旧世界
創作活動を再開しました~。
これからまた精進して参りますのでなにとぞよろしくお願いします~。
第3次世界大戦。
誰かがそれは世界の終りだと言った。
第3次世界大戦。
誰かがそれは新たな世界の始まりだと称した。
第3次世界大戦。
誰かがそれは混沌の繰り返しだと告げた。
ーーー当時それは絶対に起こりえない戦争だと言われていた。第1次、第2次を経て世界は軍隊や兵器を使った軍事戦争から貿易や企業と言った経済戦争へと移行していた。国家間の競争は人を殺し合うのではなく、間接的な国の潰し合いへと変化していたからである。
なぜか?
理由は簡単である。
それはアメリカという時の超大国が広範囲を一瞬で破壊するとある兵器を作ってしまったからだ。
それはソ連や中国、フランスなどの大国がそれぞれで総出を上げて開発に浪費を費やした。
それは小さな少年から始まり、大陸間を移動する方舟へと変わった代物だった。
核だ。
核の存在や影響は非常に大きく、使われるはずの戦争までもを変貌させてしまった。歩兵戦力はあまり重要視されなくなり、衛星や原子力潜水艦等、[核]を戦術的に公使する戦い方が重要視された。
そんな中、2042年に日本という1つの国家が震災の急激な頻度の増加や首都、東京に過去最大級の地震が直撃。国内総人口の急激低下や選挙における若者の非積極的な姿勢、それから来る汚職、他国の製品向上による競争敗北での企業の倒産により、経済は停滞し、国民の2分の1が失業者という状況になり、極度の税金徴収、ハイパーインフレーション、果ては、国民の亡命が相次ぎ、国家公務員までもが経済的に成長した朝鮮やカナダ、アメリカへと移っていった。
移住者受け入れ政策も考えられたが、[内の意識]が強い日本人には到底受け入れられない事案であり、そもそも金がない国に人など来る筈もなかった。
そして2051年、国民が200万人以下となり、当時の首相、細川貴樹は日本という、国家の解体を宣言。崩壊の一歩手前までに来ていたのである。
その2週間後、日本を再建するために中国、アメリカ、ヨーロッパ諸国がそれぞれ分担で支援し、経済を発展させ、日本国民を呼び戻すという初の国際連合連携政策、[ボルティモア政策]が実施されることとなった。
しかしそれは建前で実際は領土拡大や経済水域拡張、自国へ亡命してきた日本人を叩き出すというのが真の目的であり、肝心の国民を呼び戻すというのも、未だに問題となっていたパレスチナの難民や多くの社会的に地位が低い人々が移住したことにより、4割の日本人が国へ戻るということが困難な状況に陥る。
しかしこれらは意外な結末を迎えることとなった。
48ヵ国からの経済支援をうけた日本は劇的に経済を向上させ、当時100位以下だったGDP(国内総生産)で2位へと再び踊り出るようになる。
そして日本は日本という国名から[扶桑多民族共和国]へと改称し、他国の思惑を蹴って再び自国統治がされるようになった。同時期に全世界での石油が枯渇化し、石油の約200倍の燃焼力を誇り一度引火すると燃え続ける性質を持つ[核油]が日本海の海底および太平洋付近で発見されることになる。
この核油の発見により人類は永久機関の建造に成功。無限の力を得た人類の技術は急劇的に発展し、人類は永遠の栄光を掴む筈だった。
突如、再建したアメリカのミニットマン核ミサイル基地から実に15発のICBMが発射され、東京、愛知は壊滅的な損害を被る。
ロシア、中国は扶桑の保護を名目に核ミサイル迎撃用電磁投射砲[雷帝]12門を大阪、仙台、神戸に協同で建造、そしてこれらの都市を保護という名目で軍隊を駐屯させる権利を得る。
アメリカはこれを中国の工作を主張し、緩和していた3国対立は急激に深まった。
ヨーロッパ諸国ーードイツ、イギリス、フランス、イスラエルは事実解明のために調査団を派遣しようとする。
が、これをロシアと中国は拒否。
そして2037年、中国の管轄内にある[雷帝]が大阪湾に停泊していたアメリカのジェラルドRフォード級空母に向けて砲撃。
これを受けてアメリカは正式に中国へ宣戦布告。
これによりアメリカと中国は全面核戦争へと突入するかに思われた。しかし両国は核を互いに撃ち合わなかった。
いや、撃てなかったのだ。
ここにきて核抑止という机上の空論がこれを退けたのだ。
資本主義陣営と社会主義陣営を再び明確化させた各国は核に代わる兵器、すなわち[無駄な破壊をもたらさず、より戦術的に、より戦略的に有効な兵器]の開発をさらに促進させていった。
そして人々は歩めば世界が滅ぶと言われていた第三次世界大戦へと事を進めたのである。
「そして今、目が覚めると異世界に飛ばされていたという訳か」
ゼスティリカはそう言いながら最後の菓子を口に入れた。
「どうだ?少しは記憶が戻りそうか?」
呑み込んでから彼女は軽く唸る。
「駄目だ。思い出せない」
そうかと魔王は呟き、少しだけ落胆した。
旧世界の史実を話せば少しは甦るかと考えてはいたが、それでも彼女が目覚めたのはほんの1年前、3年掛けて記憶がある程度戻った魔王から言わせてみれば、英語が認識出来ている時点でも相当なものだ。だが、それまで待てる程の時間もないということも彼は再認識していた。
「まあ先程言ったことも考えておいてくれ。じゃ、俺はいくよ」
「待て」
魔王は扉へと向かう歩みを止めた。
「さっきも言った筈だ。お断りだ。その後も私は考えを改めるつもりは無いぞ」
お断りだ。その意味は彼女に対してデルネキシア帝国軍への入隊だ。彼女はその稀有な近接格闘術が見込まれ、魔女自らが推薦を出したのだ。
「では、どうすればお前は考えを改めるかね?」
「何?」
「どうすれば考えを改めるかと聞いているのだ。こちらへ渡ればバルツ公国の5倍の待遇を施してやるし、金もやろう。聞けばお前達は罪人や謀反を犯した者でも分け隔てなく治療するから[非国民の病院]と呼ばれているそうだな。」
バルツ公国は鎖国を長年行ってきた影響なのか、はたまた策略なのかは分からないが、国民は洗脳に近い上流階級の人間の教育だけを享受しており、中央集権を確固たるものにしていた。それにより本来は公共であり平等に使える筈の施設や援助を上流階級の人間の敵である[そういった連中]は利用出来ず、さらに洗脳社会から国民を救おうとして、皮肉にもその国民に反社会的な分子として認識され、迫害され、最悪の場合には冤罪で法の名の下として処刑されてきたのだ。
アイラの母親はまさにその上流階級の家系で本来は弾圧しなければならない立場でありながら、彼らに生活の費の援助や薬の提供を行っていた。
彼女には彼らは同じ国民でありそれらを甘受する権利があるという言い分があったからだ。
だが、上を盲信する愚かな民衆は聞く耳を持たず、彼女達を森深く奥へと追いたてていった。それでも彼女達は自分達が間違っていないと信じて日夜、町へ行ってまともに利用が出来ない貧者や彼らを連れてきては治療を施していった。
例え小石を投げられようとも。
懸命に手を差し伸べた。
だが、ゼスティリカが四肢を満足に動かせるようになり、仕事にも馴染んできた時にアイラの母親は憲兵に罪があるとして連行された。
その1ヶ月後、良く空が晴れている日に滅多に泣かないアイラが玄関で声を上げて泣き叫びながら原型を留めていない程に腫れた自らの母の首を抱きしめていた光景をゼスティリカは今の今まで頭から離れたことはなかった。
どうして彼女がこんな目に会うのか。
何も悪いことなど1つもしていないのに。
いや、理由なんてものは考察すればいくらでも掘り起こすことが出来た。だが、考えはしなかった。
考えたく、なかった。
代わりにアイラを守ろう、そう深く誓ったのだ。
ーーー[今は、仕方がないアイラ、お母さんはこんな残酷な終り方になってしまったけれど、私達は間違っていないと思う。これからも私達が支える。だから頑張ろう]
深く考えず、ゼスティリカは慰めのつもりでそう鼓舞した。
今になって思えばそれは鼓舞でも、慰めでもなく、彼女に対する呪いの言葉だったわけだが。
ーーー「そうだね。今は辛いけど私達は間違っていない。お母さんがしてきたことに私は誇りを持ってる。今回の件で私はこの病院を閉鎖するつもりはないよ。大丈夫!私達は正しい!お母さん、見ていてね。いつの日かお母さんがしてきた事が認められるようになる位に私達が頑張るから!・・・その為にゼスティリカも頑張ってよね!」
[ああ]
向日葵の様な明快な笑顔だった。今までに見たことがないような溌剌として、元気が溢れている。だが、それは全て偽りの表情なのだ。あろうことかゼスティリカ自身が彼女の感情の自由を圧したのだ。
それでもアイラが変わった直接の原因はやはりバルツ公国の体制だろう。遅かれ早かれ活動の限界は来ていた筈だ。
だが、今後の一切を決める権限はゼスティリカには無い。
待遇や支援等の話を持ち込まれても場違いというものだ。
それにこの身はアイラに救って貰った。もはやこの身体の使役は彼女に委ねようとゼスティリカは誓っている。
「アイラを治療してくれているのには感謝している・・・そうだな、とにかく彼女にその話をしてくれ。アイラがお前達に賛同するというなら私も賛同する。」
魔王は少し笑いしながら
「そういうことならもうすでに了解は得てるから君はこれで我が軍の義勇兵殿だ」
そう言うと魔王は椅子から腰をあげて古びたドアに手を掛けようとする。
「そういうことだから基地内は自由にしてくれて構わないぞ。好きにすると良い」
「いいのか?一応アンタの兵士を何人かヤっちゃってるんだけど」
「アイツらは全員親の七光りで入ってきたような奴らだからな。命令は聞かんし、親は親でウチの主戦力を護衛につけさせるし、 むしろ君のおかげで名誉ある戦死に出来て助かってるんだよねこっちは」
「後、何で君が[義勇兵]扱いになっているかは彼女に聞くと良いよ。ま、今日はちょっと無理そうなんだがね」
基地内を自由にと言ってもそもそも急ピッチで進めた仮の前線基地だそうだ。温泉もなければまともな食事もない。(あっても軍隊に入隊していないのでたぶん口には出来ないが)
時刻を見れば午前の3時と言った所か。
恐らくアイラは寝ているだろう。
昏睡状態から目覚めたとはいえ安静にはしているのが無難だということで、看護の名目でアイラは今拘束されている。危害は加えないという事を条件で。
・・・病院の皆は何をしているだろうか。
戦闘をした後にその相手の基地にお世話になっているという急すぎる展開に頭がついて行けなかったのか気が緩んでつい、頭に過った。
兵士達が血眼で探しいたのはどう考えても自分達の病院だ。
あの[男]は明らかに何かを隠している。
尋問の一切をしないというのも気掛かりだ。
そんな事を考えている内に何やら食堂らしき所で口論が聞こえてきた。何だ何だと歩みよる。
ここにおける食堂なんて言うものは良くある建物の中ではなく野外、すなわちテントを張って机を置いただけの非常に簡素な施設だ。それゆえに料理でのみ堪能することができる香ばしい匂いや群衆のざわめきが絶えず外に出ている。
その中で一際大きな声を
「だーかーらー、福神漬けをもっと多く入れろって言ってんでしょ!?英語分かりますかー?あーん!?」
見るからにさっき殺し合ったローブを来た女が騒いでいる。
そしてもう1人、文句を言われている瑠璃色と緑色が混じった髪を持つ短髪の少女が完璧な英語で話す。
「sorry I don't understand . What did you say?」
・・・完全に煽っている。
「いや、分かってんじゃん英語!分かってんならさっさと入れろこの○○!」
「?」
「あー!!!。このクソイタリア人!もういい!私が入れる!」
「No . You don't havethat right」
「だまれ!」
ローブを来た女がそう言って飛び掛かろうとする。
すると、長髪でいかにも大和撫子そうな美人が止めにかかる。
「待て、ジャンヌ。ここは食堂だ。兵士達の迷惑になる。」
「はぁ?私だって迷惑よ。別に全部とは言ってないわ、なのにコイツが後ちょっと欲しいだけなのに一向に入れようとしない」
「ここで1番悪いのは誰なのかあなたには分かるでしょ?斑鳩」
「誰が悪いというのは関係ない。ここだと邪魔になるから退けと言ってるんだ。」
「・・・どうせ福神漬けなんて私とアンタ位しか食べないんだから良いじゃない」
「だが、これは共用の添え物だ。お前だけの物じゃない。もしかしたら食べてみたいっていう奴がいるかもしれないだろ?ここの世界では貴重だ」
「ッチ!分かったわよ。我慢すりゃあ良いんでしょ!」
「ありがとうジャンヌ」
ローブは少し不満げにそういいながらご飯?と思われる物を運んで人混みの中へと消えた。
「It wasa great
performanceIKARUGA」
「ああこれで福神漬けは私とお前で山分けだ」
「ちょぉっと待てやぁ!クソ侍ぃ!」
鬼の顔をしたローブが走り込んできた。
なんという地獄耳。
「謀ったな!私を外れにしやがって!何の恨みがあるのよ!」
「恨みはない。ただ楽しみの福神漬けに集ろうときゃんきゃん鳴く野良犬がいたからそれをアルディーティと追い払ったまでさ」
「お前さっき共用とか言ってなかったっけ!?」
ローブが胸ぐらを掴む。そうしてぐらぐらと大和撫子を揺する。
「いいから寄越せってんだよ!○○引きずり出すぞ!」
「Jeanne,words are like a gang」
アルディーティと呼ばれた少女がジャンヌを止めにかかる。
時に、ふと私と目が合った。
アルディーティは少し動揺したような表情をするが、すぐにジとっとした顔に戻ってゼスティリカに呼び掛けてきた。
「あれ?ジャンヌと戦ってた子じゃん」
どよめきの中で少女達だけが沈黙を持っていた。