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 空の上ではドラゴンとワイヴァーンによる空中戦が繰り広げられていた。


 そんな中、サクヤがゴーラと戦いイズミたちの撤退を手助けしている。


 荒野となった戦場を逃げるイズミたち。


 周囲はアレイストに対してなんと言葉をかければいいのか分からない状況だ。何しろ、敵が言うには全ての元凶がアレイストであると言うのだ。


(鵜呑みにする事はできないが――)


 イズミはそう思いながらも、黙っているアレイストを警戒してしまうのだった。そんなイズミの態度に気が付いたのか、アレイストも黙っていた。


 空からは時折、ワイヴァーンやドラゴンのブレスが降り注ぎ爆発が起きていた。


 逃げる全員を守るようにヘリーネが飛んでおり、戦場から離れようとするとイズミたちの目の前にミリアが現われる。


 味方を連れている。


 援軍としては少なすぎるが、イズミたちには心強かった。


 大きく手を振るミリアは、イズミたちに向かって叫ぶ。


「こっちよ!」


 小高い丘を越えると、そこには空を見上げ地上で戦っているゴーラとサクヤに目をやっている兵士たちの姿があった。


 ミリアは同じ亜人の兵士たちに台を用意して貰うのだった。ただ、ルーデルの様子を見ると酷く驚いた表情になる。


「そ、そこに寝かせて。すぐに治療を――」


 そんなミリアに、ベネットが告げる。


「不要だ。心臓を一突き。致命傷だ」


 既に息をしていないルーデルに、ミリアは必死に涙を堪えていた。


「馬鹿よ。あんな変な命令なんか律儀に守るから。王宮の方はもう大丈夫だったのに」


 それを聞いて、イズミが確認を取る。


 ただ、台に寝かせたルーデルに手を触れていた。


「王宮の方はもう大丈夫なのか?」


 ミリアは涙を拭い、そして震える声で説明をするのだった。


「フィナ王女殿下が親衛隊を使って反乱を鎮圧したわ。大公家も協力してくれて……なのに、なんでこいつは死んじゃうのよ」


 ミリアの視線の先にはルーデルが少しだけ微笑んで目を閉じていた。


 イズミが動かなくなったルーデルの手を強く握りしめる。イズミもミリアの涙を見てルーデルが死んだと実感するのだった。


「本当にいつも私たちを困らせる。なのに、最後の最後でこんなの意味がな――」


 意味がない、と言おうとしたイズミにベネットがハッキリと告げるのだ。


「意味ならあった。ルーデルは援軍が来るまで一人でここを文字通り死守した。意味がなかったなど言うな」


 すると、ルーデルの周りに向かってくる集団が二つ。


 到着したばかりのリュークとユニアスだった。ドラゴンが現われ、彼らの部隊を輸送してくれたために到着が早まっていた。


「退け!」


 リュークが兵士や騎士を押しのけてルーデルのところに来ると、横になったルーデルを見て目を見開く。


 ユニアスも同様だが、リュークよりも荒々しく邪魔な兵士たちを押しのけてこの場にやってきた。


 そして、ルーデルを見るなり言うのだ。


「……馬鹿が。死にやがって」


 酷い一言だ。だが、その口調はとても残念そうで、そして酷く暗かった。ユニアスは突き刺さっていた黒い棒を抜く。


 リュークはすぐにルーデルの胸に両手をかざした。治療魔法を使用するためだ。


 アレイストが口を開く。


「リューク、もうルーデルは……」


 すると、誰よりも冷静そうなリュークがアレイストを睨み付け叫ぶ。


「黙っていろ。私は魔法に関しては誰よりも優れている。それこそ、お前やルーデル以上だ。私が一番だ。だから……黙っていろ」


 治療魔法も死者を蘇らせるのは不可能だ。魔法をいくら使用しても、死んだ肉体はなんの反応も示さなかった。


 イズミがリュークに止めるように言おうとするが、その顔を見て口を閉じる。


「私に不可能なんかあるものか。友人の一人や二人……救えないでどうする。私はリューク・ハルバデスだぞ。誰よりも魔法で優れて……」


 ルーデルを前に涙を流しながら、必死に魔法をかけ続けていた。その手は魔法による熱で焦げ始めている。


 ユニアスがリュークの腕を掴み、無理やりルーデルから引き離す。


「もういい! ここで無駄に魔力を使うな」


 リュークが叫ぶ。


「無駄? 無駄と言ったのか、お前は! そうか。どうせお前にとってルーデルはその程度……」


 リュークがユニアスの顔を見て言葉が続けられなくなった。ユニアスも泣いていた。


「いいか。死んだ人間を生き返らせるなんて俺にもお前にも出来ないんだよ。だけどよ、出来る事ぐらいはあるだろう。弔い合戦だ。帝国の奴らはまだここにいるんだよ。なら、やることは決まっているだろうが!」


 ユニアスの言葉にリュークは、掌が火傷状態になったまま拳を作った。リュークの部下であるバーガスが、涙を堪えながら治療するように周りに指示を出す。


 イズミはルーデルの頬に手を当てた。


「ルーデル、こんなにみんなを泣かせて……なのに自分だけ微笑んで。やっぱり、ルーデルは酷い奴だよ」


 すると、アレイストが叫ぶのだ。


「ぼ、僕がやる。ルーデルはまだ間に合う、と思うから」



 ルーデルは白い。とても白い空間にいた。


 ぼんやりと周囲を見ながら言った言葉は――。


「ここに来るのは二度目だな。前はサクヤと別れたときだったか?」


 ――などと落ち着いた様子でいると、ルーデルにポカンと音がするような拳が振り下ろされた。


 そこにはサクヤ――元女神であったサクヤが、人の姿で宙に浮いていた。


 そして目に涙を溜め、頬を膨らませ顔を赤くしている。


『ルーデルのばかっ! ばか、ばか、大ばか!』


 何度もポコポコと両手で叩いてくるサクヤを前に、ルーデルは笑っていた。


「なんだ、俺の出迎えはお前か? と、なると本当に死んだか?」


 サクヤがボロボロと泣き始める。


『アレだけ言ったじゃない! 一緒に戦おう、って! なのに、なんで自分の相棒から離れるのよ。一緒に戦うために私たち頑張ったのに!』


 泣いているサクヤの姿を見て、ルーデルはここが死後の世界かとボンヤリと考えていた。


「悪いな。頑張ってみたんだが……どうやら失敗したようだ」


 運命に負けた。そう思ったルーデルだが、悔しい表情はしていない。


『なんでそんなに清々しいのよ! みんな泣いているわよ!』


 ルーデルはサクヤを前に少し悲しそうに笑う。


「後悔がないわけじゃない。運命とやらに打ち勝つために戦ってきたんだからな。それに、ドラグーンとしてもまだ半人前だ。お前に貰ったチャンスを活かせなかったのは悔しいよ。だけどな……俺は全力だった。これ以上ないくらいに全力で頑張ったよ」


 その上で負けてしまえば、言い訳のしようがない。


 ルーデルはそう言ってサクヤに触れた。懐かしいと思いながらも、どこか自分の相棒であるドラゴンを思い出す。


 サクヤはルーデルを真剣な表情で見るのだった。


『もう満足したの?』


 その問いかけにルーデルは――。


「満足? ないな。俺は満足などしていない。もっとドラゴンの背に乗って空を飛びたかった。ドラグーンとして最強にもなっていない。先輩たちが強くてね。勝ちはしたが、まだ俺の理想にはほど遠いんだ」


『だったら、もう少し悔しがりなさいよ』


「馬鹿だな。満足なんてどこまでいってもしないものだ。ここを乗り切り、いつか死ぬことがあっても俺は満足なんて得られないだろうな」


(だが、それでいい。そう思えるくらいに俺は――)


 ルーデルの言葉に宙に浮いたサクヤは大きく溜息を吐くのだった。ガシガシと金髪をかき、左手を腰に当てる。


『戻れる可能性もあるんだけど、もう満足したなら――』


「本当か!」


 戻れる可能性と聞いて、宙に浮んだサクヤをルーデルは掴んだ。


『ちょっと! さっきまで満足してないけどそれでいいとか言ってたじゃない!』


「馬鹿。生きられるなら生きるに決まっている。俺はまだドラグーンになったばかりだぞ。帝国の奴らも追い返していない。やることが山のように残っているんだ」


 ルーデルに揺すられたサクヤが、目を回しながら無理やりルーデルから離れると空中でフラフラと揺れていた。


『あくまでも可能性、って話よ! それに、それにはアレイストの協力が必要だし』


 すると、ルーデルは首を傾げる。


「アレイストの協力?」


 サクヤは頷く。


『あいつ、代償石を持っているでしょ』


 代償石。セレスティア王国で任務を果たした際に、アレイストが受け取っていたものだ。


「そう言えば確かに」


 いつも持っていたので、ルーデルも覚えていた。


『あの馬鹿が気づけば何とかなるかもね。でも、可能性は低いわよ。それに、あいつが失うものだってあるんだから。正直、手放す方がどうかしていると思うわ』


 失うものと聞いて、ルーデルはサクヤに訪ねるのだった。


「アレイストが失うもの?」


 サクヤはゆっくりと、ルーデルにこれまでの流れを説明するのだった。それはこの世界の真実でもあり、アレイストの存在についてのものだった。



「ぼ、僕がルーデルを助ける。まだ間に合うから」


 黒い全身鎧を身に纏ったアレイストは、兜を脱ぐと胸元から青い石を取り出した。それは代償石だった。


 それを見て、イズミも代償石だと思い出したのかアレイストに向かって首を横に振る。


「駄目だ。そんなものを使えば、ルーデルの命の代償にアレイストがどうなるか分からない」


 イズミの言葉を聞いて、周りがアレイストの顔を見た。複雑そうな表情をしている物が多い。ただ、アレイストのハーレムメンバーがアレイストを掴む。


 悲しそうな顔をしていた。


「アレイスト様」


 代表してセリがアレイストを止めようとしている。


(僕よりもルーデルに生きて欲しい人がいるけど、僕を選んでくれる人もいるんだ。なんか、少し安心したよ)


 ゴーラの暴露でアレイストに対して少なからず周りが警戒していた。だから、自分の命と引き替えと言えば喜んで“やれ”と言われないか心配だったのだ。


 ユニアスがアレイストに近付き、肩を掴んだ。


「止めとけ。ルーデルがそんな事をされて喜ぶと思うのか? お前も黙って帝国の奴らと戦え」


 それはアレイストを心配してのユニアスなりの言葉だったのだろう。リュークも同様だ。


「どちらを選ぶかなど最低だな。アレイスト、もう少し考えてから発言しろ」


 アレイストは苦笑いをする。


(どちらかを選ぶ、か。本当は主人公がユニアスかリュークを選ぶんだけど……まぁ、それはいいか)


 アレイストはユニアスの手をどけると、大丈夫だというのだった。


「大丈夫。代償はちゃんとある。僕の命じゃないし、借りものだけど足りる、と思う」


 その言葉にユニアスが顔をしかめた。


「最後まで断言しない奴だな。だが、そんな賭けみたいな事は止めろ。俺も周りも気分の良い結果にならない。ルーデルは死んだ。お前は生きている。それが結果だろうが」


 そう、ルーデルは死んだのだ。


(イベントは確かに実行された。そして、あいつらは僕を殺すといっていた。と言うことは、ここからはゲームだなんだのと関係ないって事だ)


 アレイストは横に寝かされたルーデルへと近付き、イズミに場所を譲って貰う。


 不意に、ミリアと目があった。ミリアは、目を真っ赤に腫らしている。


(やっぱり、ルーデルが好きなんだよね。でも、これでミリアの願いも叶うから)


 ただ、ミリアはアレイストに。


「あんた、本当に死ぬつもりじゃないのよね? それに、その石にそれだけの力があるの? どっちも死んだりしたら……」


 どちらも死んでしまえば、最悪のケースだろう。


(あ、僕のことも心配してくれるんだ。嬉しいな)


 ただ、アレイストには出来るという確信はない。


(もしも、こういう日が来たらって考えなかった訳じゃない。でも、僕に出来る事は少なくて……それでも、大事な友達だから)


 ルーデルに色々と救われたアレイストは、これで恩が返せると微笑む。


(あぁ、でもこれだと僕はもう役立たずかも知れないな。まぁ、ルーデルたちがいれば安心だよね。それに、これでいいんだ)


 代償石をルーデルの体の上で握りしめ、アレイストは目を閉じた。


 青い光がアレイストとルーデルを包み込む。


 アレイストは周囲に聞こえないように――。


「頂いたチート……能力をお返しします。無限の魔力も才能もいりません。家族は……無事なら良いです。僕のことを忘れても構いません。だから……僕の友達を生き返らせてください。大事な友達なんです」


 貰った転生チートは無限の魔力。


(最後まで上手く扱えなくてごめんよ)


 そして各種才能の数々や魅力。


(才能だけでも駄目だったんだ。努力して磨かないと……今までありがとう)


 数多くのチートは、今までアレイストを守ってくれていた。


「今までありがとうございました。代償とは呼べないかも知れません。それなら僕という存在でも良いです。友達を――ルーデルを生き返らせてください。お願いします!」


 代償石を強く握りしめると、アレイストは自分のからだから抜けていく力を感じるのだった。


 それは今まで自分を助け、守り、高めてくれていたチートの数々だ。


 アレイストは涙を流す。


「今までありがとうございました」


 それらの力が最後にアレイストの周りを漂った気がした。自分たちがいなくて大丈夫なのか? と、言っているような気がする。


「大丈夫です。使いこなせなくてごめんなさい。それと、本当にありがとう」


 力が抜けて消えていくと、アレイストはチートの数々が自分の中から消え去ったのが感覚として理解できた。


 そして、ルーデルを見る。


 傷口が塞がり、鎧まで修復されたルーデルが目を見開いた。


「ルーデル!」


 アレイストが叫ぶと、ルーデルは台の上で上半身を起こす。周囲が歓喜に包まれ、イズミがルーデルに抱きつこうとするとアレイストはそれを見守ろうとした。


 ただ、ルーデルが起き上がって抱きついたのはアレイストだった。


「アレイスト、お前って奴は!」


「え、ちょっと待って! この流れでなんで僕なのさっ!」


 困惑するアレイストに、イズミや周囲の女性陣からの視線が集まるのだった。


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