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少年と剣馬鹿に魔法馬鹿

 学園でも、基礎学年最大の行事であるクラス対抗のトーナメント。この開催を前に、学園では朝から訓練に参加する人数も増えてきていた。男子寮でも、何時もの二倍から三倍の生徒が、朝早くから素振りや魔法の訓練をしている。


「今日も多いね」


 ルーデルが素振りをし終えて、周りを見るといつも以上に多い人数に感心していた。だが、バーガスは


「二、三日したら半分になるぜ。トーナメントの時だけ頑張ろうなんて、無理なんだよ。それよりも今日はバジルの姉さん来てないのか?」


 バジルには、魔法の実践的な使い方を教えて貰っている。だが、彼女は朝に弱い! 時間通りに来る事など滅多にないのだ。来ても、髪はぼさぼさ、服はジャージのような何時もと違って色気のない服装……それでも、朝から訓練する男子には人気者だ。


「最近は夜も出歩いていないみたいだけど、流石に朝には弱いみたいだよ」


「あ~あ、残念だな……あの服越しに揺れる胸が良いのに!」


 ルーデルも呆れつつ、周りを見れば何人もの男子が頷いていた。もう、笑うしかない。


「それよりもだ! お前もトーナメント頑張れよ。成績によっては、騎士団の関係者が目を付けてくれるかもしれないからな」


 そう、トーナメントの目的は、生徒の質を確認すると同時に、将来的に有望な生徒を見つけておくのが目的でもある。早い内から確保しておこうというのが本音だ。


「う、うん!」


 ルーデルも、夢が近付くならいつもより力が入るという物だ。だが、悲しいかな……相手は運命とでも言えばいいのか、学年最強のアレイストである。



 そして、学年別トーナメントの初日を迎えた学園では、クラスの代表が闘技場に集まって開会式を受け、そのまま控室へと下がる。部屋は、異様な緊張に包まれていた。


「お、勝利したのは平民出の多いクラスだな……やっぱり貴族のクラスは貧弱だな」


 こんな事を言って挑発してくるのは、平民出のクラスの代表ではない。言っても誰もが注意できない人物……ルーデルと同じ三公の家系の出である『ユニアス・ディアーデ』だ。体の大きなユニアスは、その背中に自前の大きな木剣を担いでいる。


 金色の短髪を後ろになびかせ、その青い瞳は貴族と言うよりも獰猛な動物を連想させられる。……魔法の授業に関しては壊滅的だが、剣術では基礎学年でルーデルをも抜いて一番の成績だ。しかしユニアスは、ルーデルと直接対決した事がないので、その成績にも不満があるようだ。


「騒がしいな……そんなに平民が好きならいつでも平民になればいい。貴族の義務を果たせない屑は、不要だからな」


 そんなユニアスに対して文句を言うのは、同じく三公の家の出である『リューク・ハルバデス』透き通るような白い肌と赤い瞳が、ストレートの金髪から覗いていた。


 魔法の授業では成績が一番……これもルーデルと比べた事がないので、リューク自体が不満に思っている事だった。


 誰もがこの二人の会話に割り込まない。……筈だったのに……


「落ち着いたらどうだい二人とも。どうせすぐに戦うんだからさ」


 一人、空気を読まないその行動に出たのは、アレイスト・ハーディだった。ここでルーデルが発言するなら誰も文句を言わないだろう。ルーデルも三公の出だ。それに、明らかに二人はルーデルを意識していた。


 だが、アレイストも学年最強といわれる人物……二人にも興味がある。だから会話をつづけたのだ。


「ハーディ家の嫡男だったな……私たちの会話に割り込んで、何が言いたい?」


 リュークは冷たい眼差しで、アレイストを睨みつける。リュークにしてもユニアスにしても、アレイストをよくは思っていない。何時の間にか勢力を伸ばした、成り上がりのハーディ家に思う所もあるし、何よりもアレイストの異常ともいえる実力が気に入らなかった。


 アレイストの成績は一番ではない。それは授業態度から減点されているからだ。それでも上位に食い込む成績のアレイスト……怪しくない訳がない。


 二人とも剣術と魔法で努力を欠かさない人物だ。才能もある。だからこそ思う……こいつは胡散臭いと……逆に彼らが本能で恐れるのはルーデルだ。それこそ両方の分野で自分達に追いつく成績を叩きだし、驕らずにひたすら努力する。


 常に気を付けるべきは、ルーデルだと二人は思っていた。


「実力が気になるなら、戦ったら分かるだろう? ここで無駄に言い争うよりも効果的だよ」


「良い事言うな! 俺好みの意見だ……おい、アルセス! お前はどう思う?」


 急にユニアスに話を振られたルーデル。そのままユニアスやリュークと顔を向け、最後にアレイストを見る。三人とも強いと感じるルーデルは、三人と戦えば更なる高みに行ける気がした。


 だが、どう思うといわれると困る。ルーデルにとって試合前の駆け引きなど邪魔だ。今は試合に集中したいのだ。それに、二人が自分を見ていた事も分かっていた。きっと二人の言った言葉は、自分にとっての嫌味なのだろうと……


「別に……俺はただ、強くなりたいだけだから。ドラグーンになれるくらい強くね」


「そうか、ならお前も貴族失格だな。地位に見合った義務を果たしていない」


 同じ三公の出であるリュークに言われると、ルーデルは自分のわがままを実感する。そう、本来ならルーデルにドラグーンを目指している余裕などない。アルセス領で苦しむ領民を見捨てる行為に等しい。


「好きに生きるのが貴族なら、アルセスが正しいぜ。なんせ、こいつの家はそれが家訓だからな!」


 挑発するユニアス。ルーデルは黙って目を閉じる。見かねたイズミが声をかけようとするが


『それでは次の試合を行います! クラスの代表は準備をしてください!』


 放送設備から聞こえるそんな指示に、ルーデルは立ち上がる。……アレイスト達のクラスもそれぞれ立ち上がって控室の出口から出て、闘技場に向かうのだ。



 ルーデル達が居なくなった控室では、リュークとユニアスが話していた。ハルバデス家とディアーデ家は、決して仲が良くない。それぞれが二大派閥のトップの家である。だが、この時はルーデルの話題で話し込んでいた。


「どう思う?」


 ユニアスの曖昧な問いに、リュークは


「アレイストは正直いって異常だ。だが、ルーデルも化け物だろうな」


「だな……俺の次くらいの剣術に、お前を超える魔法技術……敵に回したら勝てると思うか?」


「お前を超える剣術と、私の次に優秀な魔法技術を持っているんだぞ。簡単に勝てたら苦労はしない……だが、アレイストに勝てるかは微妙だろうな」


 微妙に認識のズレがある二人だが、意見は一致している。ルーデルは、アレイストに勝つのが難しい。というより、アレイストがそれだけ異常なのだ。


「ルーンナイト、ルーンブレイド……幾つも呼び方はあるが、魔法騎士の最大の特徴は『魔法剣』と言われる剣に魔法を付与する戦闘スタイルだ。木刀に付与できる時間など大して長くはないだろうが……ルーデルは不利過ぎる」


「そんなに凄いのか? 魔法が剣にまとわりつくんだろう?」


 ユニアスは、リュークの説明を怪しく聞いていた。


「馬鹿か貴様? もしも木刀に炎でもまとわっていたら、受け止めるだけで火傷だぞ。出力が高ければ丸焼けだな……」


「……最悪だけど、対処法はあるな」


「あるのか?」


「打ち合う前に斬ればいいだけだ……馬鹿かお前?」


 意外と仲がいいのかも知れない。

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