人形姫と三馬鹿と王族
三学期に入ると、ルーデル達のクラスは真剣そのものだった。クラスの担任がこんなクラスは初めてだと思うくらいにトーナメントの準備を進めるのだ。二年間の成果を見せるクラス対抗の学年別トーナメントは、例年も熱が入るが、今年は王族も来るため熱の入り方が違う。
そして、ルーデルのクラスはそれ以上に、ルーデルを無理やりの卒業から救おうと熱が入っているのだった。そんな熱の入りが違う今年のトーナメントに置いて、優勝候補のクラスはギスギスとしていた。
二学期の事件で、アレイストは学園の英雄になったが、クラスの雰囲気は悪い。森でもいい争いが未だに響いているのだ。それでも強いアレイストに文句を言える生徒はいないからクラスの不満はたまりばかりだ。今ではあまり授業にも出てこないアレイストの陰口がクラスの憂さ晴らしになっていた。
そんな状況で始まろうとしていたトーナメント。
そしてそんな訓練に明け暮れるルーデルのクラスに、リュークとユニアスがクラスの代表を連れて現れる。夕方のグラウンドで、三クラスの生徒達が集まって、何やら不思議な雰囲気を出していた。
「ルーデル、話は聞いた。今回のお前のクラスの目的も知っている」
リュークが切り出した内容に、ルーデルのクラスは協力してくれるのかと淡い期待を抱く。イズミでさえ、仲がよさそうなこの三人なら……と期待した。だが、ユニアスは告げる。
「話は聞いたが、俺達は全力でお前達を叩き潰す事にした。今回のトーナメントな、一回戦はリュークで、そこで勝ったら俺達と当たる筈だ。そして間違いで勝ったとしても、最後はアレイストのクラスが相手になる筈だ。お前達に勝ち目はないぜ」
それだけ言うと二人はクラスの代表を連れて去っていく。その言葉にイズミも落ち込む。二人はそれぞれ魔法と剣術の分野ではずば抜けている。そんな二人のいるクラスに勝つならチーム戦である事を利用しないと……そう考えた時だ。ルーデルが去っていく二人に対し
「俺は大将として参加する! 二人は?」
堂々と自分が大将になると宣言してしまった! その場が微妙な空気になる中で、二人はただ手を挙げただけで応えて去って行った。
「な、なっ、何を言っているんだルーデル!!!」
イズミの声がグラウンドに響き渡る。
◇
去っていく二人とクラスの代表たちは、自分達のクラスのリーダーである二人に声をかける。
「い、いいんですかリューク様? アルセス様は今回優勝しないと……」
そんな発言をした代表に、リュークは言い放つ。
「もしトーナメントで手でも抜いてみろ。私はお前を許さないぞ……」
冷たく言い放つリュークに対し、ユニアスも立ち止まって全員を見渡す。そしてその獰猛な顔つきで宣言するのだ。
「今回のトーナメントで、負けるよりも手を抜いたら絶対に許さねぇ! 他のクラスはどうでもいいが、ルーデルのクラスにだけは手を抜くな!」
「はぁ、ユニアス……それではルーデルのクラスに当たる前に負けても文句を言えないぞ?」
呆れるリュークに対し、ユニアスは笑って答える。
「馬鹿かお前は? 俺達が負ける相手なんて、アレイストのクラスかルーデルのクラスしかないだろうが……俺は、あいつに対しては絶対に手を抜かないって決めたんだ。」
リュークもユニアスも、別にルーデルが嫌いだから全力を出すのではない。認めているから全力を出すのだ。そして真剣に相手をして、それで勝っても負けても文句はない……これが二人の結論だ。
「ルーデルは、手を抜いたら許さないだろうからな」
「あの野郎……俺達にまで挑戦してきたぜ。お前はどうするリューク?」
遠くに離れたルーデルのクラスを振り返るリューク。
「無論、俺が相手をする……大将戦は俺が出る」
その言葉にリュークのクラスはどよめく。勝つ事を優先するなら、リュークはルーデルと当たらない方が良い。しかし、その答えに続くようにユニアスも
「当然俺も大将だ! あいつとは、一度戦いたかったしな」
ユニアスもルーデルのクラスを振り返る。そこではイズミに追いかけられるルーデルの姿が、遠目に確認できる。そしてイズミに捕まったルーデルは、二人の方に向かって叫ぶのだ。
「俺が、いや! 俺達が絶対に勝つ!!!」
そんな声に笑って歩き出す二人。その後をクラスメイト達が追いかける。……そんな彼らの後ろからは、ルーデルやルーデルのクラスメイト達の笑い声が聞こえるのだった。
◇
そしてトーナメント当日。会場にはクルトアの王である『アルバーハ・クルトア』と王妃である『シエル・クルトア』に第一王女である『アイリーン・クルトア』が会場の貴賓室で、トーナメントの舞台である会場を見下ろしていた。
三人は、上級騎士に守られながら悠々と会場を見ていた。そんな三人の傍には、学園長が控えている。そんな部屋に、第二王女であるフィナが入室してきた。そう、家族を招待したのはフィナなのだ。
「元気そうだなフィナ。まぁ、一月しか経っていないがな」
そう言って笑う王である父。
「未だに表情も出ないのかしら? 学園に通えばましになると思っていたのに……」
皮肉を言う母である王妃。そんな王妃を王がなだめると
「フィナ、学園はどう? 私は通った事がないからとても興味があるわ……あなたは長期休暇の時も話してくれないし、学園での事を聞かせてくれる?」
「お久しぶりです父上、母上……そして姉上」
完璧なお辞儀をしながら、無表情は変わらないフィナ。そんなフィナの家族に対する感想は
(ほんと家の王家って駄目家族なんだよね……特に姉さんがヤバイし! もしもミィーと言う私の子猫ちゃんの事が知られたら……こいつは絶対に殺しに来る! 断言する! 母上とかはまぁ何時もの事だし、父上は……まだましかな?)
冷めた感想を家族に対して持っている。
そうしてフィナも貴賓室の席に座り、会場を見渡す……生徒達で埋め尽くされた会場には、それぞれのクラスを応援する横断幕や、旗が掲げられている。会場の熱気も今年は王族が来ている事から高い。
(暑苦しいな。ミィーのモフモフで熱いなら我慢するっていうか……モフモフのためなら私は!!!)
そんな事を無表情で考えつつ、父である王がフィナに質問してくる。
「で、どうなのだ? アルセス家の嫡男は、お前が言うには優秀で、上級騎士もドラグーンも同意見だったが……何と言うか、斜め上の報告をしてきて反応に困る。カトレアも大分嫌っていたぞ? それに書類でも優秀とはいいがたいな。まぁ、面白いとは思うが」
「アルセス家は落ちぶれましたね。今では三公の地位も名ばかり……そんな家の嫡男に興味があると聞いた時は、正気を疑いましたよフィナ」
嫌味を混ぜないと話す事も出来ない母を、内心では無視していると姉であるアイリーンが
「好戦的なのでしょう? そんな野蛮な人は、亜人と同じで私は嫌いです! 力を持つのなら、カトレアの言っていたハーディ家のアレイスト殿のような方が理想ですね。そう思うでしょうフィナ?」
「……そうですね」
曖昧に答えるフィナ。だが内心は
(え? あの男好きがいいの? 姉さんってそう言う趣味なのか……一生相いれないな。モフモフ以上に良い物なんか存在しないのに! あっ! でも師匠は別ね! あの人はクルトアの国宝よ! 国宝!!! それにしても、相変わらずモフ……もとい、亜人嫌いね)
そうした会話をしていると、王族に対して選手たちが礼をしてくる。それに応えて王族も手を振るのだが……
「全く……こんな事に時間を使うなんて……」
「亜人が居ますね。どうして亜人を出すのです? 減らして人間を出したらいいのに……」
「はぁ、少しは落ち着かんか二人とも。フィナを見習ったらどうだ」
そんな話を振られたフィナは
(おいおい!!! 亜人もとい! モフモフがあんなに沢山……ハァハァ、ミィーごめんなさい! 私は浮気してしまうかも!!!)
……一番酷かった。