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特別快速が暴走して

 ステンレス製のドアは、人間が体当たりしても壊れない。180センチの肥満女性は鋼鉄製のプロテクターで走行中の電車のドアに体当たりしたと思われる。

「私たちの要求は、女性を売り物にするグラビア雑誌や、異常性欲を扱った小説と漫画の出版の停止です」

 

 そのとき鉄道高架橋に警察官が登り沙織が乗っている車両付近に集まった。警官は拡声器で女性テロリストに警告した。

「大人しく、その女性を離しなさい!」

女性テロリストは反論した。

「うるさい!黙れ」

巨体の女性に捕まれたまま沙織は恐怖で何も言えない。沙織は声がだせない。


 その時、沙織の目の前に強烈な閃光と爆発音で、一瞬、目が見えなくなった。耳が遠くなった。意識が遠くなったときに、警官たちの足音だけが聞こえ、巨体女性の叫び声が聞こえる。


「きみ、大丈夫か?」

意識を取り戻した沙織は、暗く見える救急車の中を見渡した。耳鳴りがする。

「わ、私はどうして、ここにいるの」

記憶が混乱している。

「きみは女性テロリストの人質になったのだよ」

「そうですか・・・。思い出したわ。私が電車に乗っているときスキンヘットの巨体女が電車のドアに何度も体当たりして」


 救急車は救急病院に入り、沙織は1日中、精密検査され、そして事件の状況を警察官から詳しく聞かされた。沙織の友だちに会うことなく日曜日は終わった。



 月曜日、沙織は電車で職場に向かう。ポケットからスマートフォンを取り出すと、内部から火花が出た。周囲の人たちはポケットに入れたスマートフォンからの火花で火傷をした。

「熱い!」

乗客たちの悲鳴が聞こえる。


 沙織はスマートフォンをすぐに手から離した。電車のドアの上にあるモニター画面が消え、火花が散った。時速100キロで走る5両編成の通勤快速専用電車は、停車するはずの駅を通過し、そのまま暴走した。

「なんなのよ?どうして電車が駅に止まらないの」

電車の制御装置が故障し回生ブレーキ(自動車のエンジンブレーキみたいなもの)が利かないので、徐々に加速する。時速120キロを超えた。自動列車制御装置からの指令を受けなくなり、電車は多くの人を詰め込んだ金属製の棺桶へと変わった。


 運転手は緊急ブレーキをかけたが制御装置が故障しているため電車は止まらない。


 イスに座っているサラリーマン風の人が持っているタブレット端末から火がでて焦げ臭い匂いがする。


 電車はわずかなカーブにさしかかると遠心力で多くの乗客が倒れた。

女性の叫び声が聞こえる。沙織も倒れた。

「痛い!」


 次の停車駅も電車は止まらず、そのまま暴走を続けた。最終的には普通列車に衝突する。

「なんなのよ。この異常な早さは」

遊園地のジェットコースターの怖さとは違う。電車は衝突するか脱線転覆するかのどちからである。

立ち上がった沙織は、手すりを掴み立ち上がり、異常な速度で通過する景色をみる。沙織は死を意識した。


 そのとき海外旅行に行く時に使う台車付きの巨大な旅行バックに目を止めた。沙織は心の中で考えた。

「あの女性は異常なほど地味な服装をしている。もしかしたらテロリストかも。旅行バックの中からマイクロ波・電磁パルス発生装置を使ったかも」

そのテロリストだと思える女性は、マイクロ波で顔に火傷している。肌が真っ赤になっている。そのテロリストの周囲にいる通勤乗客も火傷して苦痛の表情を浮かべている。電池が切れるのは、ほんの数秒であるが、通勤電車の制御装置を破壊するには十分な時間である。


 電車は異常な速度で走り続ける。


 5両編成の通勤快速電車は暴走を続ける。最先端技術で作られたため多くの盲点がある。精密な電子回路の塊であるから、わずかな故障で制御不能となる。通勤快速電車はモーターそのものがブレーキになるから、それを制御する装置が破壊されたら、電車は止まらない。

「どこか、緊急停止装置がないか」

男性乗客の声がする。

「どこにもない」

製造コスト削減のため緊急停止ボタンもドア開閉装置もない。運転室にある緊急ブレーキもない。緊急時には全く融通が利かない。

「どうしよう。このままだと私たちは死ぬ」

1両20メートルの車両の前方にいる乗客はスマートフォンで警察に知らせた。電車の制御装置は破壊できても、電磁パルス発生装置の影響は半径5メートル。テロリストから遠い場所にいる人たちのスマートフォンは破壊されない。

「みんな、さようなら。特に黒猫ちゃんとは、もっと長くつき合いたかった」

沙織は死を意識して、つぶやいた。

「1分が1時間くらい長く感じるわ」


 マイクロ波・電磁パルス発生装置の周辺の人たちは火傷で苦しんでいる。電子レンジと同じ作用なので体内の内部を焼くことができる。

沙織は思った。

「近年増加している爆破テロは火薬や化学物質を使ったものが使わる。警察や市民との連携で防げたがマイクロ波・電磁パルスという方法は思いつかなかったわ」

沙織は電車の制御装置がある場所、マイクロ波で火傷して倒れている女性テロリストがいる場所に移動した。電車は大きく揺れている。

「ねえ、あんたのために私はもうじき死ぬのよ!私の人生を奪うなんて」

沙織は女性テロリストを思いきり蹴っ飛ばした。

女性テロリストは火傷で苦しんでいる。八つ当たりしても電車は止まらない。


 沙織の脳裏には思い出が走馬燈のように浮かび続けた。死への恐怖が収まった。

「私、小学生の頃が一番楽しかったわ。修学旅行は楽しかった。クラスメイトの女子とふざけたり遊んだり。それから中学3年の時の受験勉強はつらかった。進路のことでお母さんと喧嘩したわ。ごめんねお母さん・・・」

そのとき通勤快速電車は駅に停車中の普通列車に猛スピードで衝突した。


 前方から3両目にいる沙織の身体が空中に浮かんだ。投げ出されるとき瞬間的に目の前に立体的な映像として幼稚園に入る前のときから22歳の現在の時までの記憶が猛スピードで見えた。

「私、このまま死んだら恥ずかしい・・・。人に見せられないものばかりで・・・。私が死んだら天国に行けるの?死んだとき私のプライベートはどうなるの。でも、もう職場でのストレスを受ける必要がない・・・。お金のことに心配もなくなる。私は死ぬのね」

 沙織は不安と安堵感が入り交じった。沙織の身体は空間に浮かび続けている。それは沙織の体感時間であり、第三者から見れば1秒に満たない瞬間的な現象である。


 5両編成の通勤快速電車が衝突したとき、ものすごい衝突音がした。ステンレス製の車両は潰れた。一瞬で多くの乗客が死亡した。


 沙織は重症を負い救急病院に入院した。


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