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咲月熒惑の旋律  作者:
1/2

傍観と諦観て似てるよね

勘違いのないようにいっておくと、これはTSではありません。転生、憑依、トリップでもありません。熒惑が若干痛い子なだけです。

 


 とても有り得ない話だが、仮に万が一、世界に主人公というものがいたとしよう。

 主人公というからには当然世界は主人公を中心に廻っているわけだ。

 主人公は生まれてから死ぬか、はたまた生まれる前から物語が終わるまで世界の中心であり続けなくてはいけない。

 その中にはとても過酷な運命とやらを背負っていく者もいるだろう。

 はたまた全てがご都合主義とやらで解決してしまうような素敵仕様になっているかもしれない。

 それとも争いとは無縁なほのぼのした日常が舞台かもしれない。


 まぁともかく、そんな中で主人公は世界に監視されているといっても過言ではなく、不幸にも主人公になってしまった者は自覚もなしに世界の奴隷となるわけだ。なんて泣ける話だと思わないか? 話によっては世界という不特定多数のために自分の命を投げ出すことを義務付けられていたりもするのだから、同情の余地もあろうというもの。

 私がもしそんな立場になったとしたら、早々に自殺でも図って逃げ出すのは間違いない。

 なにせ私は臆病者で面倒が嫌いな享楽主義者、または刹那主義といってもいい人間なのだから。


 もしかしたら世界のどこかには「主人公になりたい」などという酔狂な者もいるかもしれないが、それは止めた方が良い。

 主人公になるとは、それすなわち「私は奴隷になりたい」と同義なのだ。

 まさか進んで虐げられたいと思う者はいるまい。

 自分の生を縛られるなんて考えただけで寒気すら覚えるね、私は。

 それならばやられ役の悪役のほうがずっといい。序盤で物語から退場できるのだから、魅力的にも思えるだろう。


 しかして、そんな主人公よりもなお不幸で不運で可哀相な役柄もある。

 それは主人公の両親、または親友という役だ。

 彼らは物語の序盤において高確率で死亡し、またはアドバイザーの仕事を終えると同時に消えてなくなる。

 これほど不幸な役はない。

 主人公の「ため」に命を張らなくてはならないなど、もはや拷問だ。

 私ならば帰って寝る。


 まぁ、中途半端かつ長々とこんな事を話したのは何故かというなら。

 いるのだ。

 私の住むこの世界には。




 主人公というやつが。




 あぁ、先に言っておくのを忘れていたが、私の住む世界には剣も魔法もファンタジーもない。

 あるのは名門高校という名の無駄に大きな学校とそこそこ綺麗で名所もある地方都市、それから優しい両親に猫の様な妹だけだ。


 もっと簡単に言ってみようか。

 ここは、ギャルゲーの舞台にはもってこいの街なのだ。


 すると必然、主人公というのにも予測は立つだろう。

 下種でカスなハーレム主人公か、鈍感という病気を患った無自覚な誑し。

 私はそのどちらも嫌いだ。どちらも日本男子として終わっている。

 馬鹿馬鹿しい話だが、そういったものに憧れるものもいるなど驚愕を通り越してもはや呆れる。

 女を穴か装飾品と勘違いしているとしか思えないのだから。

 穴が欲しければ道具でも買えば良い。装飾品ならそこらに売っているだろう。


 あぁ、話が逸れたな。

 ともかく、私の住むこの街に、主人公はいたのだ。

 こいつは前述の様な下劣な奴ではないとは思うが、果たしてそれもどうなのか。

 そうと確信してからこのかた、私はアレを避けているから人となりなど知りはしない。

 そしてこれから先も、知る事無く過ごしていくつもりだ。

 それが出来なかった場合、この私―――咲月熒惑の全力を持って排除する。




 ―――――




 私立ムスカリ高等学校。

 そこはこの近辺では知らぬものなどいない有名高校であり、また国内でも有数の難関校でもあった。


 そこの生徒は皆優等生の体を装ってはいるが、果たしてそのうちの何人が不良生徒なのやら。

 普段は真面目にしている生徒ほど、私生活では乱れていることもままある。

 ムスカリ高校の生徒会会長を務める私がこんなことを言うべきではないのだろうが、子どもなど所詮はその程度なのだから仕方ない。

 背伸びしたい時期なのだろうし、ある程度の素行不良は見逃すべきだろうに、職員や風紀委員はやたらめったに五月蝿く騒ぐ。

 校内外で大きな問題を起こしたわけでもあるまいに、やれ制服が乱れているだのやれ言葉遣いが悪いだの。

 私達は生徒を管理しているわけでもないのだがな。


 ふっと短くため息をつきながらそんな報告書や嘆願書を机に放って背もたれによりかかると、計ったようなタイミングで庶務が紅茶を注いでくれた。


 私が今いるのは、ムスカリ高校生徒会室である。

 内装としては、校長室や理事長室を思い浮かべてくれれば良い。

 こんなところに金をかけずともよかろうに、それなりの広さ、それなりの設備を備えているのだ。


 私は庶務に片手を上げて礼をしつつ、入れられた紅茶を口に運ぶ。

 うん、相変わらず良い仕事をする。

 この庶務の若本周が来てからというもの、こうした細々とした気遣いをしてくれて本当に助かっている。

 書類に目を通すだけでも、結構つらいものがあるからな。


 ゆっくりと私が紅茶を飲みながら休憩をしていると、無粋にも誰かが扉を叩いた。

 それとていつものことではあるのだが、何故こう休憩中に来るのか。


 げんなりしつつも態度には出さず、入れというと、副生徒会長の陰虎雀が書類を片手に入ってくる。


「咲月さん、今週の意見書をまとめました。後ほど目を通しておいて下さい」


「分かった。といっても、今週は特に大きな問題は起きていなかっただろう?」


「風紀委員の馬鹿騒ぎ以外は特に何も。部活動も不満は聞こえてきませんね」


「ならいい。ご苦労様」


 陰虎から書類を受け取ると、陰虎は一礼して退室していった。

 そこまでかしこまらずともいいだろうに、律儀な奴だ。


 そうこうしながら休憩も切り上げ、再び書類に目を通す作業にかかる。

 ちなみに庶務はいつの間にやら退室していたりする。

 あれは実は忍者だといわれても驚かないだろう。


 さて、書類と言っても内容は大したものじゃない。

 せいぜいが生徒の不満や要望をまとめたものに目を通し、実現可能なら学校に掛け合うためにペンを動かすぐらいだ。

 後はイベントなどのときの各出し物のチェックなども仕事だが、今はイベントもない。

 従って、生徒会の仕事は生徒の毒の吐き口というわけだ。

 まったくもって、損な仕事だよ。


 ブチブチと文句を言う間も惜しんで手を動かしていると、ふと一枚の書類に目が留まる。

 それは先ほど陰虎が置いていった意見書の中の一枚なのだが、その内容はどうみても呆れるものだ。

 思わず破り捨てたくなる衝動をどうにか抑えつつ、その書類を手にとる。


 それは、新しい愛好会の申請書だった。

 それ自体は別段目新しいものでもなく、月に一度はこうした申請書が提出される。

 今ある部活動では目的を果たせないことも多々あるのだろう。

 活動をしたいというその意欲は称賛に値する。


 しかして、その申請書にかかれた愛好会の名称は、「咲月熒惑を崇め隊」。


 これで一体何回目だろうか、この馬鹿げた名を見るのは。

 いい加減に警察に行くべきかもしれない。


 はぁ、とまたしてもため息を吐きつつ、不承認の判子を押す私であった。

次回!


「主人公登場!?

出落ちは俺の専売特許(嘘)だ!!」


気長にお待ち下さい。

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