外伝 歌姫編10
これまでのあらすじ。
ルーデル(´・д・`)「……外国に派遣されました」
アレイスト(・д・` )「ハーレムから逃げようとしたら、外国に連れて行かれました」
嘘です。
期間が空きすぎましたね。
これまでの流れは、古代兵器の生け贄として捧げられる王女クレオが、何者かに襲撃を受けました。
セレスティア王国は国の騎士が当てに出来ないと、クルトア王国にドラグーンの派遣を要請します。
そこに呼び出されたルーデルが、お目付役のイズミとミリアを伴ってセレスティア王国へ。
アレイストもハーレムから逃げるために、ルーデル一行と行動を共にします。
派遣されたセレスティア王国では、ガイア帝国の機械化部隊が襲撃し、変な土人形も襲ってきました。
護衛である騎士のエミリオも何か不審な動きを見せています。
そうした中、クレオを襲撃した一味の仲間がエミリオという流れに。
しかし、エミリオも独自で動いており、クレオを助けるために動いていた、というのが前回までの流れです。
外伝も残り数話、その後は最終章に入ります。
ラストまでこのまま行けるといいな……。
クレオは、自室のベッドに横になっていた。
夜になり、寝ようとしても眠れない。
そんな時に、声をかけてきたのはミリアだった。
「その、なんというか……」
事情を聞いているミリアは、クレオが友達だと思っていた女中に裏切られた事実を知っている。
そのため、クレオに気を使っているそぶりを見せていた。
「……気を使っていただいてありがとうございます。でも、大丈夫です。私は明日の儀式に参加しますから」
「あ、あの……私なら友達にでも――」
ミリアの申し出に、クレオは即答する。
「止めてください! そんな事は言わないで……」
ミリアは黙ってしまう。
(きっと酷い女と思っているんだろうな。でも、死ぬ前に友達が出来ても、私は……)
クレオにとって、今度の儀式で失敗は出来ない。
王家の娘としての責務もあるが、役目を果たすようにと言われ続けてきた。
(私……私は、それでも役目を果たさないと)
クレオは、涙を我慢しながら日が昇るのを待つのだった。
◇
地下牢――。
夜が明ける前。
そこには黒いローブを身に纏った三人組がいた。
フードを深くかぶった三人組は、牢の一つで寝ている三人組に接触する。
「おい、お前ら」
「なんだよ。俺たちは命令通りに~」
寝ぼけた表情をしているベンやポノ、パサンの三人に声をかけたのはエミリオだった。
アレイストは、周囲を警戒しながら愚痴る。
「ここってこんなに簡単に侵入できるの?」
そう言うと、ネイトが呆れた風に言う。
「先輩が凄いんですよ。影に入って移動とか……ガイアの機械化部隊と戦えるだけの戦闘力を持っているだけでも凄いのに」
呆れられたアレイストにしてみれば、この程度で褒められても首をかしげるばかりだ。
何しろ、周囲が自分よりも凄い連中で囲まれていた。
学生時代、それで苦労してきただけに、自分の実力を周囲と比べてそれほど高くないのではないか? などと思っている。
これまで出会ってきた人物たちも、アレイストから見ればチート級ばかりである。
「そうかな? ルーデルたちとかと比べると、どうにも見劣りすると思うんだけど? だから頑張ってきた訳だし」
「……あの辺と自分を比較できる時点で、先輩は相当高いレベルにいますよ」
二人が話していると、エミリオが三人組を説得する。
「そ、そんな理由があったのか!」
「隊長、俺たちも手伝わせてください! このまま役に立たないなんて嫌です」
「俺も嫌なんだな。姫様も可哀想なんだな」
話を聞いていなかったアレイストは、鍵を使って三人組を解放するエミリオにたずねる。
「何を言って言いくるめたんだよ」
そう言うと、エミリオは少しだけ真顔になった。
だが、すぐに表情を崩す。
「真実って奴だよ。こいつら、根は良い連中だからな。だから騙されやすい」
「騙したのか!」
小声でエミリオに言うと、アレイストは牢から出て涙を流す三人組を見た。
再びエミリオに視線を戻すと、少し笑っていた。
嫌な笑みではない。本当に嬉しそうだったのだ。
「……どうせ逃がすつもりだったんだ。精々、手伝って貰うさ」
「お前、いったい何がしたいんだよ。どうでも良いって言ったり、この三人組を助けたり」
アレイストがエミリオの事を計りかねる。
(クレオ、って王女様を救いたいのは事実なんだろうな。それに兄貴だって言うし)
エミリオは、クレオの実の兄である。
つまり、この国の王子だ。
だが、父である国王のバルカは、自国を滅ぼそうと計画していた。
王女襲撃の黒幕は、国王だったのだ。
(複雑すぎるだろ。もっとこう……あぁぁぁぁ!!)
混乱するアレイストは、エミリオが三人組に指示を出す姿を見ていた。
エミリオの計画では、王城や城下町で爆発や火事を起こして住人の避難をさせるというものだった。
バルカの計画では、希望を潰して国民が右往左往している時に、古代兵器で城下町を滅ぼす計画らしい。
だが、普通はそんな計画に、自国の有力者たちが協力するのはおかしい。
(古代兵器を運用しての戦争だなんて……そんなのイベントじゃなかった)
ゲームの世界ではないと思っていても、どうしてもイベントとして捉えてしまう自分がいる。
アレイストは首を横に振り、気持ちを切り替える。
(何とかして止めないと。セレスティア王の計画も、古代兵器も)
そのために、ネイトが街中に仕掛けを施しているのだ。
煙を出す仕掛けで、各地で騒ぎを起こして避難をさせるのである。
「いいか。王城で爆発が起きれば、お前たちは兵舎の連中を叩き起こして住人の避難をさせろ。これが命令書だ」
エミリオは、持っていた書類を取り出すとリーダーのベンに渡す。
受け取ったベンは、ソレを見て緊張した様子だ。
「た、隊長、俺がこんなのを持ってもいいんですかね?」
髭面の男がガクガク振るえていると、エミリオは言い放つ。
「安心しろ。……偽物だ」
「偽物!!」
ポノが驚くと、エミリオが静かにしろとポノの口を塞いだ。
「各地で煙が上がる手はずになっている。お前たちは住人の避難を優先し、そのまま住人の警護だ。重要な仕事だが……できるな?」
重要な仕事には違いない。
それを聞いて、三人組が真剣な表情で頷いた。ソレを見て、エミリオは微笑むと、持ってきた彼らの装備を渡す。
「着替えたら、爆発音が聞こえるまでは隠れておけ。混乱に乗じて計画通りに動けば良い。しっかりと命令を遂行しろよ」
「任せてくれ、隊長!」
「ようやく部隊らしくなってきましたね!」
「俺、隊長から頼りにされて嬉しいんだな!」
三人組が着替え始めると、アレイストは予定の時間をネイトに確認する。
「もうすぐだよね?」
「はい。もうすぐ――」
その瞬間。
城内に爆発音が響いた。それを聞いて、全員が驚いた表情になる。
「どういう事だ!」
エミリオがネイトに詰め寄ると、三人組はオロオロとしていた。アレイストも同様だが、ネイトを見る。
「爆発の規模がおかしい……私の仕掛けた物じゃ」
それを聞いて、アレイストは思い当たる節があった。
(……こういう事に特化しているのは、僕の知る限り)
◇
イズミが、城内の廊下で黒いローブを着た集団と戦っていた。
刀を抜き、目の前の機械化兵士を斬る。
横になぎ払うと、敵が飛び退いて距離を取る。だが、敵はガードした自分の腕に亀裂が入っているのを見て一気に警戒を強めた。
イズミの後ろには、セレスティアの騎士や兵士たちもいる。
「……制服からするに、クルトアの上級騎士か」
機械化兵士たちが、腰を低くすると一斉に飛びかかってくる。
「くっ!」
イズミが斬撃を飛ばすが、精鋭なのか数名が斬られるも致命傷は避けていた。返す刃で目の前に迫った敵を斬る。
だが、感触が人のものではない。
「ルーデルたちが言っていた機械化兵という奴か」
イズミが周囲を見れば、セレスティアの兵士や騎士が数名倒れていた。その間に、数名の敵を通してしまう。
だが、イズミは動けなかった。
足止めとして、敵数名がその場に残っていたからだ。
「じょ、上級騎士殿! これはいったい」
混乱しているセレスティアの騎士たちに問われるが、イズミだって敵がガイアの兵士である事しか知らない。
「敵はガイア帝国の部隊です。気をつけてください……相手は精鋭部隊です」
イズミが構えると、敵も構える。
もっとも、時間稼ぎをするのが目的なのだ。無理に仕掛けてこない。
周囲には敵味方がいる上に、狭い廊下ではイズミも立ち回りが難しかった。
(情けない……実戦でこんなに自分が役に立たないなんて)
悔しいと思いながら、イズミは踏み込んで斬りかかる。
相手は飛び退くと飛び道具を使用してきた。
刀で弾くと、もう一人の敵が同じようにセレスティアの騎士たちに攻撃を仕掛ける。
仕込んでいた矢に刺され、また一人の騎士が倒れた。
「無理に前に出るな!」
「お、女が前に出ているのに、騎士が下がれるか!」
イズミが注意をしても、騎士たちは下がらない。だが、装備など剣しか持っていない者がほとんどだった。
寝込みを襲われ、ろくな装備も持たずに飛び出した者たちが多かったのだ。
(脆い。どうしてこんなに……襲撃もあって警戒していたはずなのに)
セレスティア側の対応の不味さに、作為的なものを感じずにはいられないイズミだった。
◇
古代兵器が封じられている山が見えるバルコニーで、バルカは一人で周囲の喧騒を聞いていた。
風に乗って、焼けたような臭いまでしてくる。
「無粋な者たちがいるものだな。どう思う……エミリオ」
振り返ると、そこにはローブを着た三人組が立っている。
エミリオにアレイストとネイトの三人だ。
「無粋? あんたの望み通りの混乱じゃないのか?」
エミリオはバルカを睨み付ける。憎しみがこもった視線を受けたバルカだが、ソレを見て笑い出す。
「実に心地よい視線だな! お前のその憎しみが、わしの復讐が成功したと実感させてくれる」
笑い出すバルカを見て、アレイストが一歩前に出て構える。
「何を言っているんだ……復讐するためにこんな事をして、おかしいんじゃないのか!」
アレイストの言葉を聞き、バルカは鼻を鳴らす。
「どこの誰かは知らないが、随分と家庭の事情に口を出すじゃないか」
「か、家庭の事情? 国が滅茶苦茶になったのに、家庭の事情ってどういう事だ!」
アレイストが剣を抜く。
すると、ネイトも武器を取り出した。
エミリオも、ゆっくりとサーベルを引き抜く。
「国などどうでもいいのだよ。これは復讐だ。わしの妻は、そこの出来損ないを産んだ女の代わりに死んだのだ! 役目から逃げ出し、自分の姉を見殺しにした女はどこかで野垂れ死んだ! そのせいで、わしの嫁は……」
アレイストが理解できないのか、困惑している。
ソレを見たバルカは、最後だからと胸の内を語り始めた。
「双子の姉妹がわしの元に送られてきた。わしはその内の一人と結婚し、子をなす事になっていた。王家の仕事だ。結婚などそんなもの……そう思っていた」
エミリオの握ったサーベルの柄が、ギリギリと音を立てる。
「……アンタは、俺とクレオの母親を捨てたんだろうが!」
バルカは、それを聞いても何とも思わないのか、説明を続ける。
「だが、わしが愛したのはもう一人の生け贄に捧げられる方だった。彼女との会話が、どれだけわしを癒してくれたか……わしは、どうしようもなく彼女を愛してしまった」
バルカはバルコニーから見える城下町を見た。
そして、燃え広がる光景に笑顔を向ける。
「実に素晴らしい。逃げた女の代わりにわしの妻を差し出せと騒ぎ立てた民衆が、地獄に落ちた光景は見ていて気持ちが晴れる思いだ」
「こ、こいつ……狂ってる」
アレイストの言葉を聞き、バルカは振り返ると三人を睨み付けた。
「そうだ! この国がわしを狂わせた! この国のシステムが、わしをここまで追い込んだ!」
仮面を付けたネイトが前に出ると、バルカにたずねる。
「そうまでして復讐したかったのですか? なら、もっと効率の良いやり方もあったのでは?」
そう言うと、バルカは下卑た笑みを浮かべる。
「あの女の息子と娘には、生きながら地獄を見て貰おうと思った! 滑稽だったよ! 役目を果たすのだと健気な馬鹿な娘! 城を追い出され、惨めにスラムで生きてきた馬鹿な息子! 見ていて実に気持ちが良かった!」
復讐のために生きてきたバルカは、既に父としての気持ちなど欠片もないようだった。
それを見たエミリオが、歯を食いしばっている。
「全部知っていたのか?」
エミリオの問いに、バルカはすがすがしい笑顔で答える。
「そうだ。楽しみのためにお前が這い上がってくるのを見ていた。お前が事を起こすと知って、最後の最後で希望がその手からこぼれ落ちる……その瞬間を見たかったからな。もっとも、クレオの惨めな姿も見たかったがな。あれはあの女に似ているから、憎くて、憎くて仕方がなかったよ」
醜悪の根源――この一連の事件は、全てバルカが裏で手を引いていた。
そういう事だと知ると、エミリオやアレイストの表情が憎しみに染まる。
ソレを見て、バルカは最高の笑顔になる。
「そうだ……憎め。わしの憎しみはそれ以上だ!」
アレイストがバルカに言う。
「狂いやがって……そんなに周りが憎いのかよ!」
バルカは両手を広げると、三人に向かい言う。
「……愛しい者が生け贄にされ、狂わない愛は本物の愛ではないのだよ」
次の瞬間。
バルコニーの先に見えていた山が噴火をする。
城まで揺れる爆発だが、規模の割に噴火で上がるマグマは小さかった。アレイストが、ソレを見て違和感に気が付いた。
「な、なんだ!」
暗い夜空に赤い光が城下町からいくつも上がっていた。
火山の噴火で、マグマが吹き出している。
そんな中、まるで巨大な何かが山から這い出していた。
「予定変更と行こうじゃないか。無粋な連中に、この国の終演を任せるのはつまらない。わしの手で終わらせるのが、もっとも幸せな終りだと思わないかね?」
バルカがそう言うと、強大な何かは一つ目を光らせてこちらに向かってくる。
ネイトが叫ぶ。
「まさか、本当に動かしたの!」
エミリオは、静かに走り出しサーベルを振り上げる。それを見ていたバルカは、笑っていた。
「この国の終りを見られないのはつまらないが、愛しい人の下へ行こう。随分と待たせてしまったからな……愛しているよ――」
自分のからだが斬られ、その血が宙を舞う。ゆっくりとそんな光景を眺めていると、手すりにぶつかりそのまま体が倒れる。
逆さになったバルカは、降下しながら火に包まれた城下町を見ていた。
「さぁ、ここからが地獄の始まりだ」
落ちる瞬間。そして、落ちた後もバルカは笑みを浮かべていた。
◇
ミリアに連れられたクレオは、敵味方が入り乱れる廊下を走っていた。
途中、激しい地震に襲われると、割れた窓から外に出る。
外に出て見た光景は、まさに地獄だった。
「そんな……城下町が」
「酷い」
クレオが両手を口元に当てて、震えていた。
ミリアは、その光景を見て呟いてしまう。
火の手は燃え広がり、そしてこちらを目指して大きな何かが近づいていた。
山の向こうからゆっくりと朝日が昇ってその姿が鮮明になっていく。
「お、お土産屋で見た置物じゃない」
ミリアがそう言うと、クレオはその場に座り込んでしまう。
すると、数名の集団がクレオたちの前に現われた。
「ようやく見つけましたよ。まさか、古代兵器を動かすとは……ですが、その身は我ら帝国の研究材料。役に立って貰いますよ、クレオ王女様」
三つ目を赤く不気味に光らせた男――。
機械化部隊の隊長が、両手に剣を持つ。
ミリアがクレオの前に出て弓矢を構えるが、その動きは裏路地の時とは違った。
「なっ!」
すぐに回り込むと、三つ目の赤い光が尾になる。移動先を見ると、ミリアの右側に回り込んでいた。
そして、ミリアには残りの部下たちが襲いかかる。
「護衛は殺して構わん。王女も手足の一本は――」
三つ目の男がそう言って剣を振り上げたところで、その場にルーデルが到着した。
地面に光る剣の形をした魔法が突き刺さると、一斉に男たちが後ろに飛ぶ。
「遅いじゃない、ルーデル!」
その場に着地したルーデルは、剣を抜いて左手の盾を構えた。
白い鎧を身にまとったルーデルは、ミリアに言う。
「すまないな。途中で厄介な連中と出くわした」
そう言うと、飛びかかってきた機械化兵にルーデルは盾で殴り飛ばす。
周囲には光る盾が出現し、クレオの周りを浮き始めた。
「え、これは……」
クレオが周囲の状況を理解できないでいると、またもその場に味方が出現する。
黒い影が地面に落ちると、そこから三人の姿が現われた。
「や、やっぱりルーデルだ……というか、二人も乗せるときつい……」
アレイストは、ローブを脱ぎ捨てる。その下には鎧を着ていた。
「サクヤちゃんの荷物に積み込んでいて正解でしたね。ほら、先輩」
ネイトがアレイストに兜を渡すと、アレイストはそれをかぶる。
「お前らも来たのか。それで……連れに見覚えがあるんだが?」
ルーデルがそう言うと、エミリオはクレオを見ていた。
「クレオ!」
「エ、エミリオ……」
クレオはエミリオから距離を取る。




