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女神と存在しない者たち

『それでいいの?』


 ウォータードラゴンが前を歩き、サクヤは後ろをついて歩いている。周りは危険なドラゴンばかり、気を抜けば殺されるかもしれない。緊張するサクヤに、ウォータードラゴンがサクヤの目的を聞いたのだ。アンデッドドラゴンの件は聞いたが、サクヤにはどうする事も出来ないと思ったためである。


 しかし、サクヤの目的を聞くとウォータードラゴンは切なくなった。短い命だが、それを捨てる決断をしたというのだから……魂を重視するドラゴンにとって、サクヤのこれからの行動はとても尊く感じられたのだ。


「こ、怖くて震えが止まらないわよ。で、でもね……しょうがないじゃない! 生きたくても生きられないの! もっと頑張りたかったわよ! もっと一緒にいたかった! だから……せめて最後くらい役に立ちたいじゃない」


 涙ぐむサクヤだが、ウォータードラゴンがサクヤに背を向ける。突然の出来事に、サクヤは驚いた。


『百年以上、誰も乗せた事がなかったのよ。感謝しなさい。まぁ、これからは男は乗せないと言い張るわ。一時的とは言え、今のあなたはドラグーンよ』


「ありがとう」


 背中に飛び乗るサクヤ。そして、ウォータードラゴンは薄く透けるような大きな翼を広げて飛び上がる。



 腐敗臭のする洞窟では、ルーデルがアンデッドドラゴンと対峙していた。完全に目覚めてはいないのか、下半身は動かず、上半身と右の翼のみが動いていた。ほとんどが骨だったが、腐った肉が無理やりこびりついている。とても醜いドラゴンだった。


『な、何故だ……何故、一人で……』


 ルーデルが現れると、取り込まれた黒い霧が悲鳴にも似た叫び声を上げる。しかし、声は以前よりも弱まっており、黒い霧の意識も段々と薄れているようだった。猪がルーデルに状況を簡単に説明する。


『不味いぞ。黒い霧はほとんど取り込まれている上に、アンデッドドラゴンは問答無用で襲い掛かってくる。正直に言えば、諦めて後退して欲しいものだ』


「それは出来ない相談だ。俺のためでもあるが、サクヤも黒い霧に用がある。退く事はできないし、出来そうにもないな」


 アンデッドドラゴンが、腕を使ってルーデルの所まで移動を開始したのだ。ガイアドラゴンの亜種であるためか、他のドラゴンよりも腕が発達している。腐った肉や、骨だけの身体で、見た目以上に素早かった。


 剣を抜き、ルーデルは左手を前に出すと光弾を撃ち込んでいく。


 光の弾が、何発もアンデッドドラゴンに降り注いでは爆発するが、まるで効いていないかのように突進してくる。急いでその場から移動を開始するも、ドロドロとし土でもない何かに足を取られる。粘り気もあり、逃げ回って戦う事を考えていたルーデルには非常に不利な場所での戦闘だった。


「想像以上に速い!」


『全力でないのは幸運だったな。まぁ、全力を出せれば外に出るか……その先は少し深いから注意しろ』


 落ち着いた感じの鳥は、薄暗い洞窟の中でルーデルに情報を与えていた。見えにくい場所での戦闘に、ルーデルも苦戦する。しかし、白騎士として目覚めたせいなのか、戦闘は思いのほか順調に進んでいた。光弾を使用し、隙が出来たら魔法剣で斬りつける。


 相手からの攻撃が届かない位置を確保しつつ、ルーデルはアンデッドドラゴンを押し始めていた。


「ほとんど骨だけの頭部で、何故こちらの居場所が分かるのか不思議だな」


 逃げれば追ってくるアンデッドドラゴンに対して、ルーデルは落ち着いて対処していた。だが、このままでは最終的に負ける事も予想する。しかし、振り回される手や翼を避けながら、助け出す事だけを考えていた。


『落ち着いている所を悪いが、このままではお前の魔力切れか体力が切れる。いずれは負けるぞ』


 鳥の判断は正しい。ここまで一人で戦えるルーデルは強かったが、所詮は人間の強さである。ドラゴンと比べれば見劣りがするのは当然なのだ。助け合う仲間もおらず、一人で戦うルーデルは戦いながら黒い霧を助け出す事も考えなければならない。


「勝敗よりも、今は助ける事が先決だ。俺はドラゴンを得るために来たんだぞ。勝つだけでは意味が無い!」


 ルーデルの自分に言い聞かせるような言葉に、猪が簡単な説明をする。


『あるにはあるが、元々ドラゴンの魂が問題だ。孤独や恐怖と言った感情に支配されている上に、外からの干渉を拒んでいる』


 猪の説明を、今度は鳥が引き継いだ。


『つまりだ。お前の声は届かない。黒い霧が干渉して失敗したくらいだからな。生者を喰らって魂まで奪いつくすようなものに、外から声をかけても意味が無い……そう、外からはな』


 逃げ回るルーデルだが、アンデッドドラゴンは今ままでと違った行動に出る。両方の翼を動かすようになると、徐々に全身が動くようになったのだ。圧倒的な体格差と共に、限定された空間ではルーデルが追い詰められてしまう。


 全力での攻撃を行えば、あるいは……そう思っていたルーデルだが、アンデッドドラゴンが全力を出すと予想を超えていた。サクヤのためにも黒い霧を救出する方針であり、全力を出して消滅させる事は避けた結果である。欲張り過ぎたのだ。


「焦り過ぎたな……」


 骸骨の頭部からは、瞳の部分に赤い光が宿りだす。まるで目の代わりをするかのように、ルーデルを捕えていた。剣を構え直し、アンデッドドラゴンを前に笑うルーデル。


 我がままな自分がおかしかった。ドラグーンを目指している自分が、ドラゴンと戦っている状況もおかしかった。そして、こんな状況でも諦めきれない思いがおかしかった。一人でドラゴンに挑むと言う、馬鹿な事を選んだ自分……しかし、後悔はしていない。


「お前を、絶対に俺のドラゴンにしてみせる!」


 ルーデルは目の前のドラゴンへと、大きく踏み込んだ。



 サクヤとウォータドラゴンは、ようやく洞窟へと辿り着いていた。入り口の辺りからは、戦闘音らしき叫び声や爆発音。そして、軽い地響きが発生している。


『……ここは、死んだドラゴンが未だに囚われた場所よ。亡骸が動き出すなんてね。永久に苦しむのは見ていられないわ』


 同族の苦しみに、悲しむウォータードラゴンだが、基本的に助ける手立てなどない。互いに不干渉なのだ。背中に乗るサクヤは意を決して洞窟の中へと入っていく。元はドラゴンが穴を掘り進めた洞窟で、ウォータードラゴンも余裕で通る事が出来る。


『緊張してるようね。今からでも遅くないはよ?』


「それは無理。だって……これくらいしか役に立てないから」


 震えながら笑うサクヤは、洞窟の中が気になってしょうがない。ルーデルが死んでしまうと、目的はほとんど意味をなさないからだ。


『追い込まれているわね。中の子も、あなたも……しっかりと捕まっていなさい』


 ウォータードラゴンが洞窟内を急いで進むと、激しかった戦闘音が急激に弱くなる。爆発音がしなくなったのだ。焦るサクヤは、大声でルーデルの名前を叫んだ。



「ルーデル!!」


 壁に激突したルーデルは、指先を動かす力も残されていない。頑丈に作られた鎧や剣のおかげで、五体は満足だが動く気力も魔力も底を突いていた。全力を出してきたアンデッドドラゴンと戦ってはみたが、切り札として用意していた全力の攻撃でも倒す事は不可能だったのだ。


 ふと、耳にサクヤの声が聞こえたが、それに返事をする事ができない。段々と近付く大きな足音と振動が、アンデッドドラゴンのものではないと気付く。


『来たか!』

『遅いぞサクヤ!』


 ルーデルの剣から飛び出して、以前の身体を魔力で作り出した猪と鳥が、必死でアンデッドドラゴンにしがみついてルーデルを守っている。しかし、振りほどこうともがくドラゴンに、すがりつく事しか出来ておらず、時間が無い。


 この時のためだけに力を温存していたのだが、ルーデルが死んでは元も子もない、二匹は出現した。出現し、時間を稼いでいたのだ。


「ルーデル……ッ!」


 サクヤが見たルーデルの姿は、へこんだり、傷ついた鎧を着た目の辺りを怪我したルーデルの姿だった。鎧の上からでは分からないが、身体も酷い事になっているかもしれない。


 鎧は黒く汚れ、息も荒くはないが弱かった。いつもの自信満々なルーデルの姿はそこにない。しかし、絶望した感じは無かった。口元が近付くまで笑っていた。


 近くにサクヤの気配を感じ、ルーデルは口から血を流しながら声を絞り出した。


「さ、サクヤ、に、げろ……」


 他のドラゴンが登場したのにも驚いたが、視力を失っては確認が出来ない。今はただ、サクヤを逃がして国に報告させようとルーデルは考えていた。無理をしてアンデッドドラゴンを目覚めさせたのだ。ルーデルは自分を無責任だと自覚しながら、失敗した事を受け入れていた。


 夢のために努力した事を後悔するでもなく、ただ結果を受け入れていた。サクヤは、結果を受け入れたルーデルを見てらしくないと思いつつ、ボロボロの姿から最後まで抵抗したのだろうと感じた。実際に、血を大量に流しており、ルーデルは瀕死だったのだから。


 だが、サクヤはルーデルに近づくと、ルーデルの額にキスをする。


「ごめんねルーデル。でも、ルーデルの夢だけは叶えるから……」


「お、ま……何を……」


 サクヤの涙が、ルーデルの頬に落ちる。ルーデルは、サクヤが何を言っているのか理解できなかった。そのまま意識が遠のいて行く……



「お願い、助けて! 私をあいつの所に!」


 ルーデルから離れると、サクヤはウォータードラゴンに手助けを頼む。猪と鳥だけでは、アンデッドドラゴンを押さえつける事も出来ないからだ。サクヤは、こうなる前に全てを終わらせるつもりだった。しかし、結果的にルーデルは重症で、アンデッドドラゴンは動き出してしまった。


『……いいわよ』


 ウォータードラゴンが口を開き、水を球体にしてそれを勢いよく放出する。口の中から水が出ているのではなく、口の先に周囲から水が集まり球体へと形作られていく。それを何度もアンデッドドラゴンにぶつけ、壁際まで吹き飛ばした。


 ルーデルとの戦闘で弱り、そしてウォータードラゴンは戦闘経験が豊富なドラゴンだ。ただの攻撃な訳もなく、水は相当な量が圧縮され、ぶつかると同時に爆発するように弾けていた。圧縮し、そのままレーザーのように放つ事も出来たが、目的に沿わないので加減をして攻撃している。


 猪も鳥も、アンデッドドラゴンから離れると、今度はウォータードラゴンが上から押さえつける。身体を維持できなくなったのか、骨や肉が簡単に千切れたり折れたりする。しかし、未だに動きを止める気配が無い。


 押さえ付けられたが、頭蓋骨はそのままにされていた。口を激しく動かして、赤く光った目の辺りも激しく動いている。すると、黒い霧が意識を取り戻し始めた。


『こ、これは……そういう事ね』


 サクヤが、限界に近い身体でアンデッドドラゴンの口に近付いてきている。大体の事を理解したのか、黒い霧は猪や鳥を相手に現状の確認をする。


『ドラゴンまで連れてきたのに、ルーデルにはドラゴンがいない訳?』


『想像通りだ。ルーデルはドラゴンには選ばれない』

『押さえ付けているドラゴンも、サクヤが連れてきたのだ』


『……あの時の女神よね? 随分と大胆な事を考えたわね』


 猪と鳥は、これまでの出来事を簡単にだが説明した。黒い霧は納得すると、最初の予定を変更する。当初は、アンデッドドラゴンの死骸を利用するつもりだった。だが、サクヤと言う女神の魂を持つ少女がいるのだ。全てが揃うのならそれに越したことはない。


『サクヤだっけ? いいのよね』


 目の前にはアンデッドドラゴンの頭蓋骨。サクヤは恐怖しながらも頷く。ウォータードラゴンはそれを見て、ルーデル以外が何をしようとしているのかを悟る。


 たった一人の人間のために、サクヤと三匹が犠牲になるという事を。


 サクヤは一度だけ振り返りルーデルを見ると、涙を流しながら笑顔で呟いた。意識を失い、倒れたルーデルを見て、肉体を得てからの事を思い出す。楽しかった思い出のほとんどは、肉体を得てからのものだ。誰かと常に一緒にいて、寂しくなかった。


 女神の時には得られなかったものばかりである。


「さよなら、ルーデル。大好きだったよ」


 サクヤはそのまま、アンデッドドラゴンの口の中へと飛び込んだ。元は、ガイアドラゴンの強靭な顎を持っていたアンデッドドラゴンによって、サクヤは一瞬で命を落とす。だが、サクヤの魂は取り込まれていく……それが狙いだったのだのだから……



『上手く行ったようね……次は私の番かしら』


『先に行くのか?』

『関係ない。我らは同じように消えるだけだ』


 動きを止めたアンデッドドラゴンから、ウォータードラゴンは離れる。サクヤや三匹の行動を見て、これから何をするかも全て想像が付いていた。だから提案する。


『同族を助けて貰ったから、私も手伝うわ。アンタたちだけだと不器用すぎるからね』


『そう、ありがとう』


 黒い霧は一言お礼を言うと、そのままアンデッドドラゴンに自ら取り込まれた。


『助けて頂いた事に礼を言う。ルーデルの事を頼む』


 猪も礼を言うと、身体が魔力となって掻き消えていく。光の粒になると、その光はルーデルの元へと向かう。


『何でこんな事をしたんだか……借りは返せそうにないな』


 鳥が愚痴を言うが、ウォータードラゴンは首を振る。


『元々は助けられなかった私たちの問題よ。何でここまで放って置いたのかしらね……まぁ、だから借りとは思わないで、安心して逝きなさい』


『……おかしなものだな。我らはどうして……まさかな……』


 何かを言おうとして、鳥も猪と同じように消えていく。だが、三匹とも満足した感じを受けた。鳥も光の粒となり、ルーデルの元へと向かうと、ウォータードラゴンが洞窟の中で咆哮する。同時に、洞窟は暖かい光に包まれた。


 洞窟からの咆哮が、ドラゴンの住処に響き渡る。



 ルーデルが意識を取り戻すと、目は見えないが暖かいものに守られている感じを受ける。目を開けると、そこは洞窟の中ではなく、とても広く何もない真っ白な空間だった。


「こ、ここは……身体が痛くない。俺はどうなった? 何で目が見える? サクヤたちは! アンデッドドラゴンはどうした!」


 意識を取戻し、徐々に今までの出来事を思い出す。だが、状況が理解できなかった。周りを警戒しながら思考していると、後ろから声がかかる。


『ルーデル、大丈夫だよ』


 振り向けば、サクヤが笑顔でその場に立っていた。ルーデルは安心してサクヤに近付こうとするが、いくら自分が進んでもサクヤとの距離は縮まらなかった。不安を感じて、ルーデルはサクヤに大声で叫ぶ。


「こっちに来いサクヤ!」


 サクヤは困った顔をして首を振る。すると、今度は右から声がした。黒い霧に猪と鳥の声だ。元の大きな姿をし、まるで安心したかのような雰囲気を出している。だが、そちらにも近付く事は出来なかった。


「何があった! ここはどこだ! お前たちは……」


 ルーデルは、悪い予感が当たっている事を内心で理解してしまう。だが、納得が出来なかった。サクヤが慌てるルーデルを見ながら、微笑んで両手を前に出して水でもすくう様な形をとる。手の平の上には、暖かい光を放つ何かが浮いていた。


『説得できたんだよ。この子の身体を貰う事が出来たの……この子はもう魂の流れに戻るから、身体は好きにしていいって。ルーデルにもごめんなさいって伝えてって』


「何を言っている! いいからこっちに来い!」


 手を伸ばし、ルーデルはサクヤを掴もうとする。しかし、サクヤは光をそのまま放すと、動こうともしない。今度は黒い霧がルーデルに話しかける。


『一人で馬鹿やって、挙句の果てには満足した顔で諦めて! 私との約束はどうしたのよ、この馬鹿野郎! ……一度だけは許してあげるわ。次は無いからね』


 次は猪だ。自分の番だと言いながら、ルーデルに言葉を贈る。


『意外と楽しかった。お前の邪魔をするためだけに産まれてきたが、我らも最後に抗えた気がする。これは礼だ。受け取って欲しい……抗うための力にしてくれ』


 猪がその場から消えると、ルーデルの装備している鎧や剣が光を放つ。武骨だった印象を受ける鎧が、綺麗に装飾が施されていく。剣にも鎧にも模様が浮かび上がった。左手には、今まで持っていなかった盾が現れる。大きな盾ではないが、こちらも剣や鎧に合わせた装飾がされ、模様が浮かび上がっていた。


 猪や鳥と同じような模様が、薄く浮かび上がる。


 白く輝くその姿は、まさしく白騎士に相応しい。


 次は鳥がルーデルに声をかける。別れを告げる周りに、ルーデルは心がかきむしられる思いだった。止めてくれと叫びたかったが、声が出ない。


『目を怪我をしたお前のために、特別な目でも送ろうか? いくつもあるから、少し多いと思っていた所だ。最後まで抗えよ……結果が分からないのは残念だが、お前なら……』


 ルーデルは、直後に瞳に何かを感じたが、今はそれ所では無かった。目の前で今度は鳥が消えたのだ。必死に走るが、決して距離は縮まらない。今度は黒い霧の番となる。


『私からは心をあげるわ。移り歩いて得た心だけど、得たのは決して悪意だけじゃないのよ。私からはドラゴンへ心をあげる……ここまでさせたんだから、次こそは最後まで諦めないでね! 皆があなたを応援しているわよ』


 黒い霧は晴れるようにその場から消えた。ルーデルは、サクヤを見てまた手を伸ばす。しかし、サクヤは手を取ろうとはしない。ただ、微笑んでルーデルを見ているだけだった。


『私があげられるのは、女神の魂よ。これでドラゴンの『身体』と『心』と『魂』が揃うの。きっと凄いドラゴンが現れるんだからね! 何と言ってもこのサクヤ様の魂を受け継ぐんだから!!』


 いつもの元気のあるサクヤの姿を見て、ルーデルは悲しくなる。自分の夢に、他人を巻き込めないと思って行動した結果が、全て裏目に出たのだから。


「俺のせいなのか? 俺が間違っていたのか? どうしてお前たちがそこまでする! これは俺の勝手な夢だぞ! お前たちを犠牲にする理由なんか……」

『あるよ!』


 サクヤがルーデルと対峙して、叫んで言葉を遮った。両手を腰に当てて、私は怒っていますとポーズをとるサクヤは、ルーデルを叱りつける。


『ルーデルの夢は、私にとっても夢なの! みんなが叶って欲しいって思う夢になったの! だから、もう一人だけの夢じゃないんだよ。イズミだって、リュークだって、ユニアスもレナも馬鹿なアレイストも叶って欲しいって願った夢なんだから! 沢山いたんだよ。ルーデルの夢を応援する人は沢山いるんだから!』


「それでも、これは俺の勝手な行動がまいた種だ。責任は俺にある!」


 だからお前たちが犠牲になるなと、言葉を続けようとしてルーデルは黙ってしまう。サクヤが涙を流したからだ。


『ごめんね。寂しかったよね。辛かったよね。でも、もうルーデルは一人じゃないよ。お願いだから気付いてよ! みんなが悲しむんだよ』


 その言葉に、ルーデルも涙を流した。何故かは分からないが、涙が溢れてきた。サクヤは涙を拭くと、笑顔になってルーデルにお願いをする。


『最後にお願いしてもいい?』


 ルーデルも、涙をぬぐうとサクヤに笑顔を向ける。無理をしているのが分かる、痛々しい笑顔だ。だが、情けない姿はサクヤも望まないだろうと思い、ルーデルは笑顔を作る。


「あぁ、今度は俺が叶える番だ」


『イズミの事、お願いね。大事にしてね? それから、みんなにも宜しくって言ってね。それから、それから』


 他愛無いお願いが続くと、最後にサクヤが真剣な表情でルーデルを見つめる。ルーデルに、跪いて祈りを捧げるようにお願いすると、ルーデルはそれに従う。一度深呼吸をしたサクヤは、イズミにしたように女神だった時に戻る。


 サクヤの今の姿は、以前よりも神々しかった。


『我は導く者、運命に抗う汝に道を示す者……汝、最強のドラグーンたれ。汝、最強の騎士であれ。汝、弱き人と国を守る盾となれ。汝はこれより『白竜騎士』なり。……さようなら、愛しき人よ』


 ルーデルの意識は、そこで再び遠のいて行く……

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― 新着の感想 ―
[一言] 最初は憎かったり、馬鹿だったりしたキャラなのに退場するときの喪失感がすごい・・・
[良い点] サクヤ様…… 涙が止まりませんでした [一言] 素敵な作品をありがとうございます
感想一覧
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