我がまま少年
以前書いていた 竜に乗りたい! を書き直したものになります。今回は、三人称視点の練習を兼ねています。
前書きや後書きは、基本的に書かない方向で進めたいと思っています。説明が必要なら後書きを使わせて頂きます。
こんな感じで書いて行くので、楽しんで貰えたら嬉しく思います。
そこはクルトア大陸のクルトア王国の首都からほど近い領地、広大な領地とクルトア王国でもかなりの地位である三大貴族『三公』の内の一つ、アルセス大公家の領地での出来事だ。領地を治める貴族アルセス家は、長いクルトアの歴史において、堕落した家系だった。
領民から高い税を搾り取り、賄賂の横行する領地に活気はない。しかし、簡単に領地から出る事の出来ない領民達はその苦しみに耐え忍んでいた。
そんな悪徳貴族の家に、五歳になるわがままで横暴な嫡男である『ルーデル・アルセス』は空を見上げてその瞳を見開いていたのだ。
「な、なんだあれは!」
ルーデルが空で見た物は、深い緑色の強大な体と、その巨体を自由に空で動かすための大きな翼……爬虫類を思わせるその鱗や角は、その巨体をとても偉大に見せていた。
そう『ドラゴン』……そしてそれを操り、国を守る騎士は『ドラグーン』と呼ばれている。
ルーデルは、すぐに傍に控えていた使用人達に空で見たドラゴンについて問い詰めた。その聞き方も、横暴で、とても五歳の子供が大人に聞く態度ではない。
「あれは何だ! 俺は知らない……なんで教えなかった!」
使用人達は、この国に居てドラゴンを知らない子供がいる事の方が驚きだ。しかし、相手は勉強嫌いで運動嫌いな態度の悪いルーデル。使用人達は、腹が立ちながらも丁寧にルーデルにドラゴンとドラグーンについて説明する。
「ドラゴンは、最強の魔物に数えられる知性の高い魔物です」
「そのドラゴンを従えたのが、ドラグーン……クルトア最強の騎士達です」
「ドラグーンになる騎士は、強さだけでなく『徳』を持ったクルトアの誇り高い騎士なのです」
それを聞いたルーデルの瞳は、今までの傲慢で腐った魚のような瞳から、憧れを抱く少年のような瞳になっていた。しかし、それを聞いても……
「いくらでその『徳』は買える! いくらでも出すからすぐに手に入れろ!」
徳を理解せず、それを買って手に入れようとするルーデルの発言に周りは本当に呆れた。これが次期当主かと思うと、使用人達は軽く殺意を抱くほどに……そこで一人の使用人が思いついた。こんな馬鹿なガキには、現実を教えてやろう、と……
それがアルセス家とクルトア王国を巻き込む事になろうとは、この時誰も思ってもいなかっただろう。そう、全てはこの使用人達の『悪戯』から始まったのだ。
「ルーデル様、『徳』とは品性や品格を言い表します。それは、お金では手に入れる事が出来ません。地道な努力で手に入る貴重な物なのです」
その言葉に、ルーデルは分からないといった顔をする。ルーデルは勉強嫌いでわがままだ。家庭教師はいるが、言う事を聞かずに授業には出た事が数回しかない。
「どうしたらドラグーンになれる? 俺はドラグーンになりたいぞ!」
それを聞いた使用人達は、内心で失笑していた。本当になれると思っているのか? 厳しい訓練と、知識と教養を試されて、なおかつドラゴンを従えるクルトアの勇者の中の勇者に……使用人達は、丁寧に、そして現実をルーデルに教え込む。
「難しいかと……ドラグーンになるには、王国でも最高の騎士、つまり強さと優しさを備え、知識に教養……さらにはドラゴンに認められねばなりません」
「俺では無理だと言うのか!」
「はい。しかし、問題はありません。それだけドラグーンになる事は難しいのです。大国であるクルトア王国でも、年に十人もドラグーンが誕生すればいい方なのです」
その説明に納得のいかないルーデル。初めて見たドラゴンへの憧れは、ルーデルの胸を焦がすほどに強力に焼き付いてしまっていた。
「……どうすればなれる? 無理ではないなら、絶対になれないという事は無いのだろう? どうしたらドラグーンになれるんだ!」
ルーデルの態度に呆れる使用人達は、もう遊びにも飽きてその性格を直せ! と言う意味を込めて説明した。
「ルーデル様、今の生活を続けていてもドラグーンにはなれません。規則正しい生活と、誰に対しても変わらない優しさ、そして弛まぬ努力こそが大事なのです。……今のルーデル様には全てが欠けています」
言い切る使用人達。ここまで言うのには理由がある。基本的にルーデルは『馬鹿』なのだ。その行動は突拍子もなく、周りを何時も困らせる。両親もルーデルには後継ぎとしての価値しか感じておらず、放任してルーデルの弟を可愛がっていた。
だから、馬鹿にした事もすぐに忘れてしまう。それが使用人達の冷たい態度に繋がっていった。
そんなルーデルは、実は可哀想なのかも知れない。誰からも相手にして貰えず、使用人達には馬鹿にされる……だが、今のルーデルにはそれら全てがどうでもいいと思える存在に出会った。
そう、ルーデルには目標が出来たのだ。この日から、わがままで傲慢な少年ルーデルは、ただ純粋にドラグーンになる事だけを目指した。
◇
次の日からルーデルは、日が昇ると同時に起床した。何時もは昼前に起きるルーデルだから、使用人達も誰もいない部屋で自分で寝間着から運動をできる服に着替える。いや、一人部屋にいるが、椅子で寝ていて起きてこない。
使用人達に馬鹿にされた日には、何をすればいいのか全員に聞いて回った。それこそうっとうしいルーデルに、嫌々教えた使用人達の説明を一生懸命に覚えたルーデル。
「朝は早く起きて走り込み、ご飯は健康に良い物をよく噛んで食べて……」
ブツブツと言いながら、部屋から出て外を目指すルーデル。……まだ薄暗い屋敷で、子供がブツブツと何かを言いながら歩く姿はとても不気味だろう。
そして広大な屋敷は、最早城と言っていい。そんな城の庭を走るルーデルは、すぐにばててしまう。毎日の不規則な生活や暴飲暴食がここにきてルーデルを苦しめた。……まだ五歳児なのに!
そんなルーデルを見て、使用人や警備をする兵士達は声を上げて笑い出す。中には堂々と馬鹿にする声を上げる者までいた。そんな中をルーデルは、気にもしないで走る。
そして走り終える頃には体は汗だくで、食べ物を食べられる状態ではなかった。それでも厨房に行って料理人に健康に良い物を出してくれと『お願いした』。ルーデルにとってそれは初めてのお願いだったが、それを聞いた料理人は、朝から忙しい事もあって気にも留めなかった。
ただ、分かりました、と言って希望に沿った料理を用意する。
ルーデルの食事は基本的に一人だ。両親には大して可愛がられる事もなく、使用人達には見下されているルーデル。そしてそんな一人だけの食卓に並ぶのは、ルーデルの嫌いな食べ物ばかり……野菜に乳製品に肉は鶏肉……平民からしたら豪華な食事であるが、ルーデルは大公家の嫡男。
これは酷い扱いであった。しかも味付けにはルーデルの事を気にした様子もない。苦手な野菜は苦いまま、他の料理も子供の好きな感じではなかった。
それだけルーデルは嫌われていたのだ。そして仕返ししても馬鹿だからすぐ忘れる、と露骨に嫌がらせを受ける。
それでもルーデルは
「頂きます?」
ぎこちない挨拶と共に朝食を食べる。苦い! と思いながらもドラグーンになるためにと我慢して食べる。そして、その後は家庭教師と共に勉強だ。ルーデルがやる気になっても家庭教師にやる気はない。基本的に聞かれた事を答えるだけで、後は放任していた。
それでもルーデルは、教科書を読んでは分からない所を何度も聞いた。ルーデルを馬鹿だと思っている家庭教師は
「そんな事も知らずにドラグーンを目指すのかい? これはとんだ愚か者だな」
嫌味を言う……しかし、ここで屋敷にいる全員が思い違いをしている。ルーデルは行動やその思考に問題はあるが、基本的に頭は悪くない。考えるよりも行動する事は多いのだが、それでも頭は悪くないのだ。
ドラグーンになるために、どうしたらいいか分からなければ使用人に聞いたし、どうすればいいかも聞いている。そして即、行動している。これがルーデルの強みだろう。すぐに行動できるのはルーデルの短所でもあると同時に長所でもある。
そのまま今度は剣術や体術の訓練だ。しかしここでも……
「どうした若様よ! こんな攻撃も防げないでドラグーンになるなんて笑わせてるのかい?」
容赦のない教師役の兵士の攻撃に蹲るルーデル。決して後の残らない苦しめ方をするその兵士は、歴戦の傭兵だった。しかし、この領地に仕官して初の任務が馬鹿なルーデルに剣術と体術を教える事……その気持ちをルーデルにぶつけていた。
それでもルーデルは立ち上がる。
「しぶといな……まぁ、どこまで耐えられるか見ものだな!」
◇
初日は最悪と言っていいだろう。走ればすぐに息切れし、勉強はろくに進まず剣術では体中が悲鳴を上げていた。それでもルーデルは本棚から一冊の本を取り出して自分のベッドに潜り込む。
「ドラグーンは最強の騎士であり……」
それは絵本に近いクルトア王国のドラグーンを紹介した本である。それを音読するルーデルに、傍に控える使用人は嫌になった。
(早く寝ろよ糞ガキ……ああ、眠い)
それで気付くのだ遅れたのか……今まで勉強をろくにしていないルーデルが、『本を読んでいる』と言う事実に……
読み終えたルーデルが、本をベッドに置いたまま瞼が下がってくる。
「俺は絶対にドラグーンになる、んだ……」
そのまま寝てしまったルーデル。使用人は本を取ってそれを本棚の元の位置に戻す。そしてルーデルを振り返り
「なれる訳ないでしょう。本当に馬鹿なんだから……ふぁぁぁ、私もさっさと寝よう」
この使用人の付き添いの目的は、非常時の対応だ。決して寝てていい立場ではない。