められると照れてしまうな」
褐色の肌に、赤毛のショートカット。意外に長い睫毛と大きな瞳が愛らしい。
体つきは一回りか二回りほど小さくなったものの、その凶悪なスタイルはそのままだ。
「美人だっ!」
「美人ね」
「ぬぬぬっ、スタイルバツグンじゃっ」
美人度はクッコロの方が遥かに上であったが、幼女クッコロでは到底太刀打ちできないセクシーボディに、大魔王も唸った。
もっとも、成長したクッコロのスタイルは女神だけあって、黄金比のバランスで、アルよりも美しいのだが。
顔が豚だと今まで気にならなかったスタイルが、人間になると自分と比べてしまったようだ。
「しかも人間語喋れるんだね」
「生体の構造そのものが変わるからか、人間語も話せるようになるのだ。勿論、マッチョ語も可能だ」
「いやぁ、ハイスペックだ! うちの子凄いっ!」
「あらあら、いつの間にうちの子になったのよ」
「まあまあ、茶の替わりは如何か」
照れ隠しにアルは茶を勧めた。
「あっ、頂きます。そういえば、烏龍ってなんのことなんだろう。ワイバーンっぽい名前だね」
「烏龍というのは黒龍のことよ」
リンの疑問にオラクルが答えた。
「えっ、黒龍なのっ!?」
「そうだ。この山の山頂付近に黒龍の巣があってな。それでこの山で採れた茶は烏龍茶というのだ」
チュートリアルの世界でもこちらの世界でも、烏龍は黒龍らしかった。
「ほう、黒龍か! 今日の晩飯は決まりじゃなっ!」
「食べるのっ!? 何か毒ありそうだよ!?」
「はははっ、剛毅なことだ。黒龍は我らの宿敵。我が武豚族と覇を争っておる。
倒すなら倒してくれて構わんぞ?」
「あのう、もしかして、三日くらい帰ってきてなくない?」
「そういえば、今日は飛んでいるところも見ないし、鳴き声も聞こえんな」
「あらあら」
「多分、私、持ってる。黒龍の死体。やっつけちゃった、テヘッ」
テヘペロしてみた。
してみたら、オラクルちゃんがニヤニヤしながらスクショを撮っており、思ったより恥ずかしかった。
「や、やめてよ、オラクルちゃん! ちょっとチョケただけじゃない!」
「あらあら、見てリン。スクショ表示できるようになったのよ!」
オラクルが手を振ると、目の前に沢山の画像が浮かんだ。
「な、な、な、なんじゃこれはっ!」
クッコロは顔を真っ赤にして、自分の痴態を指差した。
クッコロがムツノちゃんに襲われている写真だった。
「ま、マズいっ! い、いや、か、可愛すぎて、ついっ! 本当に保存されてるとは思わなくてっ! ごめんなさい!」
「か、可愛すぎ? 妾が?」
思ったより怒られなくて、逆にリンは驚いた。
「えっ、だって、クッコロちゃんだよ?
この世のものとは思えないほど可愛いクッコロちゃんだよ?
大天使クッコロちゃんだよ?」
「そ、そうか! まぁ、美を愛でないのも罪なのじゃ。今後は撮る前に言うようにするのじゃ!」
「や、やべぇ! 照れてるクッコロちゃんが可愛すぎるっ!」
「大丈夫! ちゃんと今も撮ってるからっ! しかもバージョンアップで、動画撮影よっ!」
流石相方、言うまでもなく心は一つ。
「ぬなっ! ど、動画はダメなのじゃっ! 恥ずかしいのじゃっ! ちゃんと先に言ってくれないと嫌なのじゃっ!」
「「も、萌えー!!」」
真っ赤になって、手で顔を覆い、イヤイヤと首を振るクッコロちゃんに、変態二人はメロメロ。
「これはこれは、愛らしい。我が親父殿を一撃で沈めた猛者には見えんな」
異種族の文化の違いか、アルの発言に三人は気を取り戻した。
「うっ、その、なんじゃ。なんか、すまんのじゃ」
「私もごめんなさい!」
「ああっ、すまない。責めているんじゃないんだ。
前に言ったように、武人として正々堂々戦ったのだ、貴公のような雲上人と死合えただけでも誉れというものよ」
困った顔をして、アルは頭を掻いた。
「あらあら、やっぱり人間の顔の方が表情が分かり易くてはいいわね」
「そうだね。ねぇ、アルちゃん。変化してるのが負担にならなかったら、私達の前ではその姿でいてくれない?」
「分かった。特に負担はないので、問題無い。村の者達はいいのか?」
「えっ、皆、変化できるの?」
「小さい子供を除いて、ほとんどの者は可能だな」
「あらあら、凄いのね」
「ひ、閃いたっ! 閃いちゃったよ! 武豚村を人間の村に偽装して、ここを温泉郷として売り込まない?
レッツ、スパワールド!」
「うーん、人間を呼び込むのか? それはちょっとなぁ。
縄張りを荒らされるのは気分が悪いな。それに、人間を憎んでもいないが、弱者と馴れ合いたいとも思わん」
「そっかぁ。じゃあ、しょうがないね。
クッコロパレスも大きすぎるから、豪華ホテルにできると思ったんだけど」
「勝手にホテルにするでないのじゃ!」
「へへへ、ごめんなさい」
「あらあら、うふふっ」
「温泉なら、この山でなくとも、向こうのスウトト山にもあるぞ。やりたいなら、そちらでやってみたらどうだ?」
「へぇ、そうなんだ。今度行ってみよっか」
「ホテルにするなら、妾のビルを使ってもいいのじゃ。下僕共の宿舎に使っていたのが、余っているのじゃ」
「えっ、いいの? じゃあ、明日にでも行ってみようよ」
「では、明日案内しよう。途中に別のオークの集落があるから、人間を呼び込むならそちらにも顔を出そう。やつらも変化できるかは知らんがな」
明日はスウトト山に行くことにして、晩御飯を作ることにした。クッコロの要望によって烏龍ステーキだ。
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