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少年と敵前逃亡

 森での行事が開始すると、ルーデル達は急いで最初のポイントを目指した。自分達が定めた目標地点を目指して森を進むクラスには、私語も少ない。先頭はイズミで、その少し後ろをルーデルが歩いている。クラスで緊急事態に対処できるのは、イズミかルーデルくらいだ。


 それを考えてイズミに先頭を任せ、ルーデルはその後ろで全体に指示を出していた。


 これは、イズミが魔法を不得手にしている事も大きい。できなくはないが、得意である剣術にどうしても頼ってしまう。その点、ルーデルは弱点がない。剣術も魔法も得意とし、どこに居ても仕事こなす万能タイプだ。


「やっぱり貴族のクラスは出遅れているな……このままだと平民のクラスとの勝負だけど……」


 ルーデルが周りを警戒しながら、段々と違うルートを進む他のクラスを確認している。だが、貴族のクラスも一クラスだけは、ルーデル達とほぼ同じスピードで森を進んでいた。


「王女様のクラスは優秀だな」


 イズミも、先頭を歩きながら離れていく王女のクラスを確認した。そこには、後方をついて行くクルストの姿も確認できた。取り巻きに荷物を持たせ、自分は武器を持っているだけの状態だ。それと、クラスから微妙な距離を取っている。


「クルストは戦闘要員か? それも後方を任されているんだから、中々優秀なんだな」


 ルーデルは、そんな弟の事を感心して見ていた。だがすぐに、視線はクラス全体を見渡し始めた。……もう興味が無くなったらしい。イズミからしたら、ただついて行っているクルストは、王女のクラスではお荷物に見えた。


 実際にクルストは、クラスから一定の距離を取られ、後方の戦闘要員もクルスト以外が用意されていた。


「本当にルーデルは……興味がない事はいい加減だな。それもらしいと言えば、らしいが……」


 イズミは溜息を吐く。そして視線を前に向け、森の奥へ奥へと突き進むのだった。



 去年と同じように、アレイストのクラスは突き進む……事は出来なかった。それは、学園から去年の反省を踏まえた注意事項が追加されていたからだ。


『無暗に森を破壊してはならない』


 これは、去年のアレイストの行動を受けて追加された項目だった。アレイストも出発前の注意事項の再確認ではじめて聞いたため……事前にプリントは配られていたが、確認を怠っていたのだ。


「どうすんだよアレイスト! このままだと最下位は確定だ!」

「もう魔法を使おうよ!」

「馬鹿! 護衛が監視してんだぞ……見つかって失格になりたいのか?」


 そんな慌てだすクラスを率い、アレイストは下級魔法を使って魔物や木々を相手に森を進む……それは非常に困難な道のりだった。クラスメイトはすぐに自分勝手に動きだし、戦闘が始まると隠れてしまう連中まで出てきて、それを探すのにまた苦労して……


 これは去年のルーデルと同じか、それ以下の状況だった。


「お前らもいい加減にしろ! 俺だけに全部任せて……さっきから誰か戦闘に参加したか? 参加してないよな! 俺だけが戦闘してんだから!!!」


 そんな状況にアレイストも我慢の限界を迎える。アレイストのクラスは、その場で言い争いを始めてしまう。それは足を止め、クラスの順位が下がる原因でもあった。



「姫様、大丈夫ですか?」


 森に学園の基礎課程の生徒達が入ってから三日目。早いクラスならそろそろゴールしてもいい頃に来ている。そして王女のクラスもその早いクラスに分類されていた。


「ええ、大丈夫よ」

(大丈夫? 大丈夫な訳ねーだろうが!!! お前らこの三日でどれだけのモフモフを亡き者にしてきた!!! 私の前だからって張り切りやがって……普段は相手にもしない癖に! それにクルストだ! あの野郎……私に近付いてきたキラーラビットを斬り捨てやがった! 私なら数回の突撃に耐えたのに! 耐えてモフモフしたのに!!!)


「王女様、このクルストの活躍をお忘れではありませんよね? 王女様の危機に駆け付けたこのクルストが、この先も王女様をお守りいたします!」


 クルストが、護衛の隙をついて現れたキラーラビットを倒した事で、王女に近付く事に文句を言う護衛たちもクルスト本人に言い返され、このように王女の近くに居る事になった。本当は、護衛の隙を突いたのは王女なのだが……


「ありがとうクルスト……頼もしく思います」

(はぁ? お前は私の後をついてきただけだろ。ていうか……気持ち悪い!)


 そんなクルストに、無表情で答えるフィナ……しかし、その時には上空に黒く白い模様の入った凶鳥が、王女のクラスを獲物と定め舞い降りようとしていた。



 ゴールを目指すルーデルのクラスは、多少の疲れを見せつつも全員が最後の力を振り絞ってゴールを目指していた。このままいけば、上位は確実! 一位だってあり得た。……だが


「た、助けて!!!」

「誰か!!!」


 自分達の進路方向の真横から現れたのは、下級生の貴族の生徒達だった。貴族の生徒達が、三日目でゴール手前に居るという事は……この生徒達が王女のクラスメイトだという事だ。しかし、クラスメイトが行方不明、またははぐれた段階でクラスは失格の筈である。


「君達はどうしてここに? ゴールはクラス別に用意してある筈だぞ」


 イズミが近寄って下級生達を問い詰める。


「お、王女様が! 王女様が黒い鳥に!」

「大きな鳥の魔物が現れて……護衛も出てきたんですけど、私たちは逃げる事しか……」


 その言葉を聞いて、ルーデルの目は真剣な物となる。


「方角は……王女たちのいる方角は!」


「あ、あっちです!」


 下級生が、ルーデルの大声に驚くた。震える指で今来た道を指し示すと……


「……全員聞いてくれ」


 ルーデルは、クラスメイト全員を一か所に集めて話し始める。



「ギャギャギャァァァ!!!」


 黒く、そして白い模様の入った凶鳥が、王女を守るために現れた護衛たちを吹き飛ばす。羽の羽ばたきと、四本もある足で護衛たちを蹴散らしていく……蹴散らされた護衛たちは、王女の為に用意された凄腕達だった。しかし彼らは……


「この化け物が! さっきから身体が上手く動かねぇ!」

「何かしてやがる! 誰でもいいから王女を連れて逃げろ!!!」

「身体さえ動けば……こんな鳥モドキ!」


 そんな光景を、クラスメイトでもある護衛達に守られながら見ていたフィナ。


(ああ、流石の私でも、あの黒い鳥にモフモフは無理だな)


 現実逃避をしていた。それと言うのも、身体が上手く動かないのだ。足に力が入らない……腕も自分の物ではないような感覚……この時、逃げ切れなかった生徒達は死を覚悟していた。


 黒い鳥の体中にある赤い瞳が一斉に王女を捉える。その瞳の数は異常であり、それに見られたモフモフ好きの王女も心の底から震えあがる。そこに白い影が飛び込む。


 王女と凶鳥の間に割って入ってきたのは、白猫族のミィーだった。


「な、何しているのミィー! 下がりなさい!」


 慌てる王女、しかし未だに表情はない。そんな王女に、ミィーは


「こ、怖いですけど頑張ります! 私の事を友達だって言ってくれた王女様の為に頑張ります! ……あ、あれ? 身体の力が、入らない?」


 威勢よく飛び出してきたミィーも、凶鳥の鳴き声の前に膝をつく……近付く凶鳥に、全員が白猫族の少女と王女の死を感じ取る。


 そしてまた、今度は白猫族のミィーと凶鳥の間に割って入る人物が現れた。だが、今度の人物は、最初から全開で攻撃を仕掛ける。


「吹き飛べぇぇぇ!!!」


 風属性の中級魔法を、森の中から飛び出してきたと同時に至近距離からぶちかました。それは魔力を限界までため込んだ必殺の魔法……ルーデルが、ドラグーンを目指すなら必殺技が欲しいと言ってバジルに教えて貰った奥の手だった。


 両手から放たれた二発の風魔法は、中級とは思えない破壊力を見せた。吹き飛ぶ凶鳥に、その場にいた全員が唖然とする。


「し、師匠!」

(師匠マジでカッケ~!!!)

「あ、あの時の貴族様?」


 そんな中で、フィナとミィーが最初に言葉を発するが


「……今だ逃げるぞ!」


「え?」

「にゃ?」


 その言葉と同時に、ルーデルのクラスメイト達が倒れた生徒や護衛たちを担いで逃げ出す。ルーデルも王女とミィーを担いで全速力で逃げ出した。


「なぜ逃げるのです? 今ので倒したのでしょう?」


 そんな王女の問いに


「まだ動いて目が死んでなかった。すぐに追いかけて来る!」


「さっきの魔法を使えば……」


 両脇に抱えられた形になる王女とミィー……そんなミィーの質問に、ルーデルは真顔で


「アレは必殺技だ! 俺がバジルと共に考えた、魔力の使用量も実戦での使用も考えない強力な必殺技!」


「そ、それが?」


「もう魔力がないから使えない。使っても動けなくなるから負ける!」


(師匠……使えねー!!!)

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