shutdown -c "Dead"
―――――西暦2016年、7月23日。16歳の夏。見慣れた白い天井が、ぼやけていく。
集中治療室のベッドの上で、細いチューブに繋がれた俺、久間真斗は、今まさに命の終わりを迎えようとしていた。
春先、ようやく高校にも慣れた頃、帰り道で急に血を吐き倒れた。
すぐさま病院に担ぎ込まれたが、その時には既に手の施しようが無いほど、俺の体は病魔に蝕まれていたらしい。
両親は病名を伝えてくれなかったが、自分の体がどんどん死に近づいていることくらい、自分が一番よく分かっている。
「それ」は入院して半月ほどでやって来た。
想像を絶する、という言葉では表しきれない程の痛み。
気が狂いそうになる、という言葉では表しきれない程の苦しみ。
これは助からない。
その実感を得るには十分な知覚だった。
とはいえ、今となってはそれもどうでも良い事だった。
もはや体は蹂躙し尽くされ、痛みや苦しみさえ鏖殺されてしまったかのように静かだ。
辛うじてこうして何かを考えている事は出来るが、この意識も、もうすぐ消えてしまうだろう。
ようやく解放される。
あれほど独りの病室で泣き叫び恐れた死が、今は、ただひたすらに救いだと感じる。
――ああ、そろそろらしい。
父さんと母さんは、ベッドの横に居るだろうか。やっぱり泣いてるかな。親不孝だなあ。
もはや首を動かして、人の存在を確かめることすら出来ない。
目に見えるのは、白い光だけ。
耳に聞こえるのも、こう、こう、という自分の血が流れる音だけ。
動ける内に、別れはひと通り済ませたつもりだ。
友と、恩師、これから友や恩師になる予定だった高校の皆、勿論、父さんと母さんにも。
それさえ出来ているなら、まあ良いか。そう思った。
正直、そのくらいが精一杯。
未練が無いと言えば嘘になるけれど、もう、生に抱く希望より、死に抱く希望の方が大きい。
――でも。
――もし、許されるのなら。
――もし、次があるというのなら。
――もう、少しだけ、生き、て、
そこで、ふつり、と。
久間真斗の命は、途切れた。