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侍ガールの夢と少年

 学園では、三学期に入り色々と忙しくなっていた。卒業生は進路で……在校生はクラス対抗のトーナメントに熱が入ってくるのだ。


「では、ルーデル君にイズミさん、後は……」


 それはルーデルのクラスでも同じだった。成績や教師から見て実力のある者にクラス代表として声がかかる。辞退もできるが、基本的に辞退者は少ない。クラスの代表として出場できるのは、基本的に名誉な事だからだ。


 貴族には名誉と思われ、平民には自分を売り込むチャンスとも言えた。


 授業も終わり、ルーデルはそんな出場するメンバーとの話も済ませて、放課後の教室で読書をしていた。図書館で借りた本を今日返すため、寮に戻る前に読んで返そうと思っていたからだ。


 ルーデルは学園では充実した生活を送っている。雇ったバジルも、朝から髪も整えないまま酷い恰好で魔法の実践的な使い方を教えてくれるし、周りも気兼ねなく色々と話してきてくれる。


 そんなルーデルの傍には、イズミが同じように教室で本を読んでいた。三学期も同じようにルーデルと行動しているイズミ。本を読んでいると言うよりは……ルーデルを見ていた。


 イズミから見たルーデルは、変わり者だが真っ直ぐな人物だ。この国で最強のドラグーンになると公言し、努力するその姿は好感が持てた。それに、学園生活の初日からルーデルには助けられている。イズミにとってルーデルは友人以上の想いを持っている。


 ……ルーデルは、その事を理解できていないけどね。


 そんなルーデルが本を読み終えて、机に本を置いた。それと同時にイズミに話しかける。


「クラス対抗のトーナメント……初戦はアレイストのいるクラスだよな」


 そんな会話を切り出したルーデルに、イズミは内心で慌てながら


「あ、ああ……やっぱり不安かい?」


「不安? いや、出来るならアレイストと戦いたい。俺がどれだけ成長したか、何が足りないのか……学年最強のアレイストと戦えば分かるかも知れないしな。それに……やるからには勝つつもりだ」


 ルーデルにとって敗北は意味がない。また立ち上がればいいのだ。それ以上に無意味なのが、何の益もない勝利だろう。


 弱い者と戦って勝つよりも、強い者と戦って負ける方が、今のルーデルにとって価値があるのだ。今は学べる環境で、それにこれは試合なのだから……


「ルーデルは、何時でも前向きなんだな……羨ましいよ」


 俯くイズミに、ルーデルは今まで聞きたかった事を聞いてみる。


「イズミの目標は何なんだ? 目的があるから、この学園に来たんだろ?」


 イズミは、少し恥ずかしそうに語りだす。イズミの夢は、クルトアで騎士の地位を得る事……それもただの地位ではない。一般的な騎士よりもさらに上、クルトアでは一般的に上級騎士と言われる精鋭中の精鋭の騎士になる事……異国の人間であるイズミには荷が重いが、それでもイズミの次に続く弟や他の家の者の助けになるために送り込まれたのだという。


 上級騎士は、一代の地位ではない。新しい血を入れる事を大事にするクルトアで、貴族の地位を得るという事だ。だが、それだけに厳しい審査や基準が設けられている。


「何でクルトアでの騎士の地位が欲しいんだ? お前の家も国では騎士の家なんだろう?」


 ルーデルは、異国の事情にそれほど詳しくない。外交的な関係を知る程度だ。イズミがこのクルトアで騎士になりたいのか理解できなかった。


「……政変に負けたんだ。一族は、今では政治に関われない。それに、迫害が酷くなるかも知れなくてね……要は亡命したいのさ。それでも私の一族は武人の家系だ。上級騎士を一人でも家系から出せば、一時的な騎士の地位ではなく、一族が騎士の家系として認められる」


 ドラグーンと上級騎士の違い、それは上級騎士はドラゴンに乗って最前線には出ないが、国の重要人物の警護や、防衛を担当する盾の役である。ドラグーンを矛とするなら、クルトアに無くてはならない物の一つだ。


「審査では国を捨てて、クルトアに忠誠を誓わせられるぞ? それこそ産まれた国を捨てろ、といわれる……それだけの覚悟があるというんだなイズミの一族には?」


「きつい事をいうな……そう、覚悟はあるんだ。だから私も上級騎士を目指している。もしも上級騎士になって貴族の地位を得る事が出来たら、アルセス家に厄介になるかも知れないな」


 ルーデルは、単純に派閥関係の事だと思った。大貴族の下に着くのは、弱小貴族にとって当然の事だ。きれいごとを並べても、どれだけ優秀な家系でも、大貴族を敵に回しては生き残れない。


「そうか、俺はイズミを応援するし、イズミの一族も応援しよう。でも、それは個人的な立場でだ。……もしもどこかの傘下に入るなら、アルセス家だけは止めるといい。折角手に入れた地位に傷がつくぞ」


 今度はルーデルが俯く。アルセス家はどんどんと参加の貴族が離れている。その上、内政はボロボロで、立て直すには時間がかかるのだ。落ちぶれている家系……それが今のアルセス家だ。


「ルーデルが次期当主なのだろう? ならいつかは……」


「父は、絶対に今の地位を生きてる限り譲らない。それにまだ数十年は生きるだろうね。……領民には悪いが、だから俺がドラグーンを目指せる理由でもある。いいかイズミ、俺はこんな男だ。いつかは領主となって内政に関わるだろうが……俺の生きている内に、アルセス領が良くなるかといわれると分からない」


 ルーデルは、自分が我がままであると自覚している。苦しんでいる領民を見捨てて、ドラグーンを目指すのだ。だが、それでもルーデルはドラグーンになりたかった。


「……」


「学園で早い内に後押ししてくれる大貴族を探すといい。良い事に、三公の嫡男もあと二人いるし、侯爵の家の出の者も数人学園に来ている」


「……そうだな。そうかも知れないな。」


 夕日で教室はオレンジ色に染まる中、二人は立ち上がってそれぞれの寮に戻る。イズミは、少しだけ悲しくなっていた。それは、きっとルーデルがドラグーンになるか自分を取るかと言われれば、真っ先にドラグーンになる! という事がハッキリしたから……


 それだけルーデルが真剣だと理解したから……自分も頑張ろう、と決意を新たにするのだった。



 アレイストの秘密ノートに書かれたイズミという登場人物は、大和撫子であり、一族に翻弄された少女として書かれている。そんな彼女との恋愛イベントでは、家に囚われない事を重要とした選択肢がカギとなっていた。


 イズミは『上級騎士になれず』、一族の決定で大貴族の子弟の妾になる所を主人公が助けるのだ。そんな書き込んだ情報を見ながら、アレイストは自室で横になりながらしゃべりだす。


「もうすぐトーナメントのイベントだし、イズミとのイベントも始まるな……でも、バーガスとか正直微妙なキャラだし、別にイベント進めてねーけどどうでもいいか」


 田舎者のバーガスに、アレイストは興味が無かった。兄貴分的なキャラであるバーガス……しかし、アレイストの中では、パーティーは女性で埋め尽くす予定なのだ。バーガスに時間を取られるのも馬鹿らしい。


 そう考えていた。


 因みに、イズミの相手は、アルセス家のルーデルであった。意外にも運命的な関係にある二人である。

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