家族
千草がトイレから戻るとすでに料理がテーブルに並べられていた。
待ち切れなかったのか悠也たちはすでに食べ始めている。
「ママおそいよ!もうたべちゃってるよ~」
「ほんとだ!!こっちは仕事頑張りすぎて腹へってんだ」
「ごめん・・・」
熱々の湯気をたてたハンバーグを前にするとすいていなかったお腹が急に空腹感に満たされてくる。
がつがつ食べている二人を前に千草も席について食べ出した。
視線を感じて顔を上げると悠也が千草の手元をじーっと見ている。
「・・・何?」
「うまそうだな・・・俺の肉と交換してくれ」
悠也は自分の頼んだロースステーキの一切れをフォークに突き刺すと千草の口元へと差し出した。
「ちょっと・・・ここにおいてよ」
「このまま食べればいいだろ?」
「嫌よ。そうじゃなきゃハンバーグあげないから」
その一言が効いたのか渋々ライスの上に肉をおくと一番大きく切り分けられていたものを持っていかれてしまった。
「ああ!!それ一番大きいのじゃないっ。返してよ」
千草がそう言ったときにはすでに遅く悠也の口の中へと消えてしまった。
「ひどい・・・」
「ママぼくのあげるから・・・」
悔しそうに悠也を睨みつける母親が不憫だったのかアイスクリームをすくいとったスプーンを悠貴が差し出す。
「悠貴・・・ありがとう」
くしゃっと頭をなでるとそのスプーンへとかぶりつく。
ちょっと溶けかけていたが口の中で甘さが広がり千草の顔も自然にほころんでいく。
「おいしい・・・悠貴もハンバーグ食べる?」
「なんだよ。俺だけ仲間外れか?」
「しょうがないな。おじさんにもぼくのアイスわけてあげるよ」
「お、じゃあ悠貴もこれ食べろ」
本来これが当たり前の風景なのだろう。
そんなことを思いながら千草は二人を見ていた。
両親がそろっていて休みになれば三人でいろんなところへ行って遊んで。
下手したら家族も増えていたかもしれない。
私間違えたのかな・・・。
あの日悠也から逃げたことが今思うととても悪いことをしたように思えてしまう。
でもあの頃の千草には耐えられなかった。
本当に悠也を愛していたから・・・。
たった一度の過ちも許せないだろうぐらい。
「千草、どうした?」
二人が心配そうな顔をして千草を見ている。
「え!?何でもないわ。ちょっと疲れてるだけ」
「そうか・・・そろそろ本題に移りたいんだけどいいか?」
本題・・・。
そうだ。
話がしたくて・・・。
「とりあえず悠貴。お前はあっちで遊んでろな?」
店内に設けられているキッズコーナーへと悠貴を促すと悠也は千草へと向き直った。
「最初から全部話せよ?隠し事はなしだ」
「・・・」
「突然別れ話をしてきたことはなんでなんだ?俺が嫌いになったとか信じると思ってるのか?」
そんなことは千草も思っていなかった。
その日も朝まで一緒いたのだから。
「・・・見たのよ」
「え?」
「私見たの。悠也が女と抱き合ってキスしてるところ」
深く息を吸い吐き出すように言った。
悠也の顔を恐る恐る見ると目を見開いて千草を見ていた。