主人公と不良
無事? に学園に戻ったルーデルとアレイストだが、職業は予定していた物と違っていた。ルーデルはドラグーンを目指したが白騎士であり、アレイストが予定していた勇者は何者かに先を越されていたようで黒騎士へ……二人は予想外の事態に、学園で資料を探す事にした。
白騎士と黒騎士は、互いに争う運命。この女神の言葉を信じて色々と調べたのだが、結果として分かった事はその言葉を裏切るに十分な事実だった。
「……おい、そこの脳みそプリン。この資料にはお前がいう、争う運命とか関係ない事が書いてあるぞ?」
アレイストが、学園の図書館で机の上に大量の本を山積みにしながら元女神を睨む。
「へ、変ね。でも、私は実際にこの目で歴史を見てきたんだから、そんな本なんかより正確な情報よ!」
元女神が自分が正しいと主張するが、今度はアレイストと同じように、本に囲まれたルーデルがそれを訂正する。
「確かにクルトア王国の建国時に色々と白騎士、黒騎士が兄弟で争ったと記述があるな。だが、それ以上にそれまでは仲がよかったという記述もある。継承権や周りに担がれた結果が原因とも書いてあるな」
ルーデルは、本に書かれた内容を手元の紙に書いてまとめている。書かれている内容には、白騎士と呼ばれた騎士の事と、黒騎士と呼ばれた者の事だ。
白騎士の内容は、光り輝く剣と盾を持った騎士。黒騎士は、両手に剣を持った二刀流の騎士と書かれていた。無論、それは当時の白騎士や黒騎士の戦闘スタイルであろうが、情報を集めるルーデルは細かに書き出していた。
「う、運命何て所詮結果よ! 私が正しいんだから、さっさと戦って証明しなさいよ! あ、そこの黒騎士は、まだ見習いだったわね。可哀想」
ニヤニヤと見習いという部分を強調してアレイストを見る元女神。その言葉に反応するアレイストは、一冊の本を元女神に叩きつける。
「黙れよ脳みそプリンの元女神が! お前なんか女神から降格してただの能無しだろうが。いや、今はルーデルに養って貰っているから、ただ飯喰らいがお似合いだな」
「う、うぅぅぅ。ルーデル、こいつが私を馬鹿にするの!」
元女神はルーデルに泣き着くと、ルーデルは持っていたクッキーを元女神に渡す。その後、頭を撫でてルーデルは作業を再開した。
「二人ともここは図書館だから静かにしてくれ。ほら、これでも食べてろ」
「わぁい!」
美味しそうにクッキーを食べ始める元女神。そんな姿を見てアレイストは思った。
(こ、この元女神のくそババア、ルーデルに飼い慣らされてやがる。)
アレイストも作業に戻って色々と調べるが、白騎士に黒騎士というゲームでは存在しない職業に色々と悩んでいた。職業には大体の進むべき道がある。魔法使いからはじめて剣を学べばルーンナイトであるし、騎士から魔法使いになっても同じだ。
魔法使いがその道を進めば、大魔法使いといった職業になる。歩んできた職業の特技は引き継ぐのだが、アレイストにとって、未知の職業である黒騎士は特徴すら理解できなかった。
記述には、両手に持った二本の剣と闇を操ると書かれているが、アレイストにとっては闇ってなんだよ! そういった感想しか出てこない。気になって仕方がないから、元女神にも聞いた。だが、元女神の答えが酷い。
「何か、パーっと光ったり、ピッカァァァ! みたいなのが白騎士で、黒騎士は影がスゥゥゥってなって、グサグサ針が生える感じ?」
アレイストもルーデルも、元女神の言葉を理解できなかった。だからこうして自分たちで調べているのだ。
そうして分かり始めたクルトアの建国時の歴史だが、白騎士も黒騎士もその当時争った二人の兄弟以外は存在しない。と、いうよりもクルトア王国がそれを認めない、といった感じを受けた。
建国した黒騎士も当然だが、その黒騎士の兄は白騎士だ。いうなれば王族の職業といっていい神聖視された職業である。その事を知らなかったルーデルとアレイストにも問題はあるが、ルーデルはドラグーン以外の事に興味が薄く、アレイストはどうしてもゲームをプレイしていた時の感情や情報とこの世界と比べてしまう傾向にあるから仕方がないともいえた。
「おとぎ話にならないのは、王国の神聖な歴史であるからか? いや、それなら逆に広めそうなものだがな」
ルーデルの呟きにアレイストが答える。
「兄弟で争った末に建国だから隠したいとか? それなら白騎士を悪者にすればいいだけだし、でもどっちかといえば白騎士の方が正義っぽいな」
二人の考えにクッキーを食べ終えた元女神がドヤ顔で説明する。
「ふっ、黒騎士はお兄ちゃんっ子だったから、お兄ちゃんを悪者にする絵本や書いた奴を粛清しまくったのよ! あのヤンデレぶりは、当時の女神仲間と見ていてドン引きしたわね」
「ひ、酷いなそれは」
「ヤンデレってルーデルは分かるのか?」
二人のそんな感想に、元女神は調子に乗って当時の事を説明する。互いを高め合っていた有力貴族の兄弟だが、戦国時代にクルトア大陸が突入すると、その才能が開花したらしい。
「もう、二人して先陣で戦う姿とか格好いいんだから! それからしばらくしたら段々と戦乱が終わりに近づいてきたのよ。そうすると、兄弟のお父さんは歳になってきて後継者を選ぶ事になったわね。その時の前位に私の所に来たわ」
「それで白騎士と黒騎士にしたのか。その後、二人が争ったという事だな。運命とは関係なさそうだ」
ルーデルは争う運命は関係ないといった感じだ。それに対してアレイストは、違った考えを持っていた。
(元々、僕とルーデルは揉める事が多かった筈だ。僕は主人公役で、ルーデルはそんな僕の踏み台役。でも、今は逆といっていい状況……もしかしたらゲームの設定が関係しているのか? それなら、僕とルーデルは戦う運命にあるといっていい)
アレイストは、ルーデルの顔を見た後で考える事を一時放棄する。ルーデルと戦う事は試合ではあるだろうが、殺し合いをする気はない。そう思ったアレイスト。
そのまま調べ物を続けようとするが、騒いで疲れた元女神が机の上で眠りだしていた。ルーデルは本を直し始めると、アレイストにいう。
「今日はここまでにしようアレイスト」
「あ、あぁ」
アレイストもようやくゲームのイベントやこの変化した状況の危うさに気付き始める。
◇
自分たちの職業について調べ終わる頃には、帰ってきてから一月も時間をかけてしまった二人。そんな二人の出した結論は、白騎士や黒騎士といった事を隠そうという事だ。
下手に目立っても仕方がないのと、国の建国に関わるような職業では、今後の予定が狂うかもしれないとルーデルが判断したからだ。ルーデルはドラグーンになりたく、アレイストも別に目立つ事が目的ではない。アレイストは戦争に勝つ事よりも先ず、生き残る事を考えているからだ。
黒騎士とばれて、危険地帯に放り込まれる事は避けたかったアレイスト。これ以上のイレギュラーを避けたいのが本音である。ラスボスと戦って無事に勝利する事だけを考えていた。
「それはそうとアレイスト、お前は体術を学びたいといっていたな」
考え込んでいたアレイストに、ここ最近一緒にいる事が多いルーデルが話しかける。場所は図書館に向かう途中の道であった。もう職業の事で用はないのだが、普通に学生として利用するのが目的だった。
「確かにいったけど、お前の卑怯な体術はごめんだからな。なんで目つぶしとか普通に使うんだよ。卑怯すぎるだろうが」
「教えを受けたのが元傭兵の先生でな。こればかりは体に染みついたからどうにも出来ん。それで、お前の要望に合った体術を得意とする人物を探し出したぞ。すぐそこで控えている」
用意のいいルーデルだが、アレイストはルーデルのこういう所は信用していなかった。何かをすれば問題を起こすのがルーデルだ。悪意がないだけに余計に性質が悪い。
「……僕の要望は、強く格好いい体術だぞ。それも卑怯な奴じゃなくて、正々堂々とした物がいい、といったよな」
「任せろ! かなり強力な体術である事は保障するし、得意とする連中も卑怯な事は嫌う真面目な連中だ。みんな出てきてくれ」
「え、みんな?」
そういってアレイストの前に指導する連中を呼び出したルーデル。彼らは同じ学生だが、最高学年の上級生たちだった。背は全員が高く。筋肉の鎧を着たような身体と、恐ろしい顔付……虎族の男子である。格好も、どこか現代の不良を思わせるので、アレイストにとっては苦手な部類である。
「こいつを鍛えればいいんだなルーデルさん。そうしたら約束は果たして貰うぞ」
一番大きな虎族の男子が、アレイストを見た後にルーデルに確認を取ってくる。アレイストは状況が飲み込めないままにオロオロとするばかりだ。
「任せてくれ、イズミにも了承は得ている。アレイストに体術を教えた後、君たちと戦って俺が負けたら君たちの師匠となる約束。俺は誓ってその約束を守ろう」
ルーデルの言葉を聞いたアレイストは、色々とおかしいその内容にかみついた。
「お、おかしいだろうソレ! なんでルーデルが負けたらそいつらの師匠になるんだよ! 普通は逆、っていうか何なんだその約束は!?」
虎族の男子たちが、アレイストを睨んで威嚇する。
「貴様はルーデルさんの凄さが理解できんのか!」
「ルーデルさんは、俺たちの救世主なんだ!」
「貴様に、貴様なんかに俺たちの気持ちが分かる物か!」
「止せ、この問題は俺たち虎族の重要事項だ。アレイストといったな、理解しろとはいわん。だがな……体術を物にしなかったら殺すから覚悟しろこの野郎!!!」
そのまま虎族の男子たちに担がれて連れて行かれるアレイスト。そんなアレイストを笑顔で手を振って見送るルーデル。
「頑張ってくれアレイスト」
この時、アレイストにはルーデルが悪魔に見えたという。