息子3
「ん・・・っ」
なかなか離れない唇に息苦しさを覚え甘い声が漏れる。
押し返そうとするが頭と腰にしっかりと手がそえられていてびくともしない。
いい加減にしてよ!!
あまりの横暴さに千草は悠也の足を思いっきり踏んだ。
「い・・・ってー!!」
狭いエレベーター内に悠也の声が響く。
しゃがみ込む悠也を上から睨み1階のボタンを押す。
「ふざけたことするからよ!もう二度としないで」
「・・・いやだね」
「え!?」
「いやだって言ったんだよ」
悠也は勢いよく立ち上がると千草を見下ろしながらニヤッと笑った。
「・・・何でよ?それって私があんたを捨てたから?」
「捨てた自覚があるんだ?そうだよ。俺の気持ちはあの時のまま止まってる。千草との未来を夢見てた時のままな」
未来?
私と悠也との?
それは千草も夢見ていたこと。
あの一瞬で壊れてしまった今はもうありえない未来。
「私の時間はもう進んでるの。立ち止まってなんかいられない」
悠貴のためにも。
千草はそう心の中で呟きながらちょうど止まったエレベーターから降りる。
その時。
「ママ!!」
保育園のママ友達が見てくれているはずの悠貴が涙を目にためて千草に駆け寄ってくる。
その後ろには友達が申しわけなそうな顔で立っていた。
悠貴は走ってきた勢いのまま千草へ飛びついてきた。
「ママ!遅いよ!」
ギュッと足にしがみついて離れない悠貴から視線を後ろへやると悠也がこちらへ来ようとしていた恰好で固まっている。