息子2
本格的に悠也の仕事の補佐を始めると部長が褒めていたのもうなずける。
それぐらい悠也は仕事ができた。
しかしそれに感心する一方で千草は毎日のように側にいなければならない苦痛の日々を必死に耐えていた。
そしてもっとも問題なのが帰宅する時だ。
「森崎さんお疲れ様。もう遅いし送るよ」
誰もいないオフィスに響く声。
千草はため息をこらえて「結構です」といつもと同じ返事を返した。
あれだけひどい言葉を言ったのに悠也には通用しなかったようで普通に千草の私生活を垣間見ようとしてくる。
「でももう9時だ。女性には危ないよ」
「まだ9時です。私は平気ですので。ではお疲れ様です」
「ちょっと待ってよ」
歩き出した千草を追いかけて隣りへとやってくる。
「なんでそんなに嫌がるんだ?いいから送られてろよ。それに腹減ったからどっかで飯でも食って帰ろう」
そう言うと悠也は千草の手を取りどんどん歩いて行く。
突然の行動に唖然としていたがエレベーターに乗り込んだとき懐かしい手の感触に気づき繋がれていた手を振り払った。
「やめてよっ。歩いて帰れるしごはんも家に帰って食べる!」
「はい黙って。あんまりうるさいとその口ふさいじゃうかもよ?」
「何言ってんのよ!」
千草は自分の降りる番号を押そうと手をのばした。
しかしそれは届く前に悠也に捕まった。
「俺は警告したからな?」
悠也は笑みを浮かべてそう言うと千草の顎を掴み自分の方へ向かせると唇を奪った。
それは奪ったという表現が似合わないほど優しい触れ合いだった。




