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主人公と友人

 食堂での暴動から数日……クルストは寮の自室で震えていた。あの日から誰もが彼を見下すのだ。貴族は彼を面汚しといい、平民も敵だといわんばかりの目で見下してくる。クルストは授業にも出ないで、ただ震える事しか出来なかった。


「どいつもこいつも好き勝手いいやがって!」


 毛布に包まりながら叫ぶクルスト。その時、鍵をかけていたドアが強引に蹴破られる。そこにはクルストの兄であるルーデルが、寮の管理人と共に立っていた。クルストは一度部屋のカギを無くしており、管理人が持っていた予備の鍵を使用していた。


 ルーデルがクルストの部屋に入ろうとしたのだが、それが理由で開けられないといわれて無理やり入室したのだ。管理人と一言二言話すルーデル。修理代はルーデルが払うといい、管理人はそれに頷いてその場を後にした。


「……クルスト表に出ろ」


「な、何をしているんだお前? 表にでろ? 勝手に部屋に入るな。すぐに出ていけ!」


 混乱するクルストが、ルーデルに対して大声で怒鳴る。それを聞いたルーデル……強引にクルストを抱えて部屋から連れ出した。そのまま男子寮の中庭に出て、ルーデルはクルストを放り投げる。木剣が二本用意してあり、ルーデルは一本をクルストに投げて寄越す。


「拾えクルスト」


「お前もか……そんなに嫌いか? どいつもこいもいじめてきて……」


 ブツブツと呟きだすクルストは、ルーデルを見ようともしない。それどころか軽く震えている。そんなクルストを無理やり立たせて、ルーデルは胸ぐらをつかむ。


「今日からお前を鍛えてやる。学園や実家の許可も取ってあるから抵抗しても無駄だ……構えろクルスト!」


 怯えるクルストが見たのは、真剣な表情をしたルーデルだ。その真剣さと怯えたクルストには反抗出来ない気迫のような物によって、渋々木剣を構えるクルスト。


 その日からクルストの厳しい修行の日々が始まった。



 数週間後、真新しくなった学園の食堂で、取り巻きと共に食事をしていたリュークのテーブルにユニアスが取り巻きと共に現れた。堂々とリュークの前に座るユニアスに、リュークの取り巻きたちは文句をいおうとして止めた。顔が真剣そのもので、雰囲気もなんだか怒気を纏っている。


「幾つか聞きたい事がある。俺の補修中に色々あったようだが……」


 いいかけるユニアスの言葉を遮り、リュークは話し始める。


「フリッツの事か? ナンパをしていたアレイストの友人を殴ったとかで、アレイストにボコボコにされて入院中だ。最初は仲裁したらしいが、友人に非が無いと知ると本気を出したらしいな……大人げない奴だ」


「違う! それじゃなくて……アレイストがフリッツを殴ったのか!?」


 アレイストの話題に食いつくユニアス。本来知りたい事では無かったらしいが、興味が出てきたのかリュークに尋ねる。


「有名だぞ? からかったつもりだったんだがな。反省はするが後悔はしない、とかいっていたらしいぞアレイストの奴」


「そうか、少し気が晴れたが……それよりもフリッツが何で処罰されてねーんだよ! それからルーデルだ! あいつが二学期の個人トーナメントを辞退したってのは本当か!」


 リュークがユニアスの取り巻きを見ると、気まずそうにしていた。大方取り巻きが、補修中の出来事を話している途中で自分の所に乗り込んできたんだろう、そう判断したリューク。


「脳筋が……貴様がそれだけ拘束されるのが悪い。フリッツの件は、お忍びで来ていたアイリーン王女との面会で無罪放免にされたな。フリッツの戯言に、事情も知らない王女が口を出していい迷惑だ。ルーデルは残念だが、今年は最低限の授業に出て残りは弟……クルストの面倒を見るそうだ」


 それを聞いて納得できないユニアスは、テーブルに拳を叩きつける。食堂にいる生徒たちがユニアスの方を振り向いたが、ユニアスは気にす事なく話を続けた。


「個人トーナメントは出ていいだろう! それよりもフリッツを無罪放免にした学園はどういうつもりだ? 俺たちが黙っていると思うのか」


「王女の言葉だからな……フィナ王女は反対していたし、学園だって反対した。お互いに譲らなかったよ。……納得なんか誰もしていない。だが、ルーデルがフリッツに興味を無くしてな……それならクルストを立ち直らせるのに丁度いい、とかいいだして揉めた揉めた」


 笑いながら話すリューク。フリッツの処罰に興味が無いルーデルは、クルストの事を考えていた。このままフリッツに怯えたままでいるより、立ち直るきっかけを与えたかったのだ。


「興味が無いといわれたフリッツは憤慨して面白かったぞ。だから条件を出してきたな……クルストと戦う代わりに、ルーデルとも戦わせろと申し出たよ。笑えるだろう」


「笑えねーよ! それでルーデルが個人トーナメント辞退とか、笑えないにもほどがあるぞ! 二学期の個人トーナメントだけでもなんとかならないか? クルストだって付きっ切りじゃないといけない訳もないだろう?」


 ユニアスは、ルーデルと戦えない事に腹を立てていると感じたリューク。リュークには理解できない感情だった。


「試合ならいつでもできるだろう? クルストは今年で卒業させられるから時間が無いんだぞ」


「分かってねーな……闘技場で満員の観客を前にしての戦いだ。そこでしか出来ない戦いがあるんだよ……一年に一度しかないチャンスだぞ」


 聞いても理解できないリュークは、そのまま理解する事を諦めた。リュークにしてもルーデルが授業に出ないのは不満がある。魔法関係の話をできる友人がいないのだ。リュークの冗談にも反応できる貴重な存在であるルーデル。


 リュークが冗談をいうと誰も思わないから、本人は真剣に悩んでいた。それを理解できるルーデルは、リュークからも魔法関係の周りの生徒からも貴重な存在なのだ。


「今年は諦めろ。アレイストもいるんだから問題ない筈だ」


「お前も出ないつもりか?」


「当然だ。私は魔法の研究と実験で忙しい……中々上手く行かなくてな」


 リュークは溜息を吐いて実験について考え出す。ユニアスでなく、ルーデルなら相談も出来たのに、と思いながら……



 女子寮では、イズミがルーデルからプレゼントされた刀を見てうっとりとしている。自分の部屋で刀を抜いて頬を染めるイズミ。事情を知らない人間が見たら、間違いなく恐怖を覚える光景だろう。そんなイズミにルームメイトが声をかける。


「ルーデルからのプレゼント? それにしても色気がないわね」


「あぁ、でも凄くいい刀なんだ。こんな業物は数えるくらいしか見た事が無い。私の家も落ち目だというのもあるが、本当に嬉しいよ。そんなに高くなかったらしいけど、これはいい物だよ」


 嬉しそうにするイズミ。イズミやルームメイトは気付いていないが、イズミがプレゼントされた刀は高額の業物だ。ルーデルが魔物の討伐の仕事で貯めた金額を全部使ったら買えたが、一本で家が建つくらいに高額な刀だった。


「鍛冶師も同じ東方の人間だっていっていたから、是非とも会ってみたいな」

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