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決められたイベント

感想欄でゴーラについて質問がありました。

だいぶ前の更新で登場しているんですけど、説明不足のようでした。

申し訳ありません。

 クルトア王国の王宮では、アイリーンという旗印を失った貴族や騎士、そして参加した多くの兵士が捕えられていた。


 一部が燃え上がり、壁が崩れているが修繕費の事を考えている暇のないフィナはソフィーナや自分の手駒である親衛隊を引き連れ父と母に面会している。


 アルバーハはベッドに横になり、王宮内の騒ぎが沈静化したことで幾分か安心していた。だが、アイリーンの事を聞くと表情が曇った。


 まだ声が出ないアルバーハに代わり、シエルがフィナに問う。


「フィナ、アイリーンの暴挙を止めた手腕は認めます。実際、私たちが何も出来ない内にこれだけの事をやったのです。次期女王なり、王妃なり貴方の好きにしなさい。ただ、アイリーンに関しては」


 母であるシエルもアイリーンの事を心配していた。


 フィナは小さく頷く。


「承知しています。ただ、公的には死亡した扱いになります。私に出来るのはここまでです」


 帝国に攻め込まれている時に反乱を起こしたのだ。


 アイリーンは今後、公的には死亡した扱いになる。


「十分です。それと、戦争の状況ですが――」


 いくらドラグーンを保有しているとはいえ、王宮がこれだけガタガタなら戦場でなにかまずい事が起きているかも知れない。


 そう思ったシエルに、フィナは内心で溜息を吐きたくなった。


(姉上が私の兵士まで送るから、師匠に戦力を回している余裕がなかったのよね。まぁ、ハルバデス、ディアーデの大公家が増援を送ったのは聞いたけど)


 フィナは希望的観測をシエルには告げない。


 だがら、事実だけを述べるのだ。


「現在確認中です」


 シエルの眉間に皺が寄っていた。


「失態ですね。ここで勝っても、領土を失えば今度は処刑台に貴方が上がることになるわよ」


 ただ、シエルもあまりフィナを責めることが出来なかった。実際、娘に押し込められ監禁状態に追い込まれている。


 フィナはシエルに向かってお辞儀をする。


「既に手は打ってありますのでご心配なく。それと、今後の事ですが――」


 王宮内のゴタゴタは、フィナによって片付けられていく。


(さて、師匠の帰る場所は出来たし、残るは戦場ね)



「なによ、これ……」


「リコリス将軍、これはいったい」


 ミース・リコリス――アスクウェルの副官にして副将に名を連ねる彼女は、戦場の光景を見て唖然としていた。


 用意した強化型である黒い魔物たちが、生き死に関係なく黒い煙となり二箇所に集まったのだ。


 一つは敵である白騎士に倒されたアスクウェルに。


 もう一つは空に集まり、ドラゴンの姿へと変貌していく。


 アスクウェルはドラグーン対策に用意した決戦兵器であるゴーラ。


 巨人であり、ガイア帝国で恐れられる四本の腕を持つ複椀の魔物だ。強化型は翼を持ち、空すら飛べる。


 ただ、白いドラゴンに投入した際に大きな怪我を負っており、後方へ送っていた。


 そんな巨人に取り込まれたアスクウェルは、ゴーラの額に胸元まで沈んでいる。見えるのは項垂れているアスクウェルの姿。


「知らない。こんなの……私は」


 元から色々と不自然なことが多かった。恐怖を覚えるほどに成功する魔物の制御。そして強化型の魔物による軍団の設立。


 ろくな研究もしていないのに出来上がった魔物の軍勢だが、まさかこんな事が起きるなどミースも思っていなかった。


 部下である騎士がミースに確認を取る。


「将軍たちを呼び戻すべきでは?」


 大魔法使いを名乗るレオールは、魔法陣を用意してから動かない。


 バン・ロシュアス将軍は、気乗りがしないと自分の軍勢を率いて本隊から離れていた。


 ミースは頭を抱えたくなる。


 レオールは手の込んだ魔法陣を用意してからは、そこで戦う事だけに固執していた。実際、敵が攻め込んでくればレオールの魔法で吹き飛ばされる。


 ドラグーンだった相手に出来るだろう。


 しかし、動かない。


 バンはたった一人を万の軍勢で囲むことに興が乗らないと動く気配がない。いや、この異常事態に動いてくれるかも知れないが……。


「すぐに伝令を――」


 ミースが動こうとすると、上空のドラゴンが咆吼した。


 空を見上げれば、白騎士が光の盾と剣を出して跳び上がり立ち向かっていた。


「あいつ、なんなのよっ!」


 凶悪そうなドラゴンに立ち向かうルーデルを見て、ミースは涙目で叫ぶのだった。



『そうか。それがお前の答えか』


 刺々しく、禍々しい巨大なドラゴンに向かい、ルーデルは魔法を放っていた。空の上で戦っているのは、アスクウェルが動かないからだ。


 巨人の額に埋め込まれ、未だに項垂れ動く気配がない。


 だから先にドラゴンと戦う事にしたのだ。


 ドラゴンが目を細めながら、ルーデルの魔法を受ける。しかし、いくら放ってもドラゴンにはなんの影響もなかった。


「勝手に自己完結をするな。確かに少し悩んだが……お前は俺の敵なのだろう?」


 ドラゴンが好きなルーデルだが、だからと言って自分の命をくれてやるほどにお人好しではない。


 むしろ――。


「ただ、そういった姑息な手段は個人的に嫌悪するがな」


 ドラゴンを睨み付けていた。


 ルーデルを倒すために黒い煙が集まり、そしてドラゴンの姿となった。それがルーデルには許せなかった。


『そうか。だが、お前はここで終わりだ。終わらなければならない。それが“物語”の結末であり、お前の運命だ』


 禍々しいドラゴン――邪竜が大きな翼を広げ、咆吼すると大気が揺れた。上空にいたルーデルが咆吼に吹き飛ばされ地面に激突する。


 すぐに起き上がると、口元を拭った。


「咆吼だけでこれか。それに傷一つ付かないとは……」


 内心、少しだけ乗ってみたいと思いながらもルーデルは武器を握りしめた。


『こちらばかりを見ないことだ。お前を殺すのは――』


 ルーデルが視線を少し下げた。下げざるを得なかった。


 そこには、地響きをお越しながらこちらに向かってくる黒い巨人の姿があったのだから。


 巨人の額にいるアスクウェルに向かい、問答無用で光の剣を作りだし飛ばす。


 直撃して爆発するが、巨人は止まろうともしなかった。


 そして、アスクウェルもかすり傷一つついていない。


「これは……きついな」


 流石に限界に近いルーデルは、上空のドラゴンと地上のゴーラを前にして小さく呟くのだ。


「……これが俺の運命という奴か」


 小さく呟き、そして小さく笑う。


「だが、悪くない。挑むならこれくらいでないと……」


 ルーデルは一瞬、人の姿をしていた頃のサクヤを思い出した。


 サクヤが言っていた言葉……。


「最強のドラグーンを目指している俺が、ここで退いたら笑われるじゃないか」


 圧倒的絶望を前に、ルーデルはゆっくりと一歩を踏み出す。


 歩き出し、徐々に速度を上げるとゴーラへと向かう。巨体ではあるが、明らかに足下への対応が悪そうに見える。


「よし、足首から狙うか」


 最悪の状況下でありながら、最善手を探そうとするルーデル。しかし、上空には邪竜がルーデルの邪魔をするために大きく羽ばたいた。


 風が吹き荒れ、上手く動けない中でルーデルはゴーラの足下へと入り込むと足首の腱を狙い斬りかかる。


 だが、巨人の皮膚は分厚く、普通に斬っていては腱まで届きそうにない。


「だったら!」


 魔法剣。剣に光が宿り、魔力で刃の形を取るとその長さは数十メートルまで伸びた。それを一回転。


 ゴーラの足が切断される。


「まずはこいつから――ッ!」


 ルーデルがその場から大急ぎで飛び退くと、空からゴーラを巻き込むようなブレスが放たれた。避けることは出来た。


 だが、空の上で邪竜は慌てた様子もない。


 地面が抉れ、燃え上がる炎の中――足の再生が終わったゴーラが立ち上がった。


 空の上から邪竜の声が聞こえる。


『足掻け、立ち向かえ。だが、お前に待っているのは“死”だけだ』


 ルーデルは、それを聞いても笑って武器を構えた。


「上等だ」



 ベネットの相棒であるウォータードラゴンのヘリーネ。


 その背中に乗っているイズミやアレイスト一行は、途中でサクヤと合流した。避難民を降ろし、クルストに託すと全速で戦場へと向かっている。


 ベネットが、ヘリーネの背中の上で大気が揺れるのを感じた。


「なんだ、この感じ……」


 ベネットが嫌な気配を感じていると、ヘリーネも同様だった。


『そうね。嫌な感じね。なんというかイライラするわ』


 イライラする、というヘリーネの発言は置いておく事にして、ベネットは戦場が近付くと全員に戦闘準備を取るように言い放った。


「戦場が近い。全員、戦闘準備は出来ているな?」


 イズミが頷くと、アレイストも黒い鎧を着込んでおり戦闘準備が出来ていた。


「大丈夫です」


「こっちも大丈夫。けど、ヒースは大丈夫かな?」


 ヘリーネの手に掴まれ、運ばれているアレイストの愛馬である。ベネットは、ヘリーネからヒースの状態を聞き、アレイストに伝えた。


「問題ない。随分と良い馬を手に入れたな。降りてもすぐに走り出しそうだ」


 安心するアレイスト。


 アレイストのハーレムメンバーも、準備が出来ていた。


 だが、ベネットは前を向くと少し苦々しい表情となる。


(敵は万単位の兵を用意しているはず。そんな戦場にルーデルだけ。しかも増援の私たちもたったこれだけの数)


 ルーデルが生きている可能性、そして戦力の逐次投入による被害。


 厳しすぎる現状を前に、ベネットは気を引き締める。


(これだけ危機的な戦場は、私もはじめてだな)


 すると、戦場が見えてくる。


「……なんだ、アレは」


 ベネットが見た戦場は周囲が吹き飛び、土が肌を晒していた。荒れ果てた大地には軍勢ではなく、空には黒いドラゴン。


 地上には大きな巨人が四本の腕を振るい、そして大きな口を開けた。


 ただ、まばゆい光が発生すると三本の腕が斬られ、吹き飛んでいた。


「ルーデルか!」


 ――生きている。


 そう確信したイズミが叫ぶと、アレイストも右手に拳を作ってガッツポーズをしていた。ベネットも一安心だったのだが……。


 禍々しいドラゴンが咆吼し、そして巨人が大きな口を開けて針のようなものを何百、何千と放出した。


 すると、先程までの激しい戦闘音が聞こえなくなるのだった。


 ヘリーネの後ろを、必死についてきていたサクヤが咆吼する。それはまるで叫んでいるようだった。


 ベネットがイズミを見ると、イズミは膝から崩れ落ちる。


「……間に合わなかったか」


 ベネットがそう言うと、アレイストが唖然としていた。


「そ、そんな。でも、まだ生きている可能性だって!」


 怪我をしただけかも知れない。そう言いたいのだろうが、ベネットはサクヤやイズミの状態からそれは望み薄だと理解した。


「ドラゴンには、相棒であるドラグーンの状況がよく分かる。残念だが……ここからは弔い合戦だな。最悪、ルーデルの死体だけは回収して引き上げる」


 冷たい物言いに、アレイストがベネットの肩を掴んだ。


「そ、そんなのっ!」


 そんな酷いことを、と言いたそうなアレイスト。だが、ベネットは戦場で死体がどのように扱われるか知っている。


 せめて、死体だけは回収したいと思うのはまだ恩情だろう。


「すぐに到着する。生きているなら、最後の言葉くらい聞けるかも知れないな。お前とイズミはルーデルの傍に行け」


 ベネットはヘリーネに取り付けた鞄から鉄製のブーメランを取り出し、そして手に持った。


 ヘリーネは戦場へと近付くとドラゴンに向かってブレスを飛ばす。


 帝国軍の陣容は両脇に無事な軍勢があるようだが、中央の軍勢がボロボロに見えた。


 それが異様にも見えるが、中央で暴れているドラゴンと巨人に近付かないのは当然のようにも見える。


「帝国の奴ら、とんでもないものを用意したな」


 黒いドラゴンと巨人。


 それらは帝国が用意した物だと思ったのは、ベネットだけではない。アレイストはベネットから離れると俯き、そして双剣を抜いた。


(派手に暴れたか、ルーデル)


 自分の部下が立派に戦ったと思いながら、ベネットは武器を持つ手の力を強めた。


 ヘリーネは、禍々しい黒いドラゴンへ向かってブレスで牽制していた。


「到着だ」


 そう言ってヘリーネの背中から飛び降りるベネットたち。戦場では、ルーデルへ帝国の兵士たちが集まっていた。


 指の間に何本もブーメランを挟み込み、それらを次々に投擲するベネット。


 ヘリーネは全員が降りやすいように地面スレスレを飛ぶ。


 そして、見えてきた光景は長い棒のような物に胸を貫かれているルーデルの姿だった。


「全員、飛び降りろ」


 ヘリーネがヒースを地面に降ろし、イズミやアレイストたちが次々に背中から飛び降りた。


 ベネットが飛び降りる瞬間に見たのは、巨人へと殴りかかるサクヤの姿だった。


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