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ちょっとよく分からないです

「この馬鹿野郎が!」


 ユニアスがルーデルの頭に手を乗せ、髪を乱していた。ただ、声は本当に嬉しそうで目には涙が見える。


「本当にいつもやってくれる。お前もだ、アレイスト」


 リュークも嬉しそうに手袋をした手で親指を突き立て、アレイストに笑顔を向けてくるのだった。


 ただ、ルーデルに抱きつかれ、男たちからは笑顔を向けられているアレイストだが……。


「ねぇ、待って。本当に待って! ルーデル、最初はもっと他に抱きつく人がいると思うんだよ!」


 抱きつくルーデルを引きはがそうとするアレイストを、イズミが複雑そうな表情で見ていた。


 ミリアなど「もしかしてこの二人……」などと疑惑の視線を向けてくる有様だ。


 ルーデルはアレイストから離れ、髪を手で整えると肩をすくめた。


「馬鹿を言え。恩人である人にお礼を言うのは当然じゃないか。ん? イズミも来てたのか」


 イズミはついでの扱いを受けると、苦笑いをしていた。


「本当に良かったよ。素直に喜べない部分もあるんだが……」


 一瞬だけ。ほんの一瞬だけ、イズミがアレイストを敵として視線を向けた。アレイストは背筋が寒くなる。


 この場を乗り切るために、慌てて助教をルーデルに説明する事にした。


「そ、それよりこの状況なんだけど――」


 すると、ルーデルは横になっていた台からゆっくりと降りて背伸びをする。体の調子を確認しており、アレイストのハーレムメンバーが確保していたルーデルの武器を受け取った。


「おっとそうだったな」


 戦場を見れば、今もサクヤがゴーラを押しとどめ戦っていた。


 帝国軍は部隊を編成し、両翼の軍勢がこちらへと向かってきている。


 ルーデルは帝国軍を見て一言。


「さて……出るか」


 蘇ってすぐに敵と戦おうとしていた。アレイストが慌てて止めに入る。


「いや、それは流石にどうかと思うよ! 少しは休もうよ。それに、こっちも後続がどんどん集まってきているし」


 アレイストたちに近付いてくるのは、クルストだった。


「兄さん!」


「クルスト……お前、避難民はどうした?」


 クルストはルーデルの無事を確認すると安堵する。そして、状況を説明するのだ。


「大丈夫だ。もう預けてきた。こっちはアルセス家からの援軍も加えて五千にはなる。指揮官が必要だ。俺じゃこの規模は無理だ」


 クルストが無理だと言う理由は、それだけの兵士を率いた経験がないためだ。そして、クルストは指揮官としての教育を学園で受けていなかった。


「兄さんたちはその辺りの教育を受けている。実戦経験もある。兄さんが指揮してくれれば――」


 ルーデルはクルストに右手を伸ばし、手を開くと「待て」と言うのだ。そして、ルーデルは空を見上げてから、クルストへと視線を戻す。


「悪いがお勉強は出来ても指揮官としての経験不足だ。ベネット中隊長にお願いしよう」


 話を振られたベネットが、耳や髪を逆立てて首を横に振るのだった。


「無理を言うな。私だってこの規模の地上部隊の指揮をした実績はないんだ。というか、この場で指揮権を持てるとすれば……」


 ベネットがルーデル、アレイスト、リューク、ユニアスの順番に視線を巡らせる。


 ――全員視線を逸らした。


「中隊長、俺はドラグーンです。地上部隊の指揮など経験不足。分かりません!」


「いや、私もドラグーンだぞ! というか、お前は学園で教育を受けたはずだ!」


 アレイストが視線を逸らした理由は、単純に自信がないからだ。チートを失い、今では戦う力すら怪しい。


 ユニアスがリュークを見て視線で「やれ」と言っている。


 しかし、リュークは――。


「どうやら魔法陣を用意している厄介な部隊がいるらしい。ヤレヤレ、私でないと対処できないな。私が対処する。後は頼んだぞ。来い、バーガス!」


「お、おい、いいのかよ!」


「知るか。面倒な事などやってられん」


 ――我先にと逃げ出した。


 ユニアスもハッとなって武器を担いでその場から離れる。


「よ、よく見ればロシュアス将軍がいるな。俺の実家はあの将軍と因縁があるんだ。うん、俺はソッチを担当しよう」


 それじゃ! などと言って部下を連れて逃げ出すユニアス。


 全員の視線がルーデルとアレイストに集まった。


「に、兄さん?」


 クルストがルーデルを見た。


(まぁ、僕よりルーデルの方が相応しいよね)


 すると、ルーデルが口笛を吹いた。その口笛に反応して、サクヤが空へと舞い上がりこちらへと下がってくる。


 ルーデルは咳払いをする。


「アレだ。あの黒い奴がいるなら、数を揃えても意味がない。だから、上のドラゴンと下の巨人を相手にする必要があると思うんだ」


 全員が正論だと思っていると、サクヤがルーデルの真上に来て手を伸ばした。


 すぐさまその掌に跳び乗ったルーデルは、全員に向かって言う。


「俺、ドラグーンだから地上部隊の事はクルスト、お前に任せる。アレイスト!」


「え?」


 ルーデルがゴーラを指差した。


「俺は上の黒いドラゴンをやる。お前にはあの黒いのを任せる」


 言われてアレイストが慌てて。


「いや、僕はもう力が――」


 ルーデルは微笑むのだった。


「心配ない。あの世の入口でサクヤが言っていた。お前は大丈夫だ。さぁ、出撃だ、アレイスト!」


 サクヤが大きく羽ばたくと、そのままルーデルは空へと向かう。イズミがルーデルを応用に跳び上がると、サクヤが丁寧にイズミを回収して背に乗せた。


「……え?」


 大丈夫と言われたアレイストがゴーラを見ると、こちらへと向かってきていた。サクヤがいなくなり、真っ先にアレイストを狙っている様子だ。


「ちょっと待ってぇぇぇ!!」


 混乱するアレイストには、愛馬であるナイトメアのヒースが近付いてくる。


「お、お前……今までどこに」


 溜息を吐いたミリアが、アレイストに言うのだ。


「アレイスト、しっかりしなさい。あんたがアレをどうにかしないと私たちも危ないんだからね! ほら、手伝って上げるから早く」


 アレイストが頷く。


 すると、ベネットが肩をすくめた。


「私も協力しよう。流石に黒騎士殿だけでは辛いだろうからな。しかし、もう少し戦力が欲しい」


 ベネットの言葉に、アレイストが――。


「もう一騎……ドラグーンがいれば」


 すると、新たなドラグーンがアレイストたちの真上に登場する。


「呼んだかい?」


 そこにはドラグーン一の空戦技術を持つキースが、キメ顔でアレイストを見ていた。


「キースさん!」


「大事なアレイスト君の頼みだ。うん、ここは協力しようじゃないか」


 ベネットが顔をひくつかせる。


「お前……今までどこで何をしていた」



 空の上。


 そこには黒いワイヴァーンと戦うドラゴンたちがいた。


 激しい空中戦が広げられている大空に舞い上がったサクヤは、ルーデルを背に乗せて喜んでいた。


『もう会えないかと思ったんだよぉ!』


 喜び、そして涙しているサクヤの背中を、ルーデルは優しく撫でるのだった。


「悪かったな。でも、もう大丈夫だ」


 一度死に、そして蘇ったルーデルは少し解放されたような顔をしていた。


 イズミがそんなルーデルを見て、気になったのか口にする。


「何かあったのか?」


 ルーデルは目を閉じ、そして死の入口にいた事を思い出すのだった。


「サクヤに怒られたよ」


『私?』


 ドラゴンであるサクヤが混乱していると、ルーデルは「違うよ」と言って目を開き、空を見た。目の前にはサクヤに向かって大きな口を開くワイヴァーンの姿が映る。


 右手を前に向け、光の剣を作り出すと回転をかけてワイヴァーンへと放つルーデル。


 目の前のワイヴァーンが、光の剣を受け頭部を吹き飛ばし黒い煙となって消え去るのだった。


「ドラグーンは人とドラゴンで一騎。離れてどうする、ってね」


 イズミは少し悲しそうに笑う。


「そうか。助けてくれたのか」


 ルーデルはサクヤへと指示を出す。


「サクヤ、ドラグーンの本領は空にある。帝国の奴らに本物のドラグーンの力を見せてやろう」


『うん!』


 サクヤが咆吼すると、空の上で戦っていたワイヴァーンたちがルーデルへと敵意を向けてくる。


 一番敵意を向けてくるのは、邪竜だった。


 サクヤへと近付き、そして大きな口を開けてブレスを放ってくる。


『本当にしつこい! 何度でもあの世に送ってくれるわ!』


 ルーデルはそんな邪竜の言葉に笑いながら。


「それは困る。俺としても、何度もサクヤに叱られるわけにはいかないからな。それと、俺はドラグーンだ。相棒がいる俺はひと味違うと教えといてやる」


 サクヤに指示を出し、そのまま互いにブレスを撃ち合う。


 サクヤがその四枚の翼を使用し、急旋回すると邪竜が追いかけてくる。


『逃げるか!』


 背中を見せたサクヤに向かって、邪竜が大きな口を開けるとルーデルが笑う。


「逃げる? 違うな」


 右手を真っ直ぐに邪竜へと伸ばすルーデルは、特大の剣をその周囲にいくつも作り出した。それらが回転し、邪竜がブレスを放とうとする直前に撃ち放つ。


『グゥッ!!』


 頭部が煙に包まれる邪竜。しかし、たいしてダメージにはなっていなかった。


『この程度で! やれ、お前たち!』


 周囲のワイヴァーンがサクヤ目がけて押し寄せると、ルーデルは作り出した光の剣をそれらワイヴァーンに向かって放った。


 貫き、爆発し、襲いかかってきたワイヴァーンたちが黒い煙となって消えていく。


「この程度か?」


 挑発するルーデルに、邪竜がその真っ赤な瞳を見開いた。


『このイレギュラー共がぁぁぁ!! ……ッ!』


 口を大きく開き、翼も開いてその場にとどまった邪竜。しかし、そんなところに周囲のドラゴンたちから一斉射を浴びる。


 そして、耐えきった邪竜に真上から青いドラゴンが迫っていた。


 ミスティスだ。


『頭上がガラ空きよ!』


 真上から拳を振り降ろし、邪竜は頭部から地面へと落下していく。渾身の一撃を放ったミスティスだが、ワイヴァーンたちを大量に屠ったが傷も目立っていた。


『シャァッ!』

「シャァッ!」


 ポーズを決めるミスティス。そして……その背に乗るレナ。


 その姿を見て、ルーデルが唖然とする。


「どういう事だ、レナ!」


 イズミも驚いていた。


 ただ、レナはルーデルに向かってウインクをしながら、片腕を上げて挨拶をしてくる。


「私、レナ・アルセスは今日からミスティスの相棒になりました! よろしくね、兄ちゃん」


『そういう事よ』


 ミスティスが納得しており、ルーデルも困惑していた。だが、この場で混乱ばかりもしていられない。


「そ、そうですか。色々と聞きたい事もあるが、今はあいつだな」


 下を見ると、そこには邪竜が地面から起き上がっている姿があった。頭にきているようで、体からまた新たに大量のワイヴァーンを生み出している。


 ミスティスが嫌そうにしていた。


『ちっ、また大量に増やして。あいつらに負ける気はしないけど数が多いのよね。あの黒いのに近付くのが大変よ』


 ルーデルは地面を見下ろしつつ。


「ミスティス様……俺とサクヤに任せてみませんか。アレ、随分と上達したんですよね」


 それを聞いて、ミスティスが頷いた。


『いいんじゃない。でも、あの野郎は私たちをトカゲ呼ばわりしたわ。しっかり教え込んでやりなさいよ』


 イズミが思い出したように。


「ルーデル、まさかセレスティアで使用した……」


 ルーデル目がけて舞い上がってくる邪竜。


 そんな邪竜を誘うように、サクヤは空高くへと舞い上がるのだった。


「来い、相手をしてやろう」


『抜かせ、この脇役風情が!』


 邪竜がソラに向かってブレスを放つが、それらをサクヤがルーデルの指示で回避していく。


 ドラゴンとワイヴァーンが激しく戦う戦場から離れ、そして邪竜と向き合うのだった。


 雲を突き抜けた先の空高く。


 二体のドラゴンが向き合う。


『そうやって何度も我らの邪魔をする。殺しても蘇るなら、今度は灰も残さず消し飛ばしてくれる!』


 邪竜が威勢よく咆吼すると、サクヤも空の上でゆっくりと構えた。


「一つ教えてやる」


『……なんだ』


「ドラグーンを舐めない事だ。騎士一人、ドラゴン一体だが……揃えば厄介だという事を教えてやる」


『サクヤとルーデルは最強なんだぞ!』


 サクヤが咆吼すると、邪竜がルーデルたちに向かって突撃してきた。サクヤが四枚の羽根を大きく開き、そしてルーデルは白騎士の力を解放する。


「地上では見せられなかったが、ここなら問題ない。サクヤ、全力を出すぞ」


『うん!』


 ルーデルからあふれ出た光が、サクヤを包み込むとサクヤに紋様が浮かび上がった。


 四枚の翼の他に、光の翼が一対……。


 サクヤを守る光の鎧が作り出され、そしてそれは神々しい光を放っていた。翼の更に後ろには、黄金の輪が出来る。


 イズミがその姿を見て、風に揺れる髪を押さえながら呟いた。


「……綺麗だ」


 白い竜が黄金の鎧を纏い、そして向かってくる邪竜をその両手で押さえつけた。


『な、なにっ!』


 邪竜が驚いている。先程までのサクヤと違うと気が付いたのだろう。


 サクヤが咆吼しながら、邪竜へと右フックを放つ。


 殴られた邪竜が、吹き飛び雲の中へと消えるとそこからブレスを放ってきた。


 サクヤの周囲に黄金の盾がいくつも出現し、それらを防ぐ。


 邪竜が雲から飛び出てくると、サクヤを翻弄しようとスピードを上げて回り込もうとする。


 しかし、そんな邪竜へとすぐにサクヤが反応して追いかける。すぐ後ろにピッタリと距離を保ち追いかけてくるサクヤに、邪竜が逃げ惑っていた。


『お、おのれ。おのれぇぇぇ!!』


 立ち止まって振り返り、ブレスを放つがそれを華麗に避けたサクヤは必殺の――。


『ワンツー、フィニッシュ!』


 左腕、右腕、そして尻尾による三連続の攻撃を邪竜へと叩き込んだ。その衝撃で雲が大きく動き、そして形を変えていく。今まで貫けなかった邪竜の皮膚に亀裂が入り、そして邪竜が血を流す。


『ば、馬鹿にして……』


 邪竜がルーデルとサクヤを睨み付ける。ドラゴンが殴りかかってくるのが許せないらしい。


 イズミには、その気持ちが少し理解できるようだ。


「まぁ、確かに少し理不尽だよな」


 ルーデルは邪竜を見ながら腕を組んだ。


「さぁ、遊びは終わりだ」


 すると、邪竜が笑い出す。


『そうか。代償石か。アレイストがその身に宿した能力を代償に、貴様を蘇らせたか!』


 笑い出したじ邪竜は、ルーデルを見ながら指を指してくる。どうやって調べたのか、ルーデルが蘇った方法を知ったようだ。


「正解だ」


 ルーデルは短くそう言うと、攻撃の準備に入る。


『なら、私を引き離したのは間違いだったな。貴様が残るべきだった。今頃、地上ではゴーラにより蹂躙が始まっているだろう。ここで貴様らを引き留めれば、勝利は我々の――』


「……残念だが、それは無理だ」


 邪竜の言葉を遮り、ルーデルは告げる。


「地上に残ったアレイスト、リューク、ユニアスは俺の友人たちだ。学園では何度も戦い、その度に苦労させられてきた」


 ルーデルがゆっくりと剣を抜き、邪竜へと剣先を向けた。


「舐めるなよ。アレイストが例え無限の魔力や才能、その他諸々を失おうと……培ってきたものまでは消え去らない。あいつは強いんだ。俺が認めた男だぞ」


 邪竜が咆吼し、サクヤへと向かってくる。


 サクヤも六枚になった翼を大きく広げ、そして邪竜へと突撃するのだった。


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