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番外編 マーティを超えろ 2

「撫でていいのか?」


「はい。自分で受けて見ないと分かりませんから」

(早くしてよ! 撫でて、私を撫でて!!! そしてその技術を私は手に入れる!)


 王女の部屋は、王女の一言で異様な空気となっていた。自分から撫でろと言ってくる人間など、妹のレナしか知らないルーデル。妹を思い出してウキウキと撫でようとして……止められた。止めたのは勿論、上級騎士のソフィーナだ。


「だ、駄目です! あんな不埒な……フィナ様もいい加減にしてください!」


「どうしても駄目ですかソフィーナ?」


「駄目です!」


「仕方ありませんね……では、私が受ける事は諦めます。代わりにソフィーナが撫でられなさい」


「どうしてそうなるんですか!」


「命令です」

(早くしろよ。私はどうしてもあの技術を手に入れる!)


 そんな撫でるか撫でないかの不毛な争いを続けるフィナとソフィーナ。ルーデルは撫でようとした手を引っ込めるのも嫌だったので……近くに居たミィーを撫でていた。最初は頭を軽く、優しく……不意打ちを受けるミィーも、それくらいならと甘く考えてしまった。


 そして後悔する。


「え! ちょっ……あ、そこ……い、あっ!」


 耳に手が伸びると、指が耳を優しくなで始め……そのまま腰が抜けて、音を立てて床に座り込むミィー。その音に言い争いを止めて振り向いたフィナは


「見逃したわ……ソフィーナ、早くしなさい」

(お前が口うるさいからミィーの撫でられっぷりを見逃したじゃねーか! 責任とって撫でられろ!)


「ふざけないでくだ、ヒッィ!」


 命令にも拒否しようとしたソフィーナに、ルーデルは後ろに回り込んで耳を撫で始めた。上級騎士が学生に後ろを取られること自体が失態だ。だが、殺気もなくただ撫でに来たルーデルに気が付かなかったソフィーナも地獄を見る。


「まぁ、これはすごい」

(指先に魔法を発生させているのか? 流石にこのレベルの魔法を行使するのは私には難しいな……六年、いや! 何とか三年あれば……)


「だ、駄目! そんなに撫でないで!」


 顔を赤くして体をくねらせるソフィーナを、真剣に見つめるフィナ。ハッキリ言ってモフモフしていないからソフィーナには興味がない。ただ純粋に実験として見る事が出来るのだ。


 ここでルーデルも自分の限界に興味が出てきた。今までは習得した物を利用するだけだったが、ここで練習中の技術を試したくなったのだ。その技術と言うのが……


「綺麗な髪ですね……濃い紫のいい色が出ている。手入れを怠っていないし、ソフィーナさんは……」


 『言葉攻め』だった。マーティ・ウルフガン曰く、愛は言葉にして表す事も重要である。言葉で言い表せないからと言って、それを怠ってはならない。この言葉が、ドラゴン相手と言うのだからマーティと言う人物もルーデルと並ぶ変人である。


 しかしルーデルの相手は人間で、その手の事になれていないソフィーナだ。もう抵抗したいのか、受け入れたいのか本人も分からない状況で……ミィーと同じく腰が抜けて床に座り込んでしまった。


「はぁ、はぁ……う、嬉しくなんか……」


 座り込んで、時々体を震わせながら口だけは抵抗するソフィーナ。そんなソフィーナの反応に素直に受け止めたルーデルは


「まだまだだな俺も……」


 悔しがる。しかしフィナの考えは違う。


「まぁ、練習あるのみですよルーデル様」

(まさかここまでとは……そんな師匠すら超えた存在マーティ・ウルフガンってどれだけの高みにいたのかしら?)



 その後も女子寮に通って練習するルーデル。しかし本人は姫様に言われて仕方なく女子寮に来ているのだ。練習するなら別に女子寮でなくてもいい。


 だが、男子が毎日のように女子寮に足を運べば、当然他の女子たちも気付く。更に悪い事に知られてはいけない人物にまで知られる事になった。白猫族と対になり、対立する黒猫族のお嬢様『ネース』に知られてしまったのだ。


 何故知られてはいけないか……それは、ネースがミィーの事を好きだからだ。ライクではなく、ラブの方で……対立する種族である二つの種族の垣根を越えようとして、性別の壁も超えようとするネースは、見た目は黒くサラサラした長い髪を持つお嬢様だ。しなやかな体を持ち、背も女子にしては高いし出ている所は出ている女子だ。


 ただ男子の人気に偏りがある。男子に対しては極端に冷たいのだ。もう同性にしか興味のないネースは、ルーデルが王女の部屋に通い、そこにミィーが居る事が耐えられなかった。


 気になって王女の部屋の近くを通った時……運悪くミィーが部屋から逃げ出したのだ。そしてネースを見つけてそのまま背中に隠れるミィー。


 そして部屋からは遅れて王女フィナが飛出し、さらに遅れてルーデルが歩いて出てくる。……ソフィーナはすでに立ち上がれないのか出てこなかった。


「逃げないでミィー」

(いい所で逃げるなんて、焦らしプレイね! もう私の子猫ちゃんは悪戯好きなんだから!!!)


 すでに興奮状態のフィナが、ネースの後ろに隠れるミィーを無表情で見ていた。しかし、ネースも大好きなミィーが自分の背中に隠れて助けを求めているのだ。助けない訳にはいかない! と下心を含んで思ったのが運のつきだった。


「いい加減にしてください王女様! こんなに私のみ……ミィーが怯えているではありませんか!」


「あなたは誰かしら?」

(まぁ、知っているけどね。モフモフ関係は、来年度の入学予定者を含めて全て調べてあるし……て言うか、今お前は『私のミィー』って言ったよね。……何この寝取られた感! 興奮してきた!)


 色々と手遅れなフィナは、後ろに控えるルーデルや上級騎士達に視線を送る。……しかし、ルーデルはそれが何を意味するか分からない。と言うか、分かりたくなかった。王女と交流を持ってから、王女に対して怖いといった感情が芽生えてきたのだ。


「四年生のネースと申します。今日はこのまま『私が』ミィーを部屋まで送りますから……ちょっと! なんで囲むのよ! い、いや離して!」


 上級騎士達は、小声ですまないと謝りながらネースとミィーを王女の部屋(魔窟)に運び込む。



 新たな生贄を手に入れた王女フィナは、ミィーを自分で捕まえてネースをひもで縛りあげてしまう。ルーデルは状況について行けないままだ。どうしていいか分からずにあたふたするルーデル。


「離して!」


「駄目です。私のミィーを寝取ろうとした罰を……ご褒美を上げますね。師匠出番です!」

(白と黒のモフモフを手に入れた……最高じゃね? もう最高過ぎてヤバイ!!!)


「……? 解けばいいのか?」


「……何言っているんですか? 撫でればいいんですよ」

(何でここまで来て分からないの? 早くいい感じにモフモフにしてよ!)


 そう言われてネースを見るルーデル……憎しみのこもった目でルーデルを睨みつけるネースは


「男が私に近寄るな!」


 最早、地位とか権力とか関係なく嫌悪するネース。


「触って欲しくないみたいだが?」


「はぁ、師匠……そんな自分を嫌っている女子を手なずけ……仲良くなれたら、更に高みに登れますよ」


「そうか!」


 フィナに言い包められたルーデルは、現在自分が保有するすべての技術を駆使してネースと仲良くなろうとした。その結果……


「や、止めて! あっ! み、耳が気持ちいい……尻尾は駄目!!!」


「綺麗な毛並みだね……尻尾もとっても綺麗だよ」


 そうして最後には、男嫌いがらは脱しなかったが、ルーデルにはすり寄る黒猫族のネースが誕生した。獣人族の好意的な相手に対する猫なで声が、フィナの部屋に響く中……ルーデルは呟いた。


「なんか違う気がする……」


 ルーデルの疑問はフィナにとってどうでもよかった。現在の光景こそが正義! 自分の部屋には床に寝転んで顔を赤くした二人の猫族と、人間のソフィーナがオマケ程度に転がっている。


(来た! 私の時代がついに来た!!!)

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― 新着の感想 ―
思えばこの時から作者さんの設定ぶっ壊れてたんだな… 面白すぎて大好きだ!
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