剣馬鹿とゲーム馬鹿と……
二学期の基礎学年恒例行事はフィナ王女の事件をきっかけに見直しをされ、キャンプをする事になった。安全な河原でのキャンプに、フィナは感動して興奮して行事に挑んだ。二泊三日のキャンプに中に行われるのは、上級生による個人トーナメントだ。
授業や成績の内容で参加する選手を決め、参加資格を得た生徒たちが二日間で個人戦をおこなうのだが……今年の目玉であったルーデルは辞退してしまった。基本的に参加するのが四年生である事を考えると、十分に優勝候補であるルーデル。
そのルーデルの不参加で、個人トーナメントの決勝戦はユニアス対アレイストという組み合わせになる。実力と社会的地位によって勝ち進んだ二人は、決勝戦でまれにみる接戦を繰り広げた。それは、それまでの手加減された試合のうっぷんを晴らすかのような壮絶な物となる。
◇
「いい加減に諦めろアレイスト!」
自前の大剣を模した木剣を振りながら、アレイストに攻撃を繰り返すユニアス。木剣は、お互いにぶつかると激しい音と共に衝撃を生んでいた。アレイストは意外にも技巧派であるユニアスの剣に対して、風を纏った魔法剣で力押しをしていた。
「何で吹き飛ばないんだ! 普通なら打ち合う事も出来ないんだぞ! 去年とは違って魔力の出力だって上がっているのに!!!」
その力押しを繰り返すアレイストの剣を受け流し、ユニアスは渾身の一撃をアレイストに放つ。体格の恵まれたユニアスの渾身の一撃を受けて吹き飛ぶアレイスト……だが、吹き飛ぶと同時に魔法を連続で放つアレイスト。
「この! あいつと次に戦うまで負けられねぇ……そのまま寝てろ!」
魔法を受けて少し後ろに吹き飛ぶユニアスがアレイスト見る。だが、一瞬の隙に立ちなおしたアレイストは、魔法剣に魔力を込めなおしていた。木剣が音をたてて砕けだし、雷を纏いだしていた。
「負けたくないのがお前だけだと思うなぁぁぁ!!!」
それを見て獰猛に笑い出すユニアス。ユニアスの木剣にも魔力が宿り、お互いに相手に全力の一撃を繰り出した……
◇
「で、二人して入院している訳だが……優勝したユニアスの方が重症なのはいいとして、アレイストは本当に打たれ弱いな」
ベッドの上で寝ている二人を見て、リュークは溜息を吐く。激しい戦いの後に立ち上がったユニアスが優勝し、気絶したアレイストが準優勝である。ユニアスはリュークを睨みつけ、アレイストは目を逸らす。
「戦わなかったお前が言うな! それよりもルーデルは今日もクルストの所かよ……」
「あぁ、もう少しだったのに……凄く頑張ったのに……どんどん周りが強くなってるよ」
ブツブツと呟くアレイストを放って置いて、リュークはユニアスの問いに頷いて応えるだけだった。長期休みを挟んでから二学期にかけて、ルーデルは最低限の授業に出るだけだ。クルストの修行で時間を割いている。
「クルストって強かったよな? フリッツなんてそこまで強くないのに、なんでそこまでする必要があるんだ?」
アレイストが二人の会話から疑問に思った事を呟いた。それを聞いたユニアスが、アレイストに教える。
「クルストは、お前がいない時にボコボコにされてたな。強いかどうかは知らないが、アレはもう駄目だ。心が折れた感じだからな。……フリッツを見るとブルって何も出来ない筈だぜ」
「だから厳しく鍛えているんだろうな。ルーデルも弟に甘いな……妹にも甘かったな?」
「エルセリカ? 仲良かったとは思わないけどなぁ……(そこまで変わっているのかな? ゲームではルーデルよりエルセリカはクルストと仲良かったし)」
「いや、レナっていう腹違いの妹らしい」
アレイストはリュークからその名前を聞いて首をかしげた。アレイストは、この世界を舞台にしたゲームの登場人物で【レナというキャラクター】を聞いた事が無い。登場しない隠しキャラか? それとも設定だけのキャラ? そんな事を考えていたら
「……そういえば、フリッツも聞いた事が無い。モブだから見逃した? でもアイリーン王女と繋がりがあるのにモブは無さそうだし……この考えがいけないのか? じゃ、このあとに来るイベントも……」
「アレイストがまたブツブツいいだしたよ……時々分かんない事いうから困るんだ」
ユニアスは、考え込んでブツブツいうアレイストを見ながら溜息を吐く。アレイストの見舞いに友人たちが来るまで、アレイストは考え込んでいた。
◇
三年生になったミリアは、姉であるリリムの面会に来ていた。エルフの闇落ちは想像以上に完治が難しい。ダークエルフで無くなっても、心は蝕まれる。休暇中の姉の部屋を訪れたミリアは、心配そうに姉に尋ねたのだが……
「大丈夫? 結構経つけど……」
心配そうにするミリアに対し、リリムはオドオドと目線を逸らす……ミリアがルーデルの事を好きだと最近知ったリリムは、そんな妹に優越感を持っていたのだ。妹の好きな子と婚約していた事実に今更気付いて少し気まずかった。
「や、やっぱり恨んでいるんでしょう? 好きな男子と婚約者になったし、しかもそのまま婚約破棄になって……でもおでこに、キャッ!」
少しイライラしだしたミリアは、リリムに対しての切り札を用意する。
「げ、元気そうね。でも、婚約破棄したから意味無いでしょう? それに黒くなったのを見られてドン引きされたんじゃないの」
「お、おま! 妹の癖にそういう事いうの! 確かにあの時は迷惑かけたけど……」
そして契約者の気持ちを察して、ウインドドラゴンがあの時の事を謝る。契約したドラゴンは、距離が少し離れていても心で会話ができるのだ。
『すまないリリム……あのオーガを倒した時に我が炎を出していれば……だが、我も黒い炎は流石に無理のなのだ』
「い、いやぁぁぁ! 自分のドラゴンまでもが古傷を抉ってくるぅぅぅ!!! もう忘れたいのに! あの時の事なんか思い出したくないのにぃぃぃ!!!」
それを見て内心で笑うミリアだが、姉のこの姿に少し可哀想になった。普段は冷静である事が多いエルフにとって、ダークエルフの時の事は一生の恥だ。それこそ命を投げ出す者もいるから、家族が一定の距離を持って接する事で心の傷を癒してやる。
仕方なく姉にとって朗報を伝えるミリア。
「三学期にある基礎課程のクラス対抗戦なんだけど、仕事抜きで遊びに来ない? なんだかフリッツとかいう一年生と、アルセス家が揉めていて対抗戦の後に試合をするんだって。ルーデルもフリッツと試合をするし、学園でならあの時の事を謝れるでしょう?」
「……ミリア、なんていい妹なの」
『我もいこう。あの人の子には礼をいわねばならん』
「カトレアさんも来るけどね」
微笑ながらいうミリアに、リリムは何かを感じ取った。
「カトレアも来る? 辺境で仕事していたけど……それよりも休めるかしら? 仕事の調整って面倒臭いのよ。大した理由もなしに休むのも色々と問題あるし……べ、別にルーデル様の事が嫌いとかではなくて!」
「大丈夫よ。実は頼まれた事なのよ。一つ下の学年に白猫族の子がいてその子が姫様と友人なんだけど、姫様がもしもの時のために来てくれないかって」
リリムは少し考えてから理由を聞いてみた。そうするとフィナの姉であるアイリーン王女もお忍びで来るらしく、公式でないために護衛が少ない、と……
しかしそれは表向きの理由だった。フィナは、姉が上級騎士や護衛を多く連れて来る事を知っている。昔の事で姉が護衛の数を減らす事は無いと考えているフィナ。そして、もしも何かあった場合にルーデルに好意的な者たちを集めておこうと考えていたのだ。
その事を知らないリリムとミリア。
「それ仕事じゃない?」
「違うわよ。だってお金でないもの。でも、ルーデルには会えるわよ。それに姫様の、フィナ王女の願いなら理由にもなるでしょう?」
その言葉にリリムはクラス対抗戦の時に休暇を取る事にした。休暇中に学園にくる騎士の事までは調べないだろう、そう考えながらフィナもクラス対抗戦後に向けて準備を整えていく。