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001 ハロー ニューワールド

やっと続きが書けました。

お待たせいただいてたらすみません

真っ白に光る箱庭に立ち尽くす人がいる。

さながら、檻…そう、鳥かごの中に庭があるようだ。


うつむいて、両手を強く握っているのか手からは血が滴り落ちていく。

血の赤が目を引くのに、その人は霞がかかったように全体的にぼやけている。


勝手に動く足は箱庭に進んでいく。

俺自身の意思はどこか客観的にこの行動を起こす俺自身を見つめている。

徐々に進む足は歩幅を広げ、体は前に前にと走り出していく。


あと、少し


箱庭の入口まであと少し


進む体に勝手にはずむ心は懐かしいという気持ちで満たされている。

あぁ、そこにいたのかよ。

その時俺は、その人が兄ちゃんだとやっと気がついた。

兄ちゃんは俺の方を見ずにうつむいている。

声を上げれば気づくのだろうか。


なんで?

なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで?

喉が張り付いたように動かず、喉元に手をやった。

でも、いい。

会えればいい。

そんな思いをあざ笑うように突如目の前に現れた透明な壁に囲われて動けなくなる。

手で殴ってみても、脚で蹴りあげてみても出られない、檻のような何かによって拘束されている。

張り付いた喉を必死に震わせても音はこぼれない。


どれだけそうしていただろうか

透明な壁に叩きつけていた手は擦りむき、声を出そうと絞り出していた喉は引き攣りそうだ。

とうとう膝に力が入らず、左膝が落ち視線も足元を向く。

気力を出して顔を上げれば、兄ちゃんは虚ろな瞳で俺を見ていた。

「に・・・!!」


咄嗟に伸ばした手も、なぜがこの時は発することができた声も、届く前に真っ白になった。








「…兄ちゃん!!」


咄嗟に伸ばした腕は青空へ向けて空を切った。

呼吸は荒く、息をするのに肩をゆらさなければいけないほど、興奮していたらしい。

青い空に白い雲、鳥かごのような骨組みの屋根に自分の白い腕が不釣り合いだと思う。

むせかえるような温室内の花の香りで自分が今どこにいるのか、自覚する。


胸の上に乗せていた本を右手で支えながら腹筋を使って起き上がる。

勢いで俯いた視界に、さらりと薄茶の髪が流れた。


俺、藤 市類が転生してから7年の月日が経った。

現在の俺は、ウィリア・ファストという男の子に転生した。

やせ気味の体に薄茶の髪と紫色の瞳と現代日本ではいない配色だが、この世界ではまだ一般的な配色のようだ。


詳しい話を聞けないまま転生したこの世界は、剣と魔法と宗教のファンタジー世界だった。

この世界は、神が統治する世界だが、人間が神の怒りに触れ一度滅ぼされたらしい。

その後、神から依頼を受けた龍が世界を再生させ、眷属たる蛇に世界を守らせているらしい。

現在俺が置かれている立場だと調べられたのは、それくらいだった。


ちなみに、俺自身の意見としては王道の異世界転生ありがとうございます。

生活基準は中世より現代の方がうれしかったね!って感じだな。


コンコンッ


控えめなノック音が響き、温室のドアが開いた。

「ウィリア・・・?間も無くジェノス様の準備ができるから、あなたも準備して玄関にくるのよ」

「わかったよ、母さん」


今の母さんは、このヴァイオラドス大陸にあるミッレフォーラ国辺境伯であるネロー家で乳母として働いている。ちょうど、俺が生まれた日と嫡男であるジェノス様が10日程度しか変わらないことから採用されたとは聞いている。

父親はいない。

この城塞都市カッレに立ち寄った冒険者だったとは聞いている。

ギルド依頼でうちの都市に立ち寄った際に結ばれたらしいが、依頼終了を王都ギルドに報告してから戻ってくるという言葉を最後に現れなかったらしい。

おかげで母さんは捨てられた可哀想な人、俺は可哀想な子と裏で噂されている。

母さんと幼なじみだったネロー辺境伯が助けてくれなきゃ、母さんは実家の子爵家を追い出されて路頭に迷う所だった。


証明するものは、俺が受け継いだ薄紫色の瞳と右手の中指に輝く青い石の指輪だけ。

正直、前の両親と比べてしまったことはあるが、母さんはいい人だと思う。

ちょっと押しが弱いのは玉に瑕だけどね。


さて、行くかと俺は着ているノーカラータイプのシャツを整えて、温室入り口側に置いていたネイビーのジャケットを手に取った。

温室を出て、廊下を歩いていると、玄関が騒がしい。

くすんだ金髪に赤い瞳の少年ージェノスと黒髪をひっつめたネロー夫人、そしてネロー伯が立っていた。


「お待たせして申し訳ございませんでした」

「遅いぞウィリア!この僕を待たせるなんてダメだぞ!!」

「・・・(はぁーっ)」

「問題ないよ、ウィリア。ジェノス、ユーリア時間には間に合っているんだ、問題はないだろう。」

「・・・はい」

「でも!・・・はい」


時間はあと半刻ほどあったはずだが、今日の行事を楽しみにしていたジェノス様とユーリア様が早く準備していたらしい。

態度を注意された二人は不満そうだし、ユーリア様に至っては眉を顰めている。

ユーリア様は王都の公爵家からのお越しだから辺境での生活があまり合わないみたいでいつも不機嫌そうだ。

そこに準備が完了した馬車がついたと家令からの連絡が入った。

「さぁ、魔力適正検査に出かけようか」


この世界では、魔法というものが存在している。

一般的に四大元素に準じた火・水・風・土、それにあまりいないが光と闇、稀に他の属性を持つ場合もある。

一般人ならばだいたい1〜2属性、能力が高い人だと3〜4属性の適性があると言われている。

そう、適正であって、すぐに使用できるものではない。

普通の人はその属性があったとしても、必要にならなければ生活魔法以上の能力を伸ばそうとはしない。

貴族などでは、相手との交渉の材料ともなる為、魔法の技術も磨く人が多い。または冒険者や錬金術師などは積極的に魔法を学ぶと聞いている。


家庭因子が関係しているとも聞くし、隔世遺伝することもあるらしい。

例えば、ネロー伯は火属性に弱めの土・風属性のトゥレ(3属性)だ。ネロー夫人は火・土属性のドゥエ(2属性)だから息子であるジェノスは火・土の可能性が高いが、祖父が持っていた光属性が出る可能性もゼロではない。

俺については、母親であるマーリエは風・土属性で冒険者であった父親は少なくても水属性と何か特殊な属性が使えたらしい。


その属性を知る為に、この国では全国民に7歳での適正検査を義務付けている。

カッレでは大広場で魔法学院カッレ支部の人たちが準備を進めている。

適正診断の水晶玉に両手をかざして魔力を通す。すると、適性が解析され水晶玉と繋がれた自動筆記の道具に伝わり記入したものを渡される。自分の属性を知るだけなので、特に何かに登録されることはないが、今後の生活に関わるということで、注目されている行事だ。

今年の開催は今日と半年後だ。つい先日7歳になった俺とジェノスはネロー伯に連れられて、その会場に来た。本当は俺と母さんは別で来るつもりだった、ネロー夫人もいい顔しないし。

でも、ネロー伯が一緒に行こうと強く勧めてくれたので、俺たちは一緒に来ている。


「お母様、僕、きっといい結果を出します。素晴らしき血を引いている僕だから誰よりも強いはずです。」


子供なのに下卑た、見下す笑いを浮かべるジェノスに眉根を寄せる。

こいつは、ネロー伯の実の子であるということに誇りを持っているが、俺といつも比べられていたことでいつしかこんな物言いをするようになった。

転生をしてすぐの頃はジェノスと一緒にいることが多く、転生前のアドバンテージもあるから早く動けるように、そしてこの世界を知らないといけないと動いていたせいで、ジェノスより優秀と見られてしまうことがあった。そのせいでネロー夫人はジェノスを責めたらしい。

俺が知ったのは、母さんにできることを人前でやらないこと、喋らないことを念押しされた時だった。

性格が歪んだジェノスはまず徒党を組むことにして、近くの子供に俺と遊ばないように命令したらしい。

反発した子も何人かいたみたいだけど、親にジェノスの言うことを聞くように言われたからごめんと言われた。

まあ、俺からしたら、転生前と合わせて20年近く生きている記憶があったから気にもしなかったけど。


「まあ、結果は神のお導きだよ」

そう言って、ネロー伯は頬杖をついて馬車の外に視線を流した。

その言葉にユーリア様が眉根を寄せたのが目のはしについた。

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