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外伝 歌姫編 エピローグ

 破壊された城下町が広がるその場所で、クレオは周囲を見渡していた。


 土人形たちは機能を停止してガラガラと崩れ始めている。


 太陽が姿を現すと動きがおかしくなり、そのまま動きを止めてしまったのだ。


 クレオの近くでは、ネイトが仮面を取って周囲を見ていた。


 口笛を吹くと、ヒッポグリフが空から降りてくる。


 ソレを見たクレオが。


「あ、あの」


「ん? あぁ、私の相棒だから大丈夫。ほら、馬にもなるんだよ」


 地面に着地した鷲の頭を持つヒッポグリフは、そのまま首を振ると馬の姿になる。


 そして、溜息を吐くと周囲を見るのだった。


「でも、本当に報告が面倒かな」


「そう……ですね」


 空を突かんとする赤い柱が見え、地震と突風を感じた時はクレオもネイトも驚いた。だが、今なら理解出来る。


「ルーデル殿は勝ったのでしょうか?」


「そうあって欲しいと思いますよ。同時に、セレスティアの古代兵器というか、守り神の破壊ですからね……誰が責任を取るんだか」


 クレオは言う。


「守り神ですか。私さえ……」


 少し思うところがあった。


 すると、ネイトが言うのだ。


「……私の先祖は、かつてはセレスティア人だったそうですよ。この青い髪は証拠みたいなものですね」


「え?」


 クレオがキョトンとしていると、ネイトは――。


「つまり、逃げ出した貴方の一族の生き残り、という事ですよ。今はこうしてクルトアで仕事をしていますけど」


 色々と喋っているが、立場的に問題なのかとクレオは心配になるのだった。すると、ネイトは真剣な表情になる。


「ま、人間はどこででも生きていけますよ。このまま自由になってもいいんじゃないですか? クルトアはセレスティアの脅威がなくなれば、表向きは謝罪して支援もするでしょうし」


 クレオが戸惑っていると、ネイトは選択肢を提示する。


「このままどこかに逃げて、王女ではなく一人の娘として生きるのもありですよ。セレスティアの王家は残っているのは、貴方を含めると数名の子供ですからね。誰かに押しつけちゃうのもありですね」


 クレオは苦笑いをして首を横に振るのだった。


 その選択肢は選べない。


「ありがとうございます。でも、私には責任や義務がありますから。生け贄にはなれませんでしたけど、国民を見捨てるわけにもいきません。誰かが中心となる必要はあります。それが、どんなに頼りない私でも」


 ネイトはつまらなそうに言う。


「そうですか」


 そして、仮面をかぶると自分の相棒の首をポンポンと叩いていた。クレオには、ネイトが別に怒っているのではないと分かっていた。


 自分がどちらを選ぶのか、分かっているような感じだったからだ。


 そして、仮面をかぶったネイトが言う。


「少しだけ、貴方が羨ましいですね」


「え?」


 ネイトが最後に。


「逃げない、という選択肢を選べる貴方が、少しだけ羨ましくあります」



 数日後。


 荒廃したセレスティアでは、サクヤが重い物をまるで積み木で遊ぶように移動させていた。


 ルーデルもアレイストも、復興の手伝いのために朝から晩まで働いている。


 イズミやミリアは、その手伝いだ。


 ネイトだけは、クルトアにセレスティアの一件を報告に向かうのだった。誰かが伝えないといけないのだが――。


「正直言って、守り神を倒して島を作るとかどうかしていると思うんだよ」


 スコップを持ったアレイストが、ルーデルを見た。


「……アレイスト、確かに個人的な感情があったのは否定しない。だが、あれは仕方なかったんだ!」


 ミリアはそんな二人を見て呆れている。


「仕方のない状況だったのは分かるけど……責任とか誰が取るの?」


 ルーデルもアレイストも責任など取れない。


 ミリアはイズミを見て――。


「これって監視役の責任?」


 ドキリ、とするイズミは言う。


「流石にあの状況はどうしようもなかった気が」


 イズミも報告書を急いで仕上げると、ネイトに手渡していた。それを上層部がどのように評価するのか……。


 四名はそれについて考えているのだが、ルーデルは。


「まぁ、なるようになるな。俺は戻ったらまた辺境で仕事だろうし、ここでしばらく復興作業の支援でも構わない」


 アレイストの方も。


「そうだよね。戻って掃除係よりはやり甲斐があるよね。さて、今日も頑張るぞ」


 ミリアが二人を見て。


「クルトアの白騎士と黒騎士が、この扱いっておかしいわよね。普通はもっと役職とか色々あって、王宮とかで仕事をしていそうなものよね」


 ルーデルとアレイストの立場は、クルトアでも微妙である。本来ならもっと上の地位にいてもおかしくないのに、一人は辺境。一人は掃除係という扱いだった。


 イズミは溜息を吐く。


「まぁ、本人たちが騒ぎ立てないなら良いんじゃないか? 不満があるなら、上に言えば良いわけだし」


 ルーデルはドラグーンになれたので辺境だろうと不満がなく、アレイストも口では色々と言いながら仕事を真面目にしていた。


 そんな二人が、セレスティアという国を救ったのである。


 いや、救ったというのは間違いかも知れない。


 何せ、戦った相手がセレスティアの守り神だ。


 下手をすれば、クルトアが守り神を依頼を利用して排除したとも言われかねない。


 もっとも――。


「しかし、主要な大臣クラスがほとんどいないとなると、大問題だな」


 ルーデルが言う通りだ。


 セレスティアの大臣クラスや高官は、ほとんどが城で亡くなっている。


 機械化部隊が動いたためと、ネイトは言っていた。


 色々と裏があり、ルーデルたちからすると巻き込まれて戦っていたら終わっていた不思議な任務であった。


 サクヤが空を見上げると。


『ねぇ、あれ食べていい?』


 ルーデルに確認を取ってくるので、視線の先を見るとルーデルが。


「ヒッポグリフか? 誰か乗っているから駄目だ」


 ションボリするサクヤだった。



 戻ってきたネイトが伝えたのは、ルーデルたち全員の帰還である。


 同時に、クルトアからは支援を目的とした部隊が出発しているのをネイトから教えられた。


 ルーデルは、ある程度の区切りが出来るまで残っていたい気持ちもある。だが、命令には従わなければならない。


 ネイトから聞いたのだが、セレスティアは正式にクルトアの属国扱いになるそうだ。同盟国として相応しい実力がないためである。


 そして、セレスティアの新しい女王であるクレオも、それを臨時の大臣たちと話し合って決定したのだ。


 被害が大きく、下手に逆らって支援が貰えなければセレスティアの復興には何十年とかかるだろうと簡単に予想ができた。


 その間にクルトアが攻め込まないとも限らない。


「俺は余計な事をしたのかな」


 王城の一室で横になるルーデルは、そう呟いていた。


 明日になれば出発するという事もあって、夜は休むことにしていた。


 戻ればクルトアの王宮で報告が待っている。


(また色々と面倒をかけるんだろうな)


 上司にまた迷惑をかけると思いながら、目を閉じるルーデル。


 すると、部屋にノック音がした。


「兄貴!」


 部屋に入ってきたのは、ベン、ポノ、パサンの三人組みだった。昇進して騎士になったため、今はそれらしい服を着ている。


 クレオが彼らを近衛騎士に任命したのだ。


 最後まで住人の避難を頑張った功績や、三人組みをクレオが信用しての事である。


 もっとも、それは表向きの理由だ。


 人手が足りないので、色々と気が許せる三人を指名したのが本当だろう。


「どうした? また稽古か?」


「いや、今日は仕事だぜ」

「そうです!」

「仕事なんだな!」


 三人が胸を張ると、その後ろから一人の女性が出てくる。


 クレオだった。


「王女……ではなく、今は女王でしたね」


 ルーデルがベッドから出て立ち上がると、クレオは疲れた表情をしていた笑顔を向けるのだった。


「少しだけ、時間を宜しいですか?」


「えぇ、構いませんよ」



 三人組みが部屋の外で見張りをし、ルーデルとクレオはバルコニーに出ていた。


 夜風が気持ち良かった。


「それで、呼び出した理由はなんですか?」


 クレオは深呼吸をしている。そして、意を決してルーデルを見ると、声を張り上げて――。


「ルーデル殿、いえルーデル様、好きです!」


 告白する。


 ルーデルは笑顔で。


「無理です!」


 ――断るのだった。


 クレオがそれを聞くと、笑い出す。答えなど分かっていたのだろう。


「理由をお聞きしても?」


 ルーデルはハッキリと。


「まず、俺には結婚の自由がありませんからね。それに、これでも色々と制約が増えています。俺が貴方と結婚するのを、国が認めないでしょうから。それなら、最初から断るべきと判断しました」


 クレオはそれを聞くと、苦笑いをする。


「私の気持ちに対しての答えは、仰らないのですね」


「……俺は好きな人がいますから。もっとも、相手に好きとも言えません」


 ルーデルは、以前よりもクレオが強くなっている気がした。


「……今回の一件。セレスティアは守り神を破壊したクルトアに強く抗議します。もっとも、これは国の事情や国民感情など複雑なので、表向きの理由です。私個人としては感謝していますよ、ルーデル殿」


「そうでしょうね」


 ルーデルがそう言うと、クレオは――。


「本当に感謝しております。セレスティアは、自分たちの力で立ち上がる機会を得られた……今なら、そう思えますから」


 クレオも色々と悩んだのだろうと、ルーデルは想像した。


 そして、最後に自分の気持ちを整理するために、告白をしたのだと推測する。


「気持ちの整理はつきましたか?」


「気付いていましたか? そうですね……これで、王女であるクレオではなく、飾り物の女王であるクレオになれます。精々、クルトアから支援を引き出して見せますよ」


 ルーデルは笑う。


「あまりそう言うことを自分に言われても困るんですが? これでもクルトアの――」


 クレオがルーデルより先に言う。


「ドラグーンですから、でしょ? ……感謝しています。最後に、母や叔母の言葉も聞けました。私は愛されていた。それを知ることができて、嬉しく思っています」


 怪物を倒し、クレオの叔母と名乗る存在の言葉をルーデルはクレオや生き残った王族の子供たちに伝えている。


(それにしても、数日で随分と強くなった)


 兄であるエミリオを失い、多くを失ったクレオにルーデルはなんと声をかけるべきか悩んでいると。


「明日の朝は早いのですよね? 私もここからお見送りさせて頂きます。それでは、さようなら……ルーデル」


 最後は呼び捨てだった。



 次の日。


 バルコニーから空へと舞い上がるサクヤを見ながら、クレオは青い髪をかき上げた。


 周囲には三人組みや使用人がおり、ドラゴンが空を飛ぶのを同じように見つめている。


「行っちまうな、兄貴たち」


 三人組みが涙を流しており、使用人たちはその様子を引いてみていた。


 クレオにとって三人組みは、馬鹿だが正直者で心根の優しい大事な騎士たちだ。


 サクヤを見ながら、クレオは歌を歌う。


(せめて、歌だけでも……ありがとう、異国の騎士たち。ありがとう、ドラグーン)


 パサンが言う。


「やっぱり、姫様の歌は最高なんだな!」


 ベンが。


「馬鹿、もう女王様だろうが!」


 ポノが。


「静かに歌を聴きましょうよ!」


 クレオの歌声がセレスティアに響くと、白いドラゴンはゆっくりと城を旋回する。そして、背に乗った騎士たちが手を振るのだった。


 三人組みは大きく両手を振り、クレオもそれに応えるように手を振るのだった。


(ありがとう、ルーデル。そして、さようなら)


 クレオは、笑顔のまま涙を流すのだった。


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[一言] 歌で送りだすの、とても感動的!
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