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少年とエルフ少女

 薄暗い路地裏を抜けたその場所は、素材の買い取りを専門にやっている老人が経営してる場所だった。そこに足を運んだバジルは、前回の仕事で手に入れた『猪の牙』を持ち込んでいた。最高の素材だといって持ち込んだその牙に、老人は熱心に鑑定していた。


「……お前、これどこで手に入れた? 俺でもはじめてみるぞ」


「そりゃ秘密よ。……で、幾ら?」


 老人はそれ以上聞く事もせずに、ただ溜息を吐く。バジルとは数年の付き合いだが、腕は確かでもこれ程の素材を持ち込む腕かと言われれば疑問だった。


「硬度やら魔力的な物……そのどれもが中々のもんだ。これを斬った『奴』は中々の腕だな」


 さらりと嫌味を言いつつ、カウンターに金を出す。それを見てバジルが何度か交渉して金額を吊り上げ……最後には『老人の思う通りの金額』となっていた。


「そんなに凄いの?」


「素材としたらな。大量に手に入るなら歓迎するぜ」


 バジルは、ルーデルの事を思い出す。腕も金もあり、おまけに次期大公……本気で落とすか? と真剣に悩み始めていた。


「それから気を付けろよ。情報屋に仕返しでもしたんだろうが、お前の事を嗅ぎまわっていたぜ」


「はぁ? あいつらが、偽の情報を渡したから金を返して貰っただけよ」


 またも溜息を吐く老人。そのままいくつか説明してやる。バジルに関してその戦闘スタイルから趣味趣向……その幾つもが無料や安値で情報として取引され始めたと……そして、その後はバジルの悪い情報を流して誰とも組めなくする……そこまで説明されるとバジルも流石に不味い気がしてきた。


 情報屋を甘く見たバジルが悪い。


「やり過ぎだ。事を荒立てて嗅ぎ回られたら、今後やりにくくなるって教わらなかったのか? あいつらを甘く見てると後悔する……悪い事は言わないから、もうこの業界から足を洗え。まだ間に合うぜ……色々とな」


 少しばかり周りの自分に対する雰囲気が、悪くなってきているのを感じていたバジル。このままこの仕事を続けるのも危険だと判断した。



「体中が痛い」


 あの森での出来事から数日経ち、ルーデルは学園の保健室……と言っても小さな病院並みの施設でベッドに横になっている。全身を痛みが襲い、治療魔法も効いてはいるが万能ではないという事だろう。


「無理するからだ。治療魔法が無かったら一月は動けない状態だぞ」


 そんなルーデルの傍にはイズミが控えて、ベッドの横で椅子に座って果物の皮をむいていた。決して上手ではないが、下手でもない。そんな感じで果物をルーデルに渡す。


「あと二、三日で退院できる。そうしたら一から鍛えなおすんだ……」


「その意気だ。でも今は安静にな」


 そんな会話をしていると、不意に病室の扉が開かれる。


「ご無沙汰しておりますルーデル様」


 そう言って入ってきたのはバジルだ。手にはお見舞いの品が……ルーデルは律儀だな、と思う。しかし、イズミは変に警戒していた。バジルがルーデルに近付くのを良くは思っていないのだろう。


「関係者以外は学園に入れないのでは?」


 それは、言葉の端端にとげを含んで現れるが


「護衛の件で、色々と報告に来たんですよお嬢ちゃん。それから大丈夫ですかルーデル様? あの時、もっと早くに助けていればと胸を痛めていたんですよ」


 白々しい言い訳をするバジル。イズミの嫌味にも大した反応はない。イズミは更に警戒するが……ルーデルは


「そ、そうか……」


 バジルの護衛の時よりも薄着で欲情をそそる格好に目を奪われていた。イズミはそんなルーデルに呆れてしまう。そしてルーデルの反応を面白いと思ったバジルは、そのまま近付いてルーデルの顔に自分の顔を近づけた。


「なっ!」


「お、おい……」


 目線がいろんな所に行ってしまうルーデル。そしてバジルが


「もしもこの身体がお気に召しましたら……好きにしていいんですよ」


 その言葉に、ルーデルが自分でも想像できない程に反応した。体が勝手にバジルに飛びつこうとしたのだ……しかし、ルーデルは体中が痛いのだ。そんな時に急激に動けば……


「ぎゃぁぁぁ!!!」


 当然痛いし、苦痛でのた打ち回るのも痛い。バジルもその反応には驚いて、ルーデルから離れてしまう。そんなルーデルを見てイズミは


「自業自得だ」


 そのまま体をさすってやるのだった。



「雇えだと? 学園に居る時に雇えと言われてもな……それに、護衛も学園内の騎士や兵士で間に合っている」


 ルーデルが、何とか痛みを和らげた後、バジルは目的である自分の売り込みの話を始めた。冒険者としての力量はルーデルが見ているし、自分の魅力も理解している……しかし、ルーデルは難色を示す。


 ルーデルにとって、学園に居る時は使用人を置きたくない。といった感情が出てきてしまう。……いい思い出がない事も大きいが、それ以上に、自分の事は自分で何とかなっているからだ。


「そ、それでしたら……そう魔法! 魔法の実践的な使い方をお教えします!」


 必死に色々と考えるバジルが適当に口にした言葉に、イズミは不味いと思った。ルーデルの性格を知っているイズミは、バジルを雇うだろうと確信したのだ。


「本当か! 確かに、森であの猪を焼いた魔法には驚いた。同じ魔法とは思えなかったが……俺にも可能か?」


 何とか切っ掛けを見つけたバジルは、これでもかと言うほどに自分を売り込む。姿勢をただし、深々と頭を下げ……


「お任せください。魔法、特に攻撃魔法は私の得意とする分野です。ルーデル様を実戦でも使える実力にしてごらんにいれます」


「ならば雇う! いや、この場合は教えを乞う方だな。身体か回復次第、毎日朝晩訓練に顔を出してくれるか?」


「……え? ま、毎日? 朝晩ですか? ……朝と言うのは鐘七つくらいでしょうか?」


 突然、嫌な顔をするバジル。……彼女は朝に弱い。夜型の人間だから、と言うよりは、明け方まで遊び歩くらなのだが……


「鐘五つかな? 季節によっては四つだが……無理か? ならば残念だが、この話は……」


 バジルにとって、学園は安全圏だ。情報屋に自分の住んでいる場所を常に特定される状況で、護衛付きで給料まで貰える上に、大公の家の使用人と思われる事がどれだけ今後を不自由なく学園で過ごせるか……すぐに仕事内容とはかりにかけ、決断する。


「いえ、ルーデル様が望まれるのでしたら何時でもご指導させて頂きます」


「助かる!」


「……」


 ルーデルは喜んだが、イズミはあまりいい顔をしていない。バジルは、そのままルーデルの使用人として雇われる事になった。職員の宿舎を用意され、そこで生活する事になる。



 アレイストは、自分の部屋で今後の事を考えていた。自分が小さい時に書き記した日本語で書かれたノートを見ながら、自分の今後を思ってニヤニヤする。


「この後は、三学期の学年別クラス対抗戦、ここでイズミが、俺に惚れるイベントがあって……その後は、来年になると『第二王女 フィナ』と『クルスト』が入学してくる。クルストは、『じきに大公になるから』今のうちに好感度上げとかないとな! 戦争イベントで役に立つし」


 書かれている内容は、最終章の戦争編まで色々と書かれている。その内容にはルーデルは途中までしか出てこない。……いや、最後にルーデルの結末が曖昧に書かれていた。


『戦争から逃げ出したいルーデルが、味方に被害を出し逃走……敵の将軍に助けを乞うが、殺されて終了』


 その書かれた内容の題名には、『クルストとの友情イベント』と書かれていた。


「でも、ミリアがなぁ……何度か会う機会もあったけど、顔も合わそうとしない」


 ミリアとのイベントを失敗したと思ったアレイストは、ノートに『ミリアとの恋愛イベント』と書かれた一文に線を引いて消してしまう。


「まぁいいか」



 そんなエルフの少女ミリアは、学園入学時に出会ったルーデルの事を考えていた。あれから大分経つと言うのに、未だにルーデルの事が頭からはなれない。学園でも何度か問題を起こしているため、ルーデルは有名人だ。


 そんなルーデルの噂を聞く度に、ミリアは感情を抑えるのに必死になる。ルーデルは平民や異種族から不人気……嫌われているとも言っていい。何故なら、ルーデルは悪名高いアルセス家の嫡男。


 異種族を見下し、領民からはむしり取れるだけむしり取る。


 だが、ミリアにはルーデルが噂と同一人物に思えなかった。ルーデルの噂……初日にエルフの少女に言い寄り、その日のうちに女子寮に忍び込もうとした。その後も学園の女生徒に無理やり声をかけ……その事を思うとミリアは頭にくる。


「私には声をかけてこなかった……」


 その後も噂は広がるが、どれもがルーデルと言う酷い人間を表す。しかし、彼の周りの人間に聞くとそれとは違う反応が返ってくる。


 ルーデルのクラスでは、ルーデルの悪口は出てこない。地位のせいでもあるだろうが、それでも陰口も出てこないのだ。ルーデルは頑張っているとか、誰も見下さない……そんな話ばかり聞こえてくる。


「いったいどっちが本物のあなたなのかしら……」


 ミリアは溜息を吐く……そんな姿を見た彼女のルームメイトは一言。


「ミリア……恋してるな」

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