表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/167

少年とお見合い相手

 二年生の二学期を前に、長期休暇に実家に戻るルーデル。そこで彼にはイベントが待っていた。正確には、アレイストのイベントに関係して起こる出来事だ。クルストの謹慎処分を受け、アルセス家では立場を気にしてルーデルに婚約を決めようとしていた。


 その相手には、王族の信頼があり実力もある人物が選ばれたのである。本来なら家の格にあった相手を探すはずが、アルセス家が落ち目であるためそれもかなわなかった。


 色々と事情が絡み合い、相手に選ばれたのはドラグーンの二人『カトレア・ニアニス』と『リリム』。カトレアは格下の貴族の出身だが、ドラグーンとして天才と言われ王族の信頼もある。


 リリムは、エルフである。だが、その魔法の才能と長寿である事からドラグーンでも期待された逸材だった。一応は選ばれたが、誰もリリムが選ばれるとは思っていない。要は数合わせなのだ。これはルーデルに対しての嫌味でもあった。


 アルセス家は亜人を差別する。そんな家で、婚約者候補にエルフを選ばれる……それは屈辱だろう、と思われているのだ。しかも相手はドラグーン……下手に他家にも笑われる事はない、と浅はかな考えも織り込まれていた。


 実際は失笑を買っているのだが……


 そんな事を知らずに実家に戻ってきたルーデル。帰ると妹のレナにお土産と学園での話をするのだが……妹の様子がおかしかった。それに気付いて話を聞くと……


「俺が婚約! ……いや、別に不思議でもないが、急に話が決まったな?」


「まだ婚約候補を決めるだけだよ! 相手はドラグーンの女性騎士だって言ってた」


 ルーデルはその一言に感動した! それはもう飛び跳ねるほどに……


「本当かレナ! 相手はドラグーンだったのか……これは急いで準備しなければいけないな!」


「兄ちゃん……嬉しそうだね」


「当たり前だろ! ドラゴンに会えるかもしれないんだぞ!」


「……兄ちゃんは、やっぱり兄ちゃんだね」



 そうして顔合わせを迎える当日、ドラゴンに乗った二人がアルセス領を目指していた。眼下に広がる街は、空からでも活気がないのが分かる。人に行き気が極端に少ないのだ……他の領地を知るドラグーンからしたら、アルセスの統治は異常だった。


「こんな領地に嫁ぐなんて最悪よね」


 そんな事をレッドドラゴンに乗りながら呟くカトレア……隣を飛ぶウインドドラゴンの背に乗るリリムはその呟きに答える。


「あなたが婚約するのは決定事項ですが、気が早いですねカトレア」


「ふん、先輩はいいですよね……選ばれる事なんて絶対にないですから!」


 カトレアにとってリリムは苦手な相手だ。戦闘スタイルも相性が悪い上に、先輩……その上ウインドドラゴンに選ばれた実力者であれば文句も言えない。


 そんなリリムは、金色の髪に白い肌……しかし目は瞑ったままだ。目が見えない訳ではない……彼女には目を見開けない訳がある。


「妹から聞いたのですが、そんなに酷い人物でもないといいますよ? 副団長も中々の腕前と評していますから、あなたが嫌う訳が分かりませんね……顔が好みと違うのですか」


「……顔も普通ですよ……でも、あいつだけは駄目なんです! あいつは……」


 カトレアの顔が暗くなる……雰囲気でそれを察したリリムは、それ以上口を出さない。


 そんな微妙な空の旅を終えて、二人はアルセス家の庭にドラゴンを着陸させた……だがそこで飛び込んできたのは、一人の人物だった。ドラゴン相手に恐れず飛び込んでくる者など……嫌な予感しかしない。


 だが、その人物は……ドラゴンに抱き着いていた。嫌がるウインドドラゴンは、羽を動かし抵抗する。このままでは殺してしまう恐れもあるため、リリムは警戒してその人物へと近付いた。


「何をしているのですか?」


「……すいません。嬉しくてつい……反省しています」


 その人物とは、やはりルーデルだった。着ている服装や妹から聞いている風貌などを、少しだけ目を空けて確認するとリリムは警戒を解いて自分のドラゴンをなだめる。


 間近で見るドラゴンは、その大きな体と姿形から恐れられている。そんなドラゴンに、ドラグーンでもないのに飛びつく変人……リリムの最初の感想はその程度の物だった。



 屋敷の中へ案内された二人は、ルーデルとの顔合わせを予定していた部屋に通された。元々は、この部屋で顔を会わせる予定だったのに……ルーデルが非礼を働いたために二人はお茶を飲んで待機している。


「変な奴でしょう先輩。私は家の命令だからここに居ますけど、先輩は何で拒否しなかったんですか?」


 お茶を飲みながらそんな質問をカトレアにされ、リリムは答える。


「私はエルフで、いくら功績を得ても家名は貰えない。例外は貴族の家に嫁いで、産まれた子供が家名を名乗る事くらい……エルフの長老衆の頼みも関係ありますが……妹が興味を持った人物というのが気になりました。まぁ、ここの当主は嫌がらせが目的らしいですがね」


 クルトアでは、未だに亜人は冷遇されている。それでも国の騎士になれるのは、隣国がガイア帝国と言う軍事国家だからだ。実力主義でいなければ、すぐに隣国との差が開いてしまう。


 それが『世界の設定』であった。


 そんな二人の話をさえぎるように、当主であるルーデルの父が現れる。


「先程は失礼を……不出来な息子でね。許して欲しい」


 言葉では一応の謝罪をするが、その態度は明らかに二人を見下していた。二人はそれを気にしないように立ち上がって大公に騎士らしい礼をする。そんな所に、次はルーデルが現れた。


「お、お待たせしました!」


「ルーデル! 貴様は何をしている! このアルセス家の面汚しが……すぐにお二人のお相手をしろ」


 そう言ってルーデルの父は部屋から出ていった。本来ならあり得ない対応だが、アルセス家からしたら二人は格下の弱小貴族と亜人だ。国でも尊敬されるドラグーンでなければ、二人の事などその辺の石ころと思っているルーデルの父。


「これはルーデル様、今回は大変光栄な……はぁ」


 挨拶をしようとしたカトレアが、途中で止めて溜息を吐いて椅子に座る。ルーデルの顔を見ようともしない。正確には、見ていると殺意を覚えるのだ。


「カトレア……すみませんルーデル様。私ではご不満でしょうが相手をさせて頂きます。私はリリム……見ての通りエルフです」


 カトレアの態度に落ち込んでいたルーデル……気分は好きなアイドルに嫌われた感じだろう。しかし、リリムが挨拶をしてくるといきなり上機嫌になる。


「ルーデル・アルセスです。最も尊敬するドラグーンにお会いできて光栄です!」


 ルーデルは、ドラグーンの騎士をほとんど知っている。それは有名無名を含めてだ。その中には、有力なリリムの名前も当然把握しているのだ。目を輝かせて近寄るルーデルに、リリムは少し後ずさる。


「妹の言う通りですね……そんなにドラグーンに憧れているのですか?」


「はい! 絶対になってみせます!」


 ……リリムは内心では難しいと考えていた。自分すら、ドラグーンになれたのを奇跡だと思っているのだ。それをそこそこ評価されているだけのルーデルに可能とは思えなかった。


 だからだろう……ルーデルを外に誘い、自分のドラゴンの背に乗せたのは……



「す、凄い! 凄い!!!」


 ルーデルと共にドラゴンの背に乗ったリリム。自慢のウインドドラゴンのスピードに、ルーデルも喜んでいるようで何より……そう考えていた。空気の抵抗は、ドラゴンの魔法が防いでいる。そのおかげで、空をどんなに早く移動していても、上空から自由に領地を見下ろせているのだ。


「満足いただけましたかルーデル様? これで気も晴れたでしょう……」


「え?」


 この婚約にはもう一つだけ大事な話がある。それはルーデルに次期大公の自覚を持たせるという事だ。何時までもドラグーンになるという夢を見るなという事だ。


「カトレアが嫁ぐ事になるでしょうが、あなたはもっと現実を見なくてはいけない。結婚すれば、次期大公として大公の手助けをする事が大事になります」


「な、何を言っているんですか? リリム様、俺は!」


「あなたの事は妹から聞いています。成績も優秀で、多少の問題もあるようですが亜人にも寛容だと……そんなあなたは、領地の事を第一に考え行動すべきですよ。ドラグーンになる事は諦めなさい。妻になるカトレアが、ルーデル様の分まで騎士として働きますよ」


 尊敬するドラグーンから言われた言葉は『諦めろ』……ルーデルにはその言葉がとても重く感じた。



 ルーデルとの顔合わせを終えて、二人は宿舎を目指していた。もう日も暮れて、帰る頃には夜になっているだろうと考えながら、カトレアはリリムをからかう。


「売り込みは成功しましたか先輩? それにしても酷ですよね……諦めろって」


「あなたは本当に……本来ならカトレアの仕事ですよ」


「まぁまぁ……でもこれであいつも諦めるでしょう。なんて言っても現役のドラグーンの言葉ですし……それに帰ってきた時のあいつの顔! 本当にこの世の終わりって顔をしてましたよ!」


 リリムは少しおかしく思う……カトレアは、本来このような事を言う人物ではない。天才肌で、周りを見下す事はあってもここまで酷くはなかった。寧ろ、ここまで負の感情を抱く理由が何なのか知りたいとすら思えた。


 空で何を話したか聞かれたリリムは、カトレアにありのままを話した。それを聞いたカトレアは「そんな手もありましたね!」とか「私が手を出す事もないかな?」など、普段の彼女から想像できない表情をしていた。


「……少し気の毒でしたね……」


 そんなリリムの声は、カトレアには届かなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 結局カトレアが嫌悪感を抱く理由はルーデルが自分より強くなりそうだからってだけ? うっすいなぁ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ