外伝 歌姫編2
王都の表通りを走るのは、黒騎士と呼ばれる青年だ。
「ちょっと失礼します!」
老人が引く荷馬車を飛び越えると、そのまま方向転換をして必死に走る。後方を気にしては、周囲を見渡して逃げるべき方向を決めていた。
癖のある金髪が走ると後方へと流れる。オッドアイの瞳は美しく、右は青、左は緑となっていた。鍛えられた体は全身がバネとなって表通りを駆け抜ける。使用しているのは肉体だけではない。
体に魔力を流して全身を強化している。それ程までに必死に逃げるアレイストは、女性の横を通り過ぎればスカートがめくれる。ぶつかりそうになるのは、少女や綺麗なお姉さんが多かった。
「ここで立ち止まっていられるかぁぁぁ!!」
まるで魂の叫びかのように、アレイストはめくれたスカートを覗こうともしない。ぶつかりそうな少女たちを華麗なフットワークで避け続けた。
人は彼の事は『ハーレム野郎』と呼び、羨み、妬み、嫉妬する。
だが、本人にしてみれば、そんな事は願って得た結果ではないのだ。アレイストはハーレムというものが、選ばれた者にのみ与えられた特権である事を理解していた。それは財力や本人の強さだけではない。ハーレムを持つための資格とも言えるもっとも重要な事である。
――それは、囲まれてもハーレムを維持する力だ。
鈍感でも良い。知らない振りをしても良い。ラッキースケベも許される。しかし、逃げてはならない。ハーレム要員全てを受け入れる器を持った男――つまり、主人公気質だ。
だが、アレイストにはそれが欠けている。
それ以前に――。
「逃げないで下さい、アレイスト様!」
「これはどう言う事ですか、アレイスト隊長!」
「それはこちらのセリフだ。私たちは婚約者だぞ! それを女ばかりを連れて旅行など、有り得ない!」
後ろから追いかけてくる女性たちは、全力で走るアレイストに追いつきつつある。スカートの者もいれば、馬に乗って追いかけてくる者もいる。ほとんどの者たちが、学園と呼ばれるクルトア王国の教育機関を卒業した騎士であり、それと同等の力を持つ女性たちだ。
アレイストは、周囲の男たちから向けられる冷たい視線に耐えながら、心から叫ぶのである。
「いや、僕には心に決めた人がいるから!」
だが、世の中とは無常である。
「貴族なら諦めて下さい!」
「大体、本命の子には見向きもされないじゃないですか!」
「アレイスト、もう諦める!」
お嬢様系、騎士系、そして獣人系と様々なタイプの女性が、アレイストを追いかけている。男の子には夢の様な光景だろう。しかし、アレイストには心に決めた女性がいた。エルフの女性であるミリアである。
なのに、心に決めた人には追われる事なく、追う立場だ。しかも、ライバルは強敵だ。
白騎士と言われたルーデルだ。本人はミリアの事をどうも思っていないのは知っているが、それでもミリアが未だに諦められずにいる。アレイストにとって、それはとても悲しい事である。
ルーデルが友人であるだけに、とても微妙な関係でもあった。それでも、アレイストは諦めない。
「諦めきれるかぁぁぁ!!」
捕まれば何をされるか分からない。もう、本当に逃げられなくなると思いながら、アレイストは表通りを駆け抜けていた。そんな時だ。表通りから少し入り組んだ路地への入り口へと入ると、アレイストは捕まってしまう。
捕まえたのは、青い髪をした学園時代の後輩――婚約者の一人であった。
(あ、終わった。もう綺麗な体じゃいられない)
アレイストは、もう全てを諦めた顔をする。
相手は【ネイト】。毛先に癖のある青い髪は背中まで伸びていた。白い肌をしており、髪と同じ青い瞳はとても綺麗である。アレイストとの出会いは、卒業生を送り出すパーティで彼女が覆いかぶさるというとんでもない出会いだった。だが、何がどうなったのかアレイストにも分からないままに、彼女は自分の婚約者になっていたのだ。
「お困りですね、先輩」
ネイトはアレイストを掴んで微笑むと、お願いをしてくる。交換条件と言っても良い。
「少しお願いがあるんですけど、それを叶えてくれるならこの場は助けますよ」
「な、なんだよ。僕の体は渡さないぞ!」
「そっちも魅力的ですが、今回は違うんですよね。まぁ、私の実家の問題とでもいいますか、何と言えばいいのか……一緒に行って欲しい場所があるんです。勿論、行ってくれるなら助けますし、手なんか出しませんよ」
アレイストは近付いてくる女性たちの足音に怯えながら、少し考えると頷いておくことにした。
(この程度で助かるなら安い物だ)
そう考えての頷きだったのだが、これがとんでもない間違いであった。
「それじゃ、少し待っていて下さいね」
そう言ってネイトが路地裏から出ると、芝居がかった口調で自分を追いかけてきた女性たちにアレイストが逃げた場所を偽る。
「大変! 先輩が建物を飛び越えてアッチに!」
「でかしたわ、ネイト!」
「逃がすな、追え!」
「こうなれば騎士団にいる友達も使って包囲してあげますわ!」
(怖いよ。凄く怖いよ。もう少しだけお淑やかになろうよ、君たち……)
全員がネイトに騙されてその場からいなくなると、ネイトが手招きをする。アレイストは路地裏から出てくると、助かったと安心するのだった。
「いやぁ、本当に助かったよ」
「お礼なんて良いですよ。その代り、しっかり働いて貰いますから。いやぁ、私も先輩が手伝ってくれるなら安心できます」
ネイトが本当に助かったと胸をなでおろす。そして、アレイストは目的地を聞いていなかった事を思いだした。
「そう言えば、どこに行くの?」
「あ、それはですね……セレスティア王国です。私の実家はそこから流れてきまして、今回はちょっと頼まれた事があるんで出かけるんです。本当に助かりましたよ。何しろ、一歩間違うと国際問題になりますからね。いや、大問題かな?」
「…………え?」
喜んでいるネイトを前に、アレイストは理解が追い付いていなかった。
◇
クルトアからセレスティアに向かう空の旅は、五人にとっては新鮮な気持ちだった。
大空を舞うのは四枚羽の白いドラゴンである。体は通常の野生のドラゴンと比べると倍近い大きさだ。体や羽の大きさもさる事ながら、その腕は太くたくましい。そんな事を言えば、少女であるドラゴンが傷ついてしまう。
ドラグーンの中で、もっとも有名な騎士の相方――サクヤの背に乗りながら、イズミ・シラサギはそのポニーテイルの髪を風に流していた。サラサラの髪は風に揺れている。本来なら強風で酷い事になるが、魔力で張った防壁が背に乗る五人を守っていた。
東方と呼ばれる異国から流れてきたイズミは、黒髪黒目の美人である。ルーデルの同期であり、また良き理解者でもあった。
友人以上、恋人未満の関係だが、それはお互いに納得している。
現在は、上級騎士という精鋭が揃う騎士団に在籍しながら、問題行動を繰り返すルーデルのお目付け役として特別監視官という役職を与えられていた。今回は外国とあって、上級騎士が着る青い騎士服を着込んでいる。服を押し上げるように主張する胸は大きく、時折妬みの様な視線が注がれていた。
「セレスティア王国は小国だったな。私は本でしか読んだ事がないから、少し楽しみでもあるな」
イズミが言うと、隣に座る金髪ロングの女性が興味無さそうに呟く。彼女の耳は人と違って大きく伸びていた。エルフ特有の耳をした女性――ミリアは、青い瞳でルーデルの方を見ている。
イズミが一人では特別監視官の任務を行えないと言って、同期であるミリアに声をかけた事で彼女もルーデルを監視する者の一人である。だが、胸が小さいので妬ましい視線はその慎ましやかな胸に注がれる事はなかった。
「大きな火山がある所よね? 良くそんな所に住めるわよ。呆れるというか感心するというか」
ミリアの発言に、生真面目なルーデルが答える。
「活火山である事もそうだが、どうやっているかは知らないが火山を制御している国だな。それに火山が近い事で温泉も有名なら、果物を育てるのにも向いているらしい。クルトアにもそうした果汁酒が輸入されているから、ミリアも飲んだ事があるんじゃないのか?」
「ルーデルたちが飲むようなお酒を、私たちが飲める訳ないでしょ」
ルーデルから視線を逸らしたミリアは、そのまま憎まれ口を叩くと黙り込んでしまう。どうにも素直になれない性格なので、イズミは損な性格だと思いながら苦笑いをした。
「でも意外だな。ルーデルはすぐに辺境へ戻ると思っていたんだが」
イズミが話題を変えるために、今回の特別任務の内容を思い出す。要は、目立つ
ドラグーンを送りつけてクルトアの威信を見せて来いという物である。裏にはどんな政治的な理由があるのかは知らないが、イズミはそうした事をルーデルが嫌がるのではと少し心配していた。
辺境での仕事は、まだ終わっていない。そんな状態で、自分だけがこうしたお飾り的な任務を行う。命令されれば受け入れるだろうが、内心ではどう思っているのかと心配であった。
だが、本人は任務に向かうにあたって乗り気である。しかし、イズミの質問に、ルーデルは少しだけ困った顔をしながら答えた。
「……サクヤには黙っていて欲しいんだが、特別任務にやる気を見せているんだ。ほら、前に大きな任務があった時に留守番だったから……俺はサクヤが喜ぶなら、それもいいかと。それが例えお使い程度の任務でも、な」
とんでもない理由である。任務の重要性よりも、自分のドラゴンが可愛いからといって引きうけたのだ。それを聞いたミリアが、溜息を吐きながら言う。
「竜馬鹿はいつも通りね」
イズミは白い背を触りながら、微笑んでいた。
ドラゴンが時折、響くような声を出している。意志が伝わってくるイズミには、それが嬉しがっている声だというのが分かっていた。見た目は立派過ぎるドラゴンだが、サクヤは生まれて数年の子供である。
外見で判断される事が多いが、未だに手のかかる子供なのだ。
『特別任務! サクヤは強いぞ、格好良い!』
歌いながら空を飛ぶサクヤを、イズミとルーデルは微笑んでみている。土の中に住むガイアドラゴンの亜種であるサクヤは、飛ぶ事を得意としていない。そのため移動は通常のドラゴンよりも遅れている。だが、ノンビリとした任務である。たまには忙しい辺境を離れて、こうした任務も悪くはないとイズミは感じていた。
そして、妬ましい視線を向けてくるネイトへと振り向いた。
「それで、二人はセレスティア王国にどういった要件があるんだ? 確か、行き帰りに同乗させるだけでいいと命令書にはあったが……」
イズミは出発前に、親衛隊と呼ばれる組織からの命令書を持ったネイトともう一人の人物。ミリアを見ているアレイストが、急遽自分たちを乗せてくれと言ってきたのを思い出す。慌ただしい出発の中で、命令書を受け取るとそのまま出発した。
二人が知り合いという事もあって、確認は空の上でするつもりだったのだ。
「あ、気になさらないで下さい。ついでに巨乳はもげた方が良いと……あ痛っ!」
笑顔でネイトが巨乳に嫉妬していると、アレイストがネイトの後頭部を叩いた。
「ご、ごめんね、イズミさん! こいつ、自分が胸がないから大きな胸に嫉妬しているんだ」
アレイストがフォローしてくる。イズミは、それは言ったらだめだろうと逆に心配する。何しろ、アレイストの思い人であるミリアは、イズミとは対極に位置する貧乳である。
イズミがミリアを見れば、額に青筋を浮かべていた。
(あぁ、これはまた駄目なパターンだな)
イズミがルーデルを見ると、サクヤの歌に合わせて鼻歌を歌っている。興味がないのだろう。イズミも、被害を受ける前にルーデルの隣に移動すると、そのままサクヤとルーデルの鼻歌を聞く事にした。
『強いぞ、サクヤ。凄いぞ、サクヤ! ど~んな敵も一撃だ!』
「あぁ、サクヤは最高だ!」
そんなルーデルをサクヤを見ながら、イズミは後ろで起きている喧嘩には耳を貸さない事にした。
「悪かったわね! どうせ私は貧乳よ!」
「違うんだ、ミリア! 僕は大きいよりも慎ましやかな方が好きで!」
「じゃあ、私は先輩の好みって事ですね! ミリア先輩、貧乳も悪くないですよ。あんな脂肪の塊なんか、邪魔ですからね」
「巨乳を妬んでいる貴方が言っても、説得力がないわよ!」
「違うんだ二人とも! 大事なのはバランスであって、大きさが重要じゃ――」
「そう言えば、先輩のお姉さんは巨乳でしたね」
「何で可哀想な視線を私の胸に向けるの!」
「ネイト、そこじゃない! そこには触れないであげて!」
「アレイスト、アンタもそんな事を思っていたのね! そうよ、どうせ私は貧乳よ! 姉さんは大きいのに、って言われ続けているわよ!」
「……私も人の事は言えないですけど、先輩も結構ズレていますよね」
後ろから聞こえてくる言い争いを無視していたイズミだが、ルーデルは気になるのか振り返っていた。アレイストたちが言い争う状況を見ながら、理解できないといった顔をしている。
「……イズミ、アレイストは何を間違ったんだ?」
分からないと首をひねっているルーデルを見て、イズミは首を横に振る。正直な話をすれば、アレイストの間違いは数えきれない。好きな女性がいるのに、他の女性を連れて来たのも間違いの一つだろう。
(あ……最初から間違っているな。まぁ、それはいいや)
諦めたイズミは、ルーデルがアレイストのようにならない事を祈る。
「いや、分からないならそれでいいんだ。そのままのルーデルでいてくれ。その方が周囲に被害が出なくて助かる」
素直なルーデルは、理解できないが頷いていた。
「そ、そうか。頑張ってみよう」
イズミは、理解していないルーデルを見て安心する。ドラゴンが好き過ぎて、その他の事にあまり興味がないルーデル。しかし、次期大公という身分や、ドラグーンというクルトアでも英雄とされる地位を手に入れた。周囲に女性がいない方がおかしいのである。
実際に多くの女性に好意を寄せられているが、ドラグーンである事や身分があって本人は交際を断っている。その辺はハッキリとしており、イズミも安心はしている。
――自分がルーデルと付き合わないのも、そうした身分的な問題だった。
「こういう任務も悪くないな」
賑やかな三人を見ながらルーデルが言う。イズミも、それに同意した。
「そうだね。こんなノンビリした空の旅も悪くない。だけどルーデル、他国での任務だから注意してくれよ。その……色々と」
イズミはセレスティアという同盟国で、ルーデルが何か問題を起こさないか心配であった。ルーデルは、笑顔で頷いた。
「任せてくれ。俺だって問題を起こすつもりはない」
『サクヤも大丈夫だよ、イズミ!』
ルーデルとサクヤの返答を聞きながら、イズミは微笑みながら思う。
(心配だなぁ……)
全く安心できない返答だった。
◇
エミリオは、セレスティ城内の廊下をイライラしながら歩いていた。
(くそっ! 駄目王が他国に頼るから)
知らされた内容は、セレスティアが同盟国であるクルトア王国に、ドラグーンの派遣を要請した事であった。騎士団を集めて発表された内容は、自分たちを信用していないと言っているも同じである。
しかし、エミリオにはそれ以上に許せない事があった。
(計画が狂ってしまった。何とかしなければ……)
思えば、間違いはあの時の三人組である。対して重要ではない門を守るために、兵士とは名ばかりのゴロツキの様な連中だった。だが、意識だけは高いのか、安い給料なのに命懸けで自分たちを追ってきたのだ。
(数合わせの傭兵以下の連中のせいで、俺の計画は……)
さらに言えば、そのゴロツキたちがエミリオの後ろについてきている。三人とも笑顔だった。与えられた安っぽい鎧の上に、王女を救出した功としてこれまた安っぽい勲章が与えられたのだ。
しかも、それによって正式な兵士へと昇格している。
セレスティアは大国ではない。そのために騎士団は精鋭を用意しているが、兵士たちとなると数合わせ程度にしか揃えていないのだ。通常は騎士たちが任務をこなしている。兵が少ない国であるが、それにも理由がある。
過去に、セレスティアは大国であるクルトアと戦争になった。そして、ドラグーンを主軸に攻め入るクルトアを、国の守り神として崇める火山の神によって撃退したのだ。それが約八十年前の出来事である。
(いつまでも過去の栄光にすがって、あんな物を神だと崇めるからこの国は駄目なんだ!)
そこからセレスティアの民は、自分たちが神に守られた存在だと信じ込んでいた。そのために、軍備は不要ではないかという意見が国中に蔓延している。
小国でありながら、クルトアとは対等な関係を維持している……いや、下手をすれば見下している対応をするのは、こうした出来事が原因でもあった。
そして、ここに来て騎士団の失敗も大きく働いた。儀式用の品々を失ったせいで、儀式を再開するために時間が必要となったのだ。その不満は、城内や民に関係なく騎士団に向けられる形となった。
治安維持目的で騎士団を維持していたが、それも前回の王女襲撃で不信感を民に持たれてしまっている。王族や貴族たちが、そのために同盟国にドラグーンを派遣させたと一般には知らしめていた。
エミリオはそれがどれだけ無能さを示しているかと思うと、腹が立ってくる。
(無能な上層部だから、この国は――)
そこまで考えると、後ろから声がかかった。三人組である。
髭面の大男が【ベン】。背の高い細身の男が【ポノ】。小柄で小太りの男が【パサン】である。三人とも良い笑顔でエミリオの事を――。
「どうしたんです、隊長」
「イライラは体に良くないですよ、隊長」
「お腹が空いていると良くないから食堂に行きましょう、隊長」
こんな奴らに俺の計画は邪魔されたのかと思うと、エミリオはやる瀬ない気持ちになる。
「……お、お前ら」
エミリオは頭を抱えてしまう。なにをどう間違ったのか、クレオを守った兵士たちがエミリオの部下に配置されたのだ。これには天才と言われたエミリオも予想すらしていなかった。もっともエミリオは、自身が天才でない事を理解している。
凡人ではない。だが、秀才止まりだ。
(俺の計画がどうしてここまで狂う。完璧とは言わないが、それでも長い時間をかけて準備をしてきたというのに)
エミリオは、頭痛がしてきた。
――だが、それでも諦めない。
(まだ修正できる。どうにかして姫様を――王女をこの手で)
エミリオの鋭い瞳は、まだ諦めてはいなかった。
不意に、城内から騒がしい声が聞こえてきた。三人組もその騒ぎにエミリオの様子を窺ってくる。
「――私たちも行くぞ」
◇
空の旅を終えて、セレスティアに降り立ったルーデルたち一行。
「予定よりも少し早かったかな」
着陸を予定されていた場所には、騒ぎを聞きつけて集まった兵士や騎士隊が駆けつけてくる。城塞都市の形を取っているセレスティアでは、都市の中央に立派な城が存在していた。
集まって入るが、近付いて来ていない。当然だ。サクヤを見て挑もうとする猛者は、中々いない。
だが、前もって指定された場所へと降りてみたが、サクヤには小さかった。なんとか着陸させたルーデルは、サクヤを褒める。
「よくできたな、サクヤ」
『褒めて、褒めて! もっと褒めて!』
喜ぶサクヤが尻尾を振ると、イズミが注意をしてくる。
「ルーデル、サクヤの尻尾を止めさせくれ。このままだと被害がでる。ここはクルトアとは違うんだ。色々と壊せば問題は大きいぞ」
言われると、ルーデルはすぐにサクヤをなだめて落ち着かせると、サクヤの背から降りる事にした。しかし、そこでネイトがアレイストを連れてどこかへと向かう。
「あ、それでは私たちは任務があるので」
「え? 任務? えっ!」
ネイトに手を引かれてその場から去るアレイストを見ると、ルーデルはどうにも任務の内容を確認していないのではないかと不安になる。同時に、いったいどんな任務なのかと気にもなった。
(俺には関係ないか。お前も頑張れよ、アレイスト)
友人に手を振ったルーデルだが、アレイストは何かを叫んでいる。
「私用だって言ったじゃん! なのに、命令書はどこから! ねぇ、聞いてる!」
「五月蝿いですよ、先輩! ここまで来たら覚悟を決めて下さい! 大丈夫ですよ、命令書自体は本物ですから……出所が少し怪しいだけで」
「それ駄目じゃん!」
不安になるルーデルだが、アレイストたちの問題なので放置する事にした。ただ、イズミは確認を取る。
「イズミ、アレイストたちの命令書は本物だったんだろうな?」
「それは間違いないんだが。どうにも怪しくはあるな」
ルーデルとイズミが考え込んでいると、親衛隊の騎士服を着たミリアが広場への入り口らしき場所を見ながら言う。
「二人とも、お迎えが来たわよ」
「さて、任務を遂行するとしよう。二人は俺の後ろに。元々、二人は付き添いという形だからな」
イズミとミリアが頷くと、ルーデルは特注で作られた白い騎士服を整えてセレスティアの出迎えを待つ事にした。




