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レンズ  作者: オリンポス
第一の事件(放火)
7/15

――第7話――

 山岸は柴口純平の案内で、ようやく応接室にたどり着いた。

 金色に輝くドアの取っ手を手前に引き、中に入ると、そこには高級そうな黒いソファが2つと、その真ん中に商談用とみられる机が1台設置されていた。


 室内の壁は、ほとんど白でコーティングされているので妙に明るく、それでいてどことなく森閑としたイメージを与えていた。窓はどこにも設置されていないが、エアコンのおかげで部屋は完全に冷えきっていた。


「そこに掛けてください」

 柴口純平は手のひらをソファに向けながら、山岸に言った。

「失礼」

 と言って、山岸はソファのところへ駆け寄った。


 座ってから室内を観察してみると、また新たな発見があった。といっても至って普通のことなのだが掛け時計があったのだ。時刻は正午を少し回ったところだ。今頃、社員食堂は人であふれかえっていることだろう。もっともこの会社にそれがあればの話しだが……


 そういえば柴口純平の方はなかなか座らないなと思い、入り口を見てみると彼は何者かと電話をしていた。

 しばらくでもなかったが、待っていると彼は戻ってきて、

「すいません、黙って席を外してしまって」

 と、謝ってきた。


「いえいえ。で、どなたとお話しされていたのですか?」

 山岸が訊くと、柴口純平は、

「受付嬢です。コーヒーとケーキを持ってくるように頼みました」

 と、答えた。


 すると山岸は、

「そうですか。で、コーヒーは甘いのでしょうね?」

 と、くだらなさそうな質問をぶつける。

「ええ。お好みに合わせて入れられるように、シュガースティックと、ミルクを持ってくるように言っておきました」

 柴口純平は至って真面目である。


「そうですか。コーヒーにはミルクや砂糖は入れる方ですか?」

「私は中学の受験勉強の日を境にブラック一筋の人間になりました。刑事さんはどうです?」

「そうかい、私はカフェオレみたいな甘いやつが好きですがね」

 取り調べの前なのに、どうでもいい会話がはずんでいるが、これは作戦でもあった。とりあえず警戒心をとかなければ何も始まらないのだから。


「そうですか。でも珍しいですね、その年齢で女性でもないのにブラックが好きじゃないなんて」

 こんな調子で本題に入れずにいると、

 コンコン、と応接室のドアが2度ノックされ、何者かが銀のトレーにマグカップとショートケーキを載せてやって来た。先程の電話の相手だろうか?


「ケーキと紅茶をお持ちいたしました」

 そう言って女性は、デスクの上にそれを置いて、

「失礼します」

 と、足早に去ろうとしたが、柴口純平が、

「あのさ……紅茶じゃなくてコーヒーと言ったんだけど」

 と、マグカップを見つめながら言った。

「失礼しました、作り直しましょうか?」

 女性が頭を下げ、こちらへやって来た。

「刑事さん、どうします?」

 純平が山岸に訊いてきた。一応、客扱いはされているようだ。


「そうだな~……」

 しばし『ギャグ』を考えた後、自信満々にこう答えた。

「公費で払うわけじゃないからコーヒーじゃなくていいよ」

 少々無理やりすぎたと感じたが、顔では笑って見せた。

「コ……コウヒ?」

 女性が首をかしげているのを見ていた純平は、

「公費とコーヒーをかけたんだよ。わかりづらいかもしれないけど」

 と、余計な一言を添えて説明した。

 兄弟そろって毒舌なところはよく似ている。


「かしこまりました、ではごゆっくり」

 そう言って、女性はこの部屋から出て行った。

 ドアが閉まるのを確認すると、純平が、

「さっそく良いですか?」

 と、取り調べられる気が充分な様子。しかし山岸は、

「食べてからでも遅くはないだろ」

 と言い、ケーキにフォークを入れて食べ始めた。


 純平も、「そうですね」と適当な相づちを打ち、食べ始める。

「しっかしあれだな」

 山岸が言った。

「どうかしましたか?」

 と、純平が返す。


「取り調べ中にケーキとはこの会社もずいぶんと景気が良いな」

 ケーキと景気をかけたのだ。純平はすぐに理解し、

「全くその通りで。このケーキも、刑事さんのギャグも良い味が出ています」

 とまで言った。


「そういえば刑事さん、イチゴ残してますけどお嫌いで?」

純平は空になった山岸のケーキ皿を見て言った。イチゴだけ残っているのも異様な光景である。

「何を言ってるんだ!」

 山岸は怒鳴るように

「これは最後まで残しておくべきだろう」

 と、言った。

「では最後に食べると?」

「そうだ」

 山岸はきっぱりと断言するように言った。


「ひょっとして、大好きなおかずは最後まで残しておくタイプですか?」

 と、無邪気に笑いながら純平は質問した。

「当然だ」

 と、またもや断言する。

「そう言うキミは、イチゴを食べ終わっている。最後まで残さないタイプだな?」

 探るように山岸は言った。

「はい。残しておくと、いつも幸治に取られてしまうので……」

 と、純平は答えた。

 



 純平の飲み食いが終わったところで、

「では本題に移ろう」

 と、山岸が口を開いた。

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