青年と鍛冶師と影
国境近くの街に到着したルーデル達は、依頼人である商人に面会していた。到着したのは夕方で、夜では危険だからと討伐は明日に行われる事になった。バーガスとユニアスは、夜の街に繰り出そうと明日の準備もそこそこに出かけ、リュークは宿で本を読んで過ごしていた。
バジルは色々と調べる事があると言って出かけている。……依頼人が妙に引っかかるのか、街で依頼人の情報を調べる事にしたらしい。
そしてルーデルは、国境付近である街の武器屋を見て回る事にしていた。バーガスはすでに自前の装備を持っていて、ユニアスは業物の大剣を所有している。リュークにしても、護身用の片手剣は業物だ。だが、ルーデルの剣は安物の剣である。
訓練用で振る事くらいしか使わないからか、実家で貰ったのは兵士達のお下がりだったのだ。それを使ってはいたが、最近では質も悪くガタがきている。大事には使ってはいるのだ……しかし、命のやり取りをするのには、不安があるのも確かだった。
「まだ店は開いているかな? ……宿の店員の話だと、この辺りにあるって言っていたけど」
慣れない街で、一人歩くルーデル。店員に貰ったメモを見ながら歩いて、しばらくして何軒もの武器屋を見つける事が出来た。店先に並ぶのは、頑丈な武器や、飾り付けられた武器……様々な武器が並んでいる。そんな店先の武器を見て回り、店に入って品物を見せて貰うルーデル。
「子供にはこれがいいよ」
「レイピア? もっと頑丈なのがいいな……」
「どうです貴族の坊ちゃん! うちの店の武器は、どれも格好いいでしょう!」
「うーん、格好はいいよね(飾りが多くて重そうなんだけど?)」
「二本買ったらこのナイフをオマケしてやるよ」
「二本もいらない」
入る店のほとんどで子ども扱いと、貴族だから金を持っていると思われ高い物を押し付けられるルーデル。いくつか良い物も確かにあったが、ルーデル自身に合わなかったために買う事を諦めていた。
そんな時に、道に敷物を敷いてその上にあぐらをかいて座る一人の男を見かけるルーデル。敷物の上には、一本の刀が置かれていた。イズミに聞いていたから知っていたルーデルは、それを珍しそうに見つめる。東方のサーベルと言う認識しかなかったが、イズミの説明で違う事を知っていたのだ。
「珍しいな……でも、なんで一本だけなんだ?」
男の前に立って、刀を見下ろすルーデル。そう、クルトアで刀など滅多に出回る事はない。そんな貴重な物を売る男は、着る物はボロボロで髭や髪もボサボサと、酷い恰好をしていた。
「仲間と共に作った最後の一振りだ。今では作る鍛冶場も無くてな……」
ぎこちない言葉使いで説明してくる男を見たルーデル。自分は使う事はないだろうが、イズミに渡したら喜ぶかもしれないと思って値札の通りの金額を払う。
そんなルーデルを驚いて見る男は、金を貰いながらルーデルに質問する。決して安い値段を提示していた訳ではない。そんな金額を平然と渡すルーデルに興味が出たのだ。
「刀を使うつもりか? 売っておいてなんだが、扱いや手入れの仕方を知らなければただの鉄の塊だぞ」
刀を受け取りながら、ルーデルはそれを大事そうに抱えて答える。
「知り合いに東方の出身者がいるから渡すんだ。俺が使う訳じゃないから心配ないよ。本当は自分の武器が欲しかったんだけど、見付からなかったからね」
ルーデルが出した金額は、ここ最近の討伐で得る事が出来た報酬だ。しかし、学園に居れば金を使う機会も少なく、溜まるだけのルーデルには使い道がなかった。その使い道を、自分の新しい武器を買う事に使おうとしたのだが……結果はイズミへのプレゼントになってしまった。
「……そうか、同郷の者が知り合いに居るのか」
懐かしそうにする男に礼を言って歩き出すルーデル。そんなルーデルの背中に声をかける男。
「『ゾウケン』だ。この街に仲間や家族と住んでいるから、同郷の者にも宜しく言っといてくれ」
「伝えておくよ」
そうして新しい出会いをしたルーデルの一日は終わるのだ。
◇
ルーデルの一日が終わる頃、王宮の地下では私闘をした二人のドラグーンが独房に入れられていた。暴れた二人が国でも有数の実力者で、被害も大きかった。そのせいですぐに取り押さえられたが、厳重注意ではなく独房行だ。
二人の腕には手錠がされ、その特殊な手錠によって魔法が使用しにくくなる。かなり警戒されている証拠である。
たった数分で、その場を破壊しまくった二人。カトレアとリリムは、離れた独房の中で過ごしている。もう夜である事から、カトレアは眠っていた。しかし、リリムは……
「何でいつも私が嫌われるのよ」
『お前が醜いからだ』
「私だって結婚したかった。愛していたのに……」
『そんな目をしてよく言うな。お前を愛する男などいるものか』
「皆そう……この目を見て離れていく……こんな目でさえなければ!」
『いっそ潰すか? それでいいのか? 悪いのはお前じゃない……悪いのは』
ブツブツと独り言を言うリリムを不気味がり、見張りはあまり近寄らなかった。そして聞こえなかったし、見えなかった。リリムが壁に向かって喋りかけているが、その壁に人影が写っている事に……そしてリリムに語りかけている事に!
「悪いのは……そうルーデルが悪い! そして憎い!」
『そうだ憎め! お前を嫌うルーデルを……裏切った婚約者を!』
ルーデルとの婚約の前に、リリムはエルフの男性と婚約していた。しかし、その男性はリリムの真っ黒な目を見て婚約を破棄してきた。優しかった男性に、リリムは自分の秘密を明かしても大丈夫だと信じていたのに裏切られたのだ。
そんな過去の婚約者と、現在でも一応婚約者候補となっているルーデルが重なるリリム。そう誘導した人影は、カトレアに似た影と声をしていた。その影がリリムの影と重なると、リリムは起き上って手錠を引きちぎる。
「そうだ殺そう! 私を裏切ったルーデルを殺してやる!」
徐々にリリムの金色の髪が銀色に変わり、肌は白から黒に変わっていく……そして黒い肌には白い模様が浮かび上がった。それは森で襲ってきた魔物たちとよく似た模様だった。
『そうだ憎め……ルーデルを憎んで殺せ! 今更生かす事など許されない! 私の存在意義は、ルーデルを『元に戻す事』だ。それが不可能なら……殺せ!!!』
カトレアから生まれ、成長した『ソレ』は、元に戻す事が不可能になったルーデルと言う登場人物を消す事を宣言する。ソレにとって、初めての世界への反逆だった。周りがルーデルを認めると言う状況の中で、最後まで自分の存在理由をまっとうすると言う意志。
『世界の意志など関係ない……これが私の意志だ!』
魔法を使って独房から抜け出すリリム。その日……一人のドラグーンが、自分のドラゴンと共に王宮から逃げ出した。




