魔法馬鹿と竜馬鹿
トーナメントの控室では、基礎課程の二年生たちが集まっていた。皆がクラスの代表であり、実力者である。そんな中で、次々と試合が開始されて……とうとうルーデルのクラスとリュークのクラスの試合となった。控室を出る両クラス。並んで歩くルーデルとリュークは
「全力で行くぞルーデル」
「ああ、俺も手を抜かないし、全力で戦う」
二人はそこからは目も合わせずに会場に入ると、大将戦が始まるまで待つのだった。五人の代表によるチーム戦は、初戦と副将戦でルーデルのクラスが勝って2-2となる。これで大将戦で決まる形となるのだが、二人にはそれよりも目の前にいる好敵手に意識が集中していた。
「それでは、大将戦を開始します!」
審判の合図と共に、リュークは自分の得意とする魔法で勝負しようと距離を取る。しかし、ルーデルもそれをさせまいと距離を詰めた。リュークは、ルーデルにスピードで勝てないと自覚している。だから、木剣で防ごうと斬りかかるのだが
「ッ……!!!」
ルーデルの木剣を防ごうと振ったリュークの木剣は、見事に絡め捕られて宙を舞っていた。そして、そのまま攻勢に出るルーデルに対して
「まだまだ!!!」
リュークは至近距離で魔法を使用した。通常はそんな使用方法は危険すぎる……通常は! それでも使用した甲斐あって、ルーデルは距離取っていた。しかし、リュークも自分の魔法で傷を負ってしまう。それでも距離は取れたのだ。ここからがリュークの本領の発揮である。
連続して下級魔法をルーデルに対して放ち、そして自分は奥の手を用意するのだ。言うほど簡単ではないし、失敗するかもしれない。それでもリュークは、この試合は全力で挑むと決めていた。
風の魔法でルーデルを攻撃するが、そんな攻撃に対してルーデルも魔力によって強化した脚力で避ける。そんなルーデルも、流石に魔法を得意とするリュークの攻撃は避けるのは難しい。
「それでも!」
言うよりも早くに回避に出るルーデル。下級魔法を行使するリュークは、連続でルーデルに対して攻撃を続けるのだ。それを避けるルーデルは、再び距離を詰めようと行動に出る。
リュークと同じように、下級魔法で牽制しながら距離を詰めようとして……止めた。詰めようとした時には、リュークは準備を終えていたのだ。危険を感じて後方に飛びのくルーデルに対して、リュークはほとんどの魔力を使っての上級魔法を行使した。
ルーデルは先程の自滅技を警戒して飛びのいたが、その事に多少後悔した。そのまま距離を詰めるべきだったのだ。
基礎課程の生徒で、上級魔法など危険すぎる……だが、リュークの魔法は正常に発動した。炎が嵐と混ざり合い、試合会場であるリングの上が炎に包まれた。
「これでどうだルーデル!!!」
魔力の使い過ぎと、自分の自滅技でフラフラのリューク。会場はそんなリュークの上級魔法と、ルーデルの安否を気にして騒ぎ出していた。審判も慌てて中止を宣言する所で……炎の嵐が、真っ二つに切り裂かれ、掻き消える……リング上では、ルーデルの木剣が淡く光り、それを振り下ろした状態のルーデル……
無理をしたのか、ルーデルも息が荒い。
「……有り得ない。やっぱりお前は有り得ないよルーデル!」
嬉しそうに笑いながら、リュークはユニアス以外にこれほど自分に真剣に向かってくる友人に応えるべく、魔法を放つ……だが、上級魔法の使用と下級魔法の連続使用で最早魔力はつきかけている。それでも立ち続けながら未だに勝負を諦めない。
向かってくるルーデルが、スローに感じるリューク。思い出すのは、小さい頃から友人と呼べる存在がいない環境に、厳しい教育だ。小さい頃から魔法が好きだったリュークは、誰かと語り合いたかった。好きな魔法について色々と話したかった。だが学園に来ても、次期大公と言う地位に周りは距離を置く。
例外であったユニアスも、剣術に偏っていて話が合わない。好きな魔法の話をしても、誰もが肯定するだけ……最後には、嘘を言っても肯定してくる始末だ。つまらない毎日だった。
そんなリュークにも初めて話し合える友人が出来た。ルーデルだ。基本的な魔法の事ならもちろんだが、それ以上の話にもついてこれるし、何より真剣なルーデルとの魔法の話は楽しかった。……ドラゴンの撫で方という本に関しては、未だに納得できないが。
感覚的な発言が目立つルーデルに対し、リュークは理論的に魔法について笑ながら語り合う。周りから見たら男同士で馬鹿な話をしているように見え、実際は高度な魔法の話をしているのだった。
そんなルーデルに対して、真剣に勝負を挑んだリューク。友人だから助けるために手を抜く、という事も考えた。初めての友人だ……出来るならこのまま学園生活を一緒に楽しみたい。
それでも……そんな事をしてもルーデルは喜ばないと知っているし、そんな友人に手を抜く事なんかできない。視界までもが、フラフラと焦点が定まらなくなるリューク。
「ルーデル、お前にだけは!!!」
最後の力を振り絞り、放とうとした魔法は放たれる事は無かった。……首筋にぴたりと添えられるルーデルの木剣。
「し、勝者! ルーデル・アルセス!」
審判の声が少しの間をおいて会場に響くと、歓声と罵声が入り混じって会場を騒がせる。それを聞いて、息を切らさたルーデルが木剣をしまう。リュークは気が抜けたように膝から崩れ落ちて……ルーデルがそれに手を貸して立ち上がらせる。
「リューク、ありがとう」
「……勝たせた訳じゃない。次は私が勝つんだからな……それまでは負けるなよ」
◇
そんな二人の試合を貴賓室から観戦していた王族や護衛の上級騎士……そしてその場には学園長も同席していた。
「見事な物だな……大公家の後継ぎは立派になった」
王である父の言葉を聞いて、喜ぶかと思われたフィナは
「はい。ルーデル殿は強い……リューク殿も」
(何してんだよリューク!!! 師匠を負かす気か? 友達だろ! ここは譲れよ!!! それに何でここまで師匠のクラスのブロックは強者ばかり……誰か仕組んだな!!!)
……かなり慌てていた。そして学園長に視線を向ける。フィナの内心では、容疑者候補の一人である学園長。
「ですが……学園長、今回のトーナメントは少しおかしくありませんか?」
(ハッキリ言えよ! 私の計画を潰すと……お前が私の証言を捻じ曲げた事は黙ってやるからさ!)
無表情で視線を向けてくるフィナに対し、学園長も答える。因みに、フィナの証言を捻じ曲げて報告したのは学園長ではない。
「確かに優勝を狙えるクラスがこのブロックに偏ったのは事実です。しかし、学園は一切の不正を行っておりません」
そんな学園長の言葉を疑うフィナ。その他の王族は、興味無さげに次の試合を観戦する。……実は、今回のトーナメントでは、何度もクラス代表によるくじ引きをやり直している。誰かが不正をした、という訳ではない。
学園長は、次の試合が始まり控室に戻るルーデル達を見ながら思う。
(何度やり直しても、強敵になるクラスばかりがこのブロックに偏った。五回もやり直してこれでは……あの子の道は険し過ぎる)
溜息を吐きそうなのを我慢して、次の試合の説明を王族に行う学園長。そんな説明を聞きながら、王は今回の出来事の発端である娘を見る。……昔から表情を表に出さない……いや、出せない娘が初めてわがままを言ってきた。
命を助けて貰った恩人を救いたい……後から調べれば、ルーデルに対して異常ともいえる報告書に書き換えられていた事が分かり、処分のやり直しも考えた。しかし、当のアルセス家が本人の処分を望んでは、王族と言えども大公家の家庭の事情には口を出すにも限界がある。
その為の今回の王族のトーナメントに合わせた訪問だ。優勝はしなくても、何かしらの褒美を……そう言って卒業を見送らそう、そう考えていたのだが……
(意外にも面白い物が見れたな。ルーデルにリューク……それにユニアス。何とも楽しみな子供らだ)
今回の訪問に、娘の願いとは別の何かを見つけていた。自分にもあんな息子が欲しかった……もしいたら、あの三人は友人になってくれただろうか? 支えてくれただろうか? そんな事を考えるアルバーハ王。
◇
クルトアの王であるアルバーハ・クルトアは、ゲームではルーデル以上の脇役だ。モブキャラと言っていいかも知れない扱いだった。名前が少し出て、戦争のイベントでは画面に一度映っただけ……周りの女性陣は、必要以上に出番がある中、王は一言もしゃべらない。
そんなキャラである王様は、細かな設定も何もない。王妃ですら、裏ルートで恋愛イベントがあるキャラなのに……それを思うと可哀想な王様なのかもしれない。