千草の秘密
何度も接触しようとしてくる悠也をなんとかかわしながらようやく仕事も終わり千草はすぐに帰る用意をして席を立った。
さっさと職場を出てエレベーターへと乗り込む。
本当に最悪な一日だったわ・・・。
心の中で大きなため息をつきながら早く会社から離れようと足早に受付の前を通り過ぎた。
「千草っ」
少し会社から離れたところで腕を掴まれ呼び止められた。
振り返ると少し息を乱した悠也が離さないように手に力をこめて千草を見ている。
「・・・名前呼び捨てにしないでもらえますか?」
まさか追いかけてくるとは思わなかった千草は悠也に動揺しているのがばれないように感情を抑えながら突き放すように言い放ち痛む腕を振り払った。
そのまま悠也を置いて歩き出した。
「待てよっ!俺の話しも聞けよ。お前・・・なんで別れようなんて言ったんだ!?納得しなかった俺の目の前から消えて・・・っ」
「ちょ・・・こんなところで大きな声出さないで!!」
人通りの多い場所で叫ぶ悠也に千草は駆け寄ると腕を掴んで近くにあった公園へと入った。
薄暗くなっていたせいかいつもは子供の遊び声が響き渡っている公園は静まり返っていた。
「どういうつもりよ!?あんなところで大きな声出してっ」
「お前が話を聞こうとしないからだろ?会ったら聞きたかったんだ、別れたかった理由。あんな一方的に別れつげられて俺が納得してなかったのわかってるだろ?」
「・・・」
悠也は私が知らないと思ってる・・・。
何も知らずに一人で怒ってそれをぶつけてくる悠也がおかしくて千草は笑った。
その様子に悠也はムッとした顔をする。
「何がおかしい?」
「だって・・・もう終わったことなんだからいいでしょ?今からただの仕事仲間。それだけ。もういい?私これから用事があるのよ」
千草は公園についている時計を見上げると時間を確認し踵をかえした。
「待てよ!まだ答えを聞いてないぞ!?」
「・・・私があんたを嫌いになっただけ」
それだけ言い放つと千草は公園を出た。
その後を悠也が追いかけてくることはなかった。