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少年と王女

 第二王女であるフィナは、無表情なお姫様だ。感情を上手く表す事が出来ないために『人形姫』と言われる。だがその美しさはクルトアでも一番であると噂され、他国からも婚約しようと王族たちが虎視眈々と狙うほどに美しかった。


 ……そんな人形姫には秘密がある。彼女は亜人の耳や尻尾を触るのが大好きなのだ! もう、亜人が大好きと言っていいくらいに……でも、クルトアでも亜人の地位は未だ低い。表だって王女が触ったら、良く思わない者も出てくる。だから彼女は我慢していた。


 毎日毎日……亜人達が近くで暮らす学園で、必死に耐えていたのだ。


 そんなある日の事だ。学園内の食堂に顔を出したフィナは、とんでもない物を見た。そしてついに我慢の限界が来たのだ。


 二人の基礎課程の上級生が、平民を集めたクラスの下級生を挟むように座っていた。二人の間で、居心地が悪そうにしているのは、フィナがチェックしていた今年度で一番可愛い獣人族の少女『白猫族のミィー』だった。愛くるしいその笑顔と、小柄な体……ミィーは、背の高い方でない。だが、白猫族が小柄という訳ではない。


 だからこそ余計に価値があった! ……フィナの中でね。


 そんなミィーは、小柄の割に女性らしい身体……出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいるその身体も人気の一つだ。男子には異常に人気のあるミィー……そんな彼女が、上級生に絡まれていた。


 護衛兼、学友の生徒達が、フィナの隠れるような不審な姿に何と言おうか迷っている時に、上級生は動いた!


「それにしても……気になる。触っていいか?」


「す、少しだけなら…………あ、あのぉ? まだ触るんですか?」


「ルーデル? もういいだろう……解放してあげたらどうだ。気になる事は聞き終えただろう?」


 そう、二人組はルーデルとイズミだった。ルーデルが、獣人の日頃の鍛え方について近くに居たミィーに色々と質問していたのだ。だがここで、ルーデルは気になりだした……その耳と尻尾は本物なのだろうか? それとも飾りか?


 ……気になりだしたルーデルは……無論触って確かめた。だが、その触り心地と言ったら……フカフカでフニフニだった。それにミィーの目がトロンっとして気持ちよさそうになってきている。ルーデルはそのまま触り続けた。……耳に尻尾に、色々な触り方を試してみた。結果として


「あ! だ、ダメェェェ!!! ……あっ!」


 何度か震えたミィーが、そのまま一回だけ大きく体を震わせる。そうして、そのまま机にしなだれ……そして妙に息づかいが荒かった。その上、顔がほんのりと赤くなって……


「ルーデル……少し話をしようか? 屋上に行くぞ」


 イズミの機嫌が悪くなり、ルーデルも逆らってはいけない気がしたので……


「わ、分かった。でもこの子をこのままには……」

「そうかい。なら女子寮に送るから、逃げるなよ?」


 そんなやり取りを見たフィナは、正直どうしていいか分からなかった。だが、ここで行動しないといけない気がしたのだ。


(何このテクニシャン!!! 羨まし過ぎるわボケェェェ!!! 教えろ! そのテクニックを私に伝授して!!! 下手な授業より今後に役に立つわ!)


「あなた達! その子を離しなさい! うらや……上級生なのに恥ずかしくないの! (色々とご馳走様です!!!)」


 ルーデルとイズミの前に立ちふさがるフィナ。しかし、ルーデルは王女の事を知らなかった。イズミは顔や雰囲気から王女である事が分かると、どうしていいか分からなくなる。


 でもルーデルは


「誰だ君は? この子の知り合いなら、後を頼んでいいか……俺は屋上に行かないと、いけないらしいんだ」


 失礼過ぎる上に周りがドン引きした。学食と言う不特定多数の生徒のいる場所で、自国の王女を知らない事がばれたのも大問題だが、それ以上に王女に仕事を頼む……有り得ない。


 でもこの時の王女は


(マジでいい人じゃね! こんな可愛い子猫ちゃんを、私に任せるとか……ハァハァ……たまんないんですけど!!! これで堂々と触れる!!!)


「……分かりました。私が責任もって送ります。今後は、このような事が無いようにお願いします。今度また同じことがあれば……(あれ? またやって貰った方が、堂々と触れるんじゃね?)」


 そのまま、女子寮へと自らがミィーを担いでいく王女様。周りの者達の意見など完全に無視して、自室にまで連れ込んだのだ。……もう、モフモフしまくりだ! それに、ミィーとも友達になり、王女フィナにとってその日は、最高の一日となった。



 そして翌日の朝、大満足のフィナが教室で座っていると、何時ものように教室に入ってくるなりお世辞を言ってくる男子……クルストが現れた。そこで思い出したのだ。クルストの兄が、あのテクニシャンのルーデルであると!


「クルスト、あなたの兄上は何時もああなのですか?」


「は? ああ、あのアルセス家の面汚しですか? あれには僕も困っているんです。何せ、夢を語って現実を見ない子供ですからね……」


 そのまま、クルストの口からルーデルの悪口が永遠と続く。それを聞いてフィナは


(こいつは本当に使えないな。何時も何時もお世辞とかウザいし、肝心の兄であるルーデル師匠を紹介して貰おうと思えば……誰か知り合いとかいないかな?)


 昨日の事だが、フィナもミィーを散々撫でまわした。しかし……ルーデルのようにできないのだ。いくら撫でてもミィーは「くすぐったい」と言うだけ……そこで今の自分とルーデルの実力差に、敗北感すら感じていた。そして彼女は考えた。


『弟子にして貰おう!』


 なのに弟のクルストは使えない。今までにないくらい、フィナの中でクルストの株は大暴落してしまった。期待しただけに、想像以上にがっかりしてしまう。そのせいか、いつも以上にフィナはクルストに冷たくなっていった……


 そんなフィナの態度に疑問を持ったクルストが、色々と調べて回る。そうして行き着いた理由が、兄のルーデルであった。クルストの取り巻き達が、昨日の食堂での出来事を聞いてきたのだ。



 そんな日の夕方……放課後の屋上で、昨日はうやむやになっていたイズミによるルーデルのお説教が執り行われていた。


「昨日の事をどう思っている?」


 冷たい感じで言い放つイズミに、真剣な表情のルーデルが答える。そう、ルーデルは一晩考えた。そしてルーデルなりに不味かった点を反省し、イズミに理解して貰おうと考えたのだ。


「すまなかった。でも、俺には自信があったんだ! 気が早いと笑うかもしれないが、ドラゴンの撫で方という素晴らしい本を読んで、俺は撫で方を練習した。だからきっとあの獣人の子も喜んでくれると……確かに、実際には妹と飼い犬くらいしか試していない。それでもきっと喜んでいた筈なんだ!」


 斜め上の発想とでも言えばいいのか……ルーデルの真剣な表情に、イズミは頭が痛くなる。


「……撫でただけでああなるか! いや、それも大事だが、それ以上に自国の王女を知らないとか……不敬罪と言う言葉を知っているのか?」


「王女様がどうした? 今は学園の下級生だぞ。あんまり周りが気を使っても本人が疲れるだけだ……それよりも俺の撫で方はかなりの物だと思うんだ。妹も絶賛していたし、イズミも試すか?」


 ほんの少しだけ、試したいという気持ちに負けそうになったイズミ。気持ちを持ち直して、ルーデルを叱ろうとした時だった。屋上に繋がる扉が、激しい音をたてて開かれると、数十人の男子とそれを引き連れたクルストの姿がそこにあった。


「貴様のせいだぞルーデル! 貴様が、僕の足を引っ張るから!」


 訳の分からないルーデルとイズミ……クルストや男子の手には、木剣やナイフが握られていた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 仮に似たような事を考えていたといても心の中とはいえ王族はそんな言葉使いはしないと思います
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