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剣馬鹿と竜馬鹿

 順調に勝ち進むルーデルのクラスは、準決勝でユニアスのクラスと対戦する。強敵ばかりと対戦するブロックで、この準決勝はお互いにボロボロな状態だ。実際に、ユニアスも所々に怪我をしている。しかしルーデルは


「る、ルーデル、大丈夫か?」


 イズミが心配そうにルーデルに聞く。一回戦でのリュークとの試合では、上級魔法を放たれた。その前にも魔法を連続で受けている。その後は簡単に勝ち続けたが……所々に包帯を巻いて、痛々しい姿だ。


「何も問題ない。体は動くしね」


 そう言って肩を回して見せるルーデル。体は動く……それは痛みがあるのでは? と思ったイズミだが、このトーナメントは何としても勝たなければならない。少しは無理をしてでも、そう考えて試合に集中する。


 そうして開始された試合は……大将戦まででなんと四勝零敗! すでにルーデルのクラスの勝ちが決まってしまった。お互いにボロボロの状態だったが、気持ち的にルーデルのクラスが勝っていると言う感じだ。



 大将戦は意外にも白けた雰囲気となる。準決勝で4-0の状態……ボロボロのルーデルにしてみれば、ここで無理をする必要などないのだ。そう、普通は無理をせずに決勝戦まで体力を温存するべきだった。


 お互いに向かい合い、審判の合図を待つルーデルとユニアス。そんな中で、ユニアスがルーデルに語りかけた。


「全くよぉ……うちのクラスはどうしてこうも邪魔するかな。なぁ、ルーデル……我がままだと分かってはいるんだが、俺と真剣勝負をしてくれないか? いや、しなくても俺の方はお前を殺すつもりで戦うけどよ」


 普段の猛禽類のような笑みではなく、自嘲気味な笑みを浮かべるユニアス。そんなユニアスの願いに、ルーデルも真剣に答える。


「何を言っている? 真剣勝負は当然だ! グラウンドでの約束は守って貰うぞ!」


 目を丸くして驚くユニアスは、少しして笑い出した。自分で用意した木剣は、両手使用を前提とした大剣の形をしている。それを持って構えると、ルーデルも木剣を構える。二人の会話を止めるかどうか悩んでいた審判も、王族の前で腑抜けた試合をしないならいいか、と思い合図を出した。


「お前のそう言う馬鹿な所は気に入っている! そうだ本気で来いルーデル!!!」


 お互いに正面から激しくぶつかる。ユニアスは木剣での剣術を主体に、ルーデルは剣術と魔法を駆使して闘うスタイルだ。そんな二人を比べると、意外にもユニアスは剣術を重視した上品な戦い方に対して、ルーデルの戦い方は荒々しい。


 勝つことを前提としたルーデルの剣術は、貴族と言うよりも傭兵に近い戦い方だ。魔法も使い、ユニアスには不向きな戦いになるだろう……そう周りは思っていた。


 しかし、実際にはルーデルが押されている。剣術ではユニアスの流れるような剣捌きと、その体格差から生まれる力の差……これらがルーデルを苦しめ、そして魔法も避けてしまうユニアス。魔法を不得手としたユニアスの戦い方はシンプルだ。


 魔法を使わせない。もしくは、使わせても避ければいい。


 単純であるが難しい戦いをユニアスは、ルーデル相手に実践しているのだ。それ所か、ルーデルに攻撃を当てている。ルーデルの方が捌ききれていないのだ。


「楽しいかルーデル! 俺は今、凄く楽しいぜぇ!!! こんなにも俺についてこられるお前が、真剣に俺に向かってくるお前が楽しませてくれる!」


 連続で斬りかかるユニアスの攻撃を捌くルーデル。このままでは不味いと、木剣に魔力を流してユニアスの木剣を斬ろうとする。だが、異変を感じたユニアスは、ルーデルから距離を取った。ルーデルの光る木剣を見て気付いたユニアス。


 距離を取られ、魔法による中距離戦に切り替えたルーデルの攻撃を避けながら


「魔力を木剣に流し込んだのか? いいね……そんな扱いも確かに有りだ!」


 そう言って立ち止まって構えたユニアスは、向かってくるルーデルの魔法を切り裂いた。魔力を木剣に流し込み、ルーデルと同じ魔力の使い方を一瞬でマスターしたのだ。しかし、ルーデルと違う所もある。魔法を使わないユニアスにとって、魔力には余りがある。


 それを木剣に流し込み、ルーデルが木剣が光る程度なのに対して、ユニアスの木剣はゆらゆらと魔力が木剣から漏れ出している。そんな揺らめく魔力を利用して、ユニアスがルーデルに斬りかかる。当然のごとくルーデルは自分の木剣で受け止めたが、揺らめく魔力が鞭のようにしなってルーデルの頬に傷を付ける。


 今度はルーデルがユニアスから距離を置こうとするが、そんな事はユニアスが許さない。一気にルーデルが不利になる。



 そんな戦いの中で急成長を見せたユニアスという男は、ゲーム上では『剣の天才』として登場している。貴族でありながら自由を好むし、誰にでも優しく頼りになる存在。責任感もあり、リーダーの素質を持つパーティに入れば主力間違いなし……そんなキャラだった。


 しかし、そんな設定がユニアスを苦しめる。大貴族であるユニアスにとって、剣の才能などそこそこでよかったのだ。戦場では指揮を執る身となるユニアスが前線に出る事などない。


 ユニアス自身は剣が好きだし、訓練も真面目に受けていた。だが、それを全力で試せる場所は無かったのだ。誰もが大貴族の立場であるユニアスに遠慮する。学園での試合でも、ユニアスのご機嫌を取ろうといい所で負けてくれる。


 才能が有るからその事に気付くユニアスは、空しくなる。一度は地位も捨てようかと考えた。しかし、責任感がそれを許さない。家族を……領民を捨てて、剣に生きる? そんな事はユニアスにはできなかった。だから、剣での真剣勝負は諦めていた。


 それ以外は順調だったのだ。学園でも友人はいるし、彼女もいる。学園から抜け出して遊び回り、学生生活を楽しむだけなら問題なかった。


 そんな時に現れたのがルーデルだ。地位も家族も領民も捨ててでも、ドラグーンを目指しかねないルーデルに出会い。ユニアスは期待したのだ。こいつとなら真剣勝負ができるかもしれない。……実力も意思も問題ない。


 そう思っていた時に今回のトーナメントの話だ。いつ、ルーデルの気持ちが変わるか分からないユニアスにとって、今回を逃すと自分の求める真剣勝負ができなくなる……そう思わせた。


 ルーデルが自分との真剣勝負に価値を見いだせなければ、二度と真剣に……殺すくらいの気持ちで戦ってくれいのでは? そう思わせたのだ。



 逃げ回るルーデルに、追いかけるユニアス……そんな攻防が続くと思われた時だ。ルーデルが攻めに出た。魔法を使うのを止めて、全力でユニアスに斬りかかる。魔力を流し込んだ木剣では、当たり所が悪ければ即死である。


「そうだ! もっと俺を殺すつもりでかかってこいよぉぉぉ!!!」


 ユニアスも木剣にありったけの魔力を流し込む。そしてルーデルの攻撃に対して、カウンターを決める。それをギリギリで避けたルーデル。しかし、ルーデルの木剣がユニアスにより切り裂かれた。目標をルーデルから一瞬で木剣に切り替えたのだ。


「俺の勝……ッ!!!」


 勝利を確信しようとしたユニアス。しかし、ルーデルは木剣を捨てて無手でユニアスの懐にまで潜り込んできた。すぐに斬り返そうとしたユニアスの攻撃を恐れないルーデルは、両の手の平をユニアスの溝に当てて……全力で圧縮した風の魔法を放った。


 時間もなく、集中困難な状況での一撃……だがそれでもゼロ距離からの攻撃だ。効かない訳がない!


 吹き飛ばされて、場外に出たユニアス。そのまま立ち上がろうとするが、ルールでは場外に出た者は負けとなる。それでも立ち上がろうとするユニアス。……しかし、胸の辺りを激痛が走り思うように立てない。


「勝者ルーデル・アルセス!」


 そうしてユニアスは負けた。真剣勝負で負けたのだ。観客席から歓声が聞こえる中で、ユニアスは倒れたまま空を見上げた。もう夕暮れで、空はオレンジ色に染まっている。


「何で動かねぇ……もう少しくらい楽しませろよ! もう少しだけ……」


 涙が出てくるユニアス。楽しければ楽しいほど、それが終わってしまったと感じるのが許せなかった。そこに、体を引きずりながらルーデルがリングから降りてきた。


「楽しかったよユニアス。また試合をしよう……そうすれば、俺はもっと高みを目指せる」


 そんな事を笑顔で言ってくるルーデル。体中がボロボロで、お互い酷い状態だ。天才であるユニアスを打ち負かしたのは、才能の劣る凡人だ。だが、ひたすらに上を目指すその姿に、ユニアスはルーデルの凄さを見た。


「お前は凄いな……ああ、また戦おう。だからお前は学園に残れよな」


 そんな二人に駆け寄ってくる二人のクラスメイト達。二人はすぐに保健室に担ぎ込まれた。……トーナメントは、予想以上に時間がかかり、決勝戦を明日に持ち込む事が決まっていたのだ。


 ルーデルの試合は、残すは決勝のアレイストのクラスとなる。

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