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番外編 春っていいよね

 エルフの少女ミリアは、緑色の長い髪を揺らしながら歩いている。窓から空を見ると暖かい日差しを感じ、開いた窓からか受ける風もどこか優しくかおる感じがしていた。三年生が終わり、新入生たちが入寮すると何だか進級したんだと実感するミリア。


「なんだか長いような短いような。それよりもこの成績表は意外よね」


 校舎の廊下を歩くミリアは、掲示板を横目で見た後に立ち止まって考える。


 張り出された三年生最後の総合評価は、上位十名が名を連ねていた。そして意外にも一位はルーデルであり、その次にリュークとユニアスが続いている。総合評価は筆記や実技に課題の評価で決まる物だ。筆記が壊滅的なユニアスが上位に居るのは実技と課題の成績によるところが大きい。


 そしてリュークは筆記は完璧だが、実技の成績が平均よりも高いくらいである。それでも凄いのに一位ではないのは、それぞれで一位は取らないが全てにおいて二位や三位を確実に取っているルーデルのせいである。


 剣術ではユニアスに劣る。筆記や魔法ではリュークに劣る。だが、ルーデルは総合評価では一位なのだ。不得意な分野が少ないといえる。進路が、文官や武官で成績が大きく偏る上級生においては珍しい状態だ。


 イズミやミリアは名前すら載っていないが、成績が悪いという訳ではない。ミリアは自分を励ましつつ張り出された成績表から目を離して廊下を歩く。


(最初に会った時は貴族の馬鹿息子だと思っていたのに……本気でドラグーンを目指すのかしら? この成績なら将来は約束された物よね)


 出会いは最悪だった。絵本を読んでいたルーデルを馬鹿にしたのが始まりだから仕方がない。そのせいで未だにルーデルとの距離を縮められない。


 ふと開いた窓から外を見れば、新入生に声をかけている同じ学年の生徒たちを見かける。不慣れな新入生に声をかけているのは、アレイストとその友人たちだ。


「どう、これから道案内するけど、ついでにお茶しない?」

「お茶だけだから、ね?」


 ……ナンパしていた。入学当初は化け物扱いされていたアレイストも、今ではルーデルたちの影に隠れてしまっている。しかし、普段の行動や言動から四人はまとめて問題児扱い。アレイストに至っては、最初の頃よりも今が付き合いやすくなっているのに不憫である。


「竜馬鹿に魔法馬鹿と剣術馬鹿……アレイストは何かな? それよりもみんな空気読まないし、読む気も無いのよね。そのくせ成績上位だなんて」


 愚痴ぽっくなるミリアは、そのまま廊下を歩き出すとこれまでの事を思い出していた。入学当初は三公の嫡子三人が入学すると聞いて面倒臭いと思っていた。今では彼らの話題は笑い話が多いし、アレイストなどマスコットキャラ的な扱いを受ける事もある。


 リュークは魔法の実技で施設を破壊しまくるし、ユニアスも剣術の試合でやり過ぎている。アレイストは時々常識が欠けているのでは? と思える行動をする。だが!


「ルーデルが一番の問題児よね」


 リュークの魔法実験に参加して施設破壊を手伝い、ユニアスとの試合では会場を破壊し、アレイスト以上に常識が欠けているのか問題行動を繰り返す。その上、成績はいいし授業態度も真面目だから教師も注意しにくい。悪意がないから余計にたちが悪いのだ。


「何とかは紙一重か……」



 アレイストは友人のナンパに付き合っていた。正直、ナンパよりも友人と遊ぶ事の方が楽しいアレイストは、そこまでナンパに積極的ではない。そんなアレイストが校舎の方に視線を向けると、エルフの少女であるミリアが廊下を歩いていた。緑色の髪を揺らして歩く姿はどこか美しい。


 見とれていると、ナンパに失敗した友人たちから冷やかしの声が挙がる。


「なんだアレイスト、ミリアが好みなのか?」


「ち、違うって! ただ、廊下を歩いていたから……」


 否定するアレイストだが、元々は攻略対象キャラであるミリアに好意を持っていた。しかし、ゲームを通しての一方的な好意であり、ミリアという人物を決めつけていただけだったのだ。最近はルーデルの事もあってゲームだからという思考は抑えられつつある。


 そうして見た登場人物たちは、まるでゲーム以上に魅力的に見えた。ハーレムの一人としてしか見ていなかったミリアの存在が、こうして見るとハーレムに埋もれる存在には見えない。


 緑色の綺麗な髪に、白い肌と綺麗な顔立ち……スレンダーな体付きは、華奢に見えるが戦闘もこなすエルフの戦士でもある。彼女の戦う時に出すエルフの魔力の羽に、アレイストは何度か見とれた事もあった。冷たい印象と共に、気の強さも魅力の一つだとアレイストは思っている。


「気が強いし澄ましてるけど、ミリアは確かルーデルの事が好きだったよな?」


 そうしていると、友人の一人が衝撃の事実を突き付けた。友人に振り向くと大声で


「嘘だろ!」


「いや、本当だから。だからアレイストも早く行動に出ないと色々と手遅れになるぞ! っていいたかったんだけど……聞いてるアレイスト?」


「マジかよ……そんな、でも三公で成績優秀だし、顔もいいし、でも僕も顔は負けてないと……いや、他がほとんど負けてるから意味が……」


「ああ、またか」

「だな」


 落ち込むアレイストを慰める友人たちは、その日からアレイストの恋に協力するのだった。



 新入生が寮に入るという事は、卒業生たちがいなくなった後という事だ。五年生であった寮の監督生たちも入れ替わりを求められて……誰が監督生をするかでもめていた。


「俺は嫌だからな! 何でよりにもよって四人も超問題児が居る時に監督生なんかしないといけないんだ!」

「お前の家はアルセス家の派閥だろ? お前が監督生をしろよ」

「いや無理だから。ルーデルを止めるとか無理だから!」

「バーガスさんだけでも留年させればよかったんだ! そうすれば俺たちが苦労する事なんて……」


 意見が飛び交う男子寮の会議室では、白熱した監督生の押し付けが行われていた。通常は貴族の子弟がリーダーとなって、平民がその下について雑用をこなす。だが、去年は全員が平民出の騎士の資格を得た生徒で固めた特別対応をとっていた。


 ルーデルのせいである。異例の対応を取るきっかけになったのも、ルーデルが問題行動を繰り返したからだ。ナンパ事件に試合の申し込み、女子寮への侵入……


「あいつ女子寮顔パスとか何なの!? 羨ましいとか以前に尊敬するんだけど!」

「以前は女子寮に忍び込むのも恒例行事みたいなもんだったけど、流石に上級騎士のいる今の女子寮に忍び込む馬鹿はいない……よな?」

「無理に決まってるだろ! 第二王女様と噂でも立ってみろ。実家から追い出されるだけでも幸運だ」

「上級騎士って、王女様の貞操を守るのを理由に男子を斬り捨ててもいいとかいわれてるんだろ」

「三公は斬り捨てられないだろうけどな」

「もしも、だ。もしも監督生になってる時に、ルーデル以外の馬鹿が女子寮に入ったら……」


 静まり返る会議室。決まらない理由にはこれもあるのだ。フィナの存在が男子寮監督生の責任を重くしている。斬り捨てるのは脅し文句だろうが、それよりも今年入学する連中に馬鹿が出ないとも限らない。


「俺は絶対に嫌だからな!」

「し、新入生に問題児とかいるのか?」

「毎年いるけど、今年は侯爵家から何名か入学してるな……」

「ルーデル並みの大物ルーキーがいない事を祈ろう」


 監督生は、例年なら女子寮に忍び込む大貴族の子弟を見逃すのも仕事にしていた。それを理由に交友関係を築けるなら安い物だと思っていた所もある。今そんな事をしたら危険すぎるのだが。


 そうしていると、一人がイズミの存在を思い出した。唯一ルーデルを言葉で止める事が出来、残りの三公すらイズミの言葉には従うのだ。そんな奇跡の存在であるイズミの事は、ルーデルと同じくらいに有名だった。


「いや待って、確か四年生にイズミって外国の女がいたな? あいつに監督生をして貰うのはどうだ」

「非常に素晴らしい提案だが、無理だな」

「だよな」


 どうしてこんなに苦労しているのか、分からない五年生たち。その日は時間が来て結局監督生は決まらなかった。

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