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姉妹と兄弟

 基礎課程の生徒たちによる暴動が静まると、ルーデルたちは謹慎室から解放された。理由は簡単で、謹慎室が満室になった事と、暴動を止めた事に対する特別処置だと教師からはいわれている。喜んだのはユニアスだが、ユニアスだけは遅れている座学の補修が待っておりルーデルとリュークはバーガスのお見舞いに行く事にした。


 イズミも参加して三人で保健室に向かうと、そこにはバジルに果物を食べさせて貰っているバーガスの幸せそうな姿があった。


「こんな時に呑気な物だな」


 リュークは入り口から覗き込むように見る。イズミもそれを見て自分とルーデルもあんな感じなのか……と感想を持って見守っていた。だが、ルーデルはその幸せそうな空間に堂々と入室する。


「大丈夫かいバーガス? 二人はそんなに仲がよかったのか……ちょっと相談したい事があるんだけど」


「……ルーデル、お前は凄いな」


「あぁ、ルーデルだものな」


 リュークとイズミが、そんなルーデルの後に気まずそうに入室する。するとバーガスは顔を赤くして慌てるが、バジルはニコニコとしていた。


「こ、これはだな……そう、まぁあれだよ!」


 いい訳をしようとしたバーガスに、ルーデルはさっさと本題に入る。


「実は相談なんだが……兄弟との関係が分からなくて困っているんだ。どうしたらいいのか教えてくれないかな? バーガスは兄弟が多いっていっていたから参考にしようと思ってきたんだ」


 食堂での事件と共に、ルーデルの弟であるクルストが酷く怯えた状態になっている事を説明した。一年生のフリッツを恐れてしまって、今では部屋に閉じこもってしまっている。そこまで説明すると、バーガスは保健室にいる間に凄い事件が起きていたのに驚くが、ルーデルがそれを気にしないで弟の事を相談に来るのも驚いていた。


「お前たち兄弟って仲悪いよな? それこそ俺の兄弟と、そんな関係のクルストを比べても意味がないと思うんだが……それ以上にフリッツって一年の事はどうするんだよ」


 バーガスはこれ程の騒ぎを起こしたフリッツや一年生の事を気にする。やり過ぎだが、調子に乗ったとはいえ同じ平民の出だ。その後の処罰が気になるのだろう。


「あまり興味が無いから学園長に任せている。それに俺が決める事でもないしね。それで、クルストにはどう接したらいいだろうか?」


 少し考えたバーガスは、答えを出せないので自分の話をし始めた。


「はぁ、俺の話になるけどよ。俺は兄弟の面倒を見ていたし、弟や妹たちも俺を慕ってくれていたから参考にはならないだろうけど……悪い事をしたら叱るし、けんかをして負けて帰ったらけんかの仕方を教えたりもしたな」


「バーガスは手を貸さないのか?」


「いや、年下同士のけんかに年上の俺が出てもおかしいだろ? それに子どもなんかしょっちゅうけんかしてるぜ。だから負けて悔しがる弟にけんかの仕方教えて、今度は負けんな! って応援したな」


 それを聞いて何かを考え出すルーデル。バジルは不思議そうにルーデルに聞いてみた。


「クルスト様は今年で卒業ですよね? クルスト様を気にする理由はなんですか? 復讐では無いとは思いますが……」


 ルーデルとクルストの関係は酷く歪んでいる。次期大公を争う貴族の兄弟として見てもおかしい位に歪んだ二人。そんな相手の事を気にするルーデルが、バジルは理解できなかった。イズミも気になって聞いてみる。


「もう気にしない方がいいんじゃないかルーデル。お互いに思う所は有るだろうが、流石にあそこまで怯えた弟に手を出すとも思わないが……何をする気だ?」


「あぁ、卒業するまでに少しは立ち直らせようと考えているんだ。あのままだと辺境に飛ばされても使い物にならないし、最悪死んでしまう。クルストは両親に好かれているからな……家族が悲しむのは嫌なんだ」


 その言葉にリュークは少し違和感を感じた。


「お前の両親はお前を嫌っていると聞いたが? そんな親を気にする必要があるのか? 私の両親も厳しかったが、それは私を一人前にするためだ。ルーデルの両親はそうではない気がするな」


 四人の視線が集まる中、ルーデルは少しだけ考えて答えた。


「産んでくれた両親には感謝しているし、俺を育ててくれた上に学園にも通わせて貰っている。フリッツのいう通りで、恵まれていたな。確かに嫌われているのは辛いが……それでクルストを憎むのも違う気がするんだ」


 そんなルーデルの気持ちを聞いた四人は、納得しないまでもルーデルがする事に反対もしなかった。バーガスが代表してルーデルに質問する。


「それでクルスト君に何をしてやるんだ? けんかの仕方を教えるのとは訳が違うぞ」


 冗談交じりの質問だったのだが、ルーデルは本気だった。


「問題ない。一対一の戦い方を教えてやるし、相手も決まっている。恐怖を克服させるには、恐れている相手に勝つ事よりも自分に勝つ事が重要だと本で読んだ。……基礎課程のクラス対抗戦の後に、フリッツと戦わせる」


 その言葉にイズミが反対した。クルストを助けるのはいいが、フリッツを絡めるのに無理を感じたのだ。


「ま、待ってくれルーデル! フリッツは駄目だ。流石に今回の一件で処分は厳しくなるだろうし、実力的にクルストとでは違い過ぎる」


 リュークもそれに賛成する。


「私も反対だな。あいつは私たちを馬鹿にしすぎる。ユニアスですら頭に来ていたくらいだ……他の貴族の子弟たちが、フリッツの処分が軽かったら納得しない」


 それを聞いて考えるルーデル。


「フリッツとの対決は無理か……仕方ないな。フリッツの事は諦めて鍛えるだけにするか。いや、ユニアスと戦わせるのもいいかも知れないな?」


「クルストが死んじまうよ……」


 バーガスが溜息を吐きながら、ルーデルにツッコミを入れた。



 ルーデルの思いが通じたのか、それともフリッツが幸運なのか、ある人物がお忍びで学園に来た事によりルーデルの望みは叶ってしまう。その人物は第一王女であるアイリーンであり、物語の正ヒロインである。それは彼女が妹であるフィナと学園に興味を持っていたのが原因だった。


 去年のクラス対抗戦で叫んだフィナが、学園でどのように生活しているか実際に見て見たかったのだ。そこから予定を調整して、丁度暴動が起こってしまった日にフィナの部屋で二人は上級騎士たちに囲まれながらお茶会をしていた。


「元気そうねフィナ。この前はあんまり聞けなかったけれど、学園での生活はあなたにとって良い切っ掛けになったようね」


 微笑む姉に対して、フィナも本心を答える。姉であるアイリーンは、無表情である妹が色々な表情が出来るようになるかも、と期待していたのだ。


「はい、お姉さま……フィナにとって学園は最高の場所です」

(もうモフモフしまくりのウハウハしまくりだよ! 本当は今日もミィーとイチャイチャしてモフモフして、師匠を攻略する事を相談する筈だったのに……お前がお忍びで来るから叶わなかったけどな!)


「好きな人がいると聞いたのだけれど……父はあのルーデルだといっていたけど本当かしら? 流石に冗談よね?」


「……いえ、本当です。振られてしまいましたけど、今でもお慕い申し上げております」

(あの黒髪のせいで私のモフ天への道が……絶対にナデナデを解禁し、師匠を私の物にしてやる! それにしても父上グッジョブ! これでどんどん外堀を埋めていけるわ)


 だが、急にアイリーンの表情が変わる。


「フィナ、流石にあんな男を好きになるのは許せないわ。野蛮でわがままで……父にも反抗したというじゃない。私は反対よ! 父も母も気にしていないけれど、相手は三公であるのだから結婚も出来てしまうのよ」


「分かっております」

(それが目的だもん。愛とか恋じゃないの……これは運命なのよ! 天が私にモフ天を目指せといっているに違いないの! 夢のためになら私は、モフモフに魂を売るわ!)


 そんな二人が会話をしていると、上級騎士たちが騒ぎ始める。何事かと二人が事情を聞くと


「学園の食堂にて暴動があったようです。平民出の少年とアレイスト家の二男が揉めたそうで……お話のルーデル殿が暴動は鎮圧したそうですが、警戒をするようにと学園側から申し出がありました」


「まぁ!」


「……そうですか」

(クルスト何してんの? 師匠の手を煩わせやがって……それよりも平民出の少年は、多分フリッツとかいう師匠の敵よね? あいつもろくな事しないわ)


「平民を兄弟そろっていじめるなど許しません! 私が直接お話をします。すぐに関係者を集めなさい!」


「え!?」

(何いってんのこいつ? 別に揉めたといっても、いじめたとかいってないよね? 嫌っているからって、イメージ先行し過ぎじゃない。しかも鎮圧したの師匠だよ。やっぱり師匠は運悪いな)


 その後も勘違いだと説明するフィナの言葉を聞かずに、アイリーンはフリッツと出会ってしまった。二人は運命の出会いをしてしまう。この出会いが、将来ルーデルたちを苦しめる……

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