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2. ヴァロアナ公爵家へ、ようこそ


――――――


 よしっ、野草がたくさん獲れましたわ。これでスープと栄養のあるパン、香辛料にもなりますわね。ヨコラは成長期だから、本当は魚でも食べさせてあげたいのですけど。


 川までは出歩くことを許可されていない。だからといって、貴族なのだから、レディなのだといってられないほどに、我が家は窮地に陥っていた。屋敷から離れた山へ、食べられる山菜を取りに行くのがミラの日課となっていた。


 本当なら、私が少しでもいいところに嫁げれば、家の役に立てますのに。


 ガサガサツ


「っ!?」


 獣っ? にしては随分雑な音を立てているような。人……かしら? ここからなら十分距離もありそうですし、なによりただの人っぽさそうですし、うん、大丈夫そうですわ。


 そう、人だけであれば関わらずに済んでいた。でもその時、音もなく背後に一瞬で現れた人ざるものの気配に気づいた時には、どうしようもなかったのだ。


『もし、そこのご令嬢。頼みがある』


「…………」



――――――



 いきさつを聞いたお父様は顔をなかなか上げずにいるようだった。


「いつものように、無視は出来なかったのか?」


「ですが、あんなに美しいヒョウの姿で人の言葉を話すアレなんて初めてでしたもの!! それも、負のオーラではなく、なんと言いますか、神々しい域のレベルでしたのよ」


「そうか……ヴァロアナ家の家紋には黒ヒョウが入っているとは聞いたことあるが……それは守護獣とかになるのか?」


「……?」


「ミラ。まさか、ただの動物かわいいの感覚で今回の件に関わったわけではないな?」


「まっ、まさかですわ。ホホ」


 危ないところでしたわ。初ヒョウに心躍って冷静さを欠いたなんてとてもじゃないけど言えませんわ。


 それに……生きている方の瀕死の状態を見過ごすほど無関心でいられるわけではありませんもの。






「お待ちしておりました。お客様専用の入り口へとご案内致しますので、どうぞこちらへ」


 お父様の言う通り、首都はそれほど住む地から離れておらず、日が暮れてしまってはいるが、半日と少し程度で目的地、ヴァロアナ公爵家へとたどり着いていた。


「これが、お屋敷……」


 比べるならば、実家が屋敷なら、ここは1つの帝国になるのではと思うほどの広大さだ。夜空に吸い込まれているのでと見えてしまうほど高い塔も、全て黒で統一されている。屋敷全体が、王族に最も強い影響力を持つヴァロアナ家の力を強調しているようだった。


「ミラ、そんなに上を見てはダメだ。頭の飾りが落ちそうだぞ」


「あっ、すみません。その、なんというか違和感が……」



 高い塔に魅せられたことも一つだが、公爵家の敷地に入ってから急に変わった空気、初めて経験する違和感が、無意識に塔を見てしまっていた。


「お父様、ここは……」


「こちらでございます」


 話の途中で到着してしまった入り口には、夜だと感じさせないほどの明かりが十分に灯され、花や美しい彫刻を目立たせていた。特に天使の置物の真ん中に象徴的に配置されているヒョウの彫刻は、まるで生きているようにすら見える。


「おおっ、なんと立派な……」


「はい。彫刻なんて初めて見ましたわ」



「喜んで頂けるとは光栄ですな。恩人をわざわざ出向かせるような真似をしてしまい申し訳ない。ようこそ、我がヴァロアナ家へ」

 

「っ!? まさか…… 公爵様自ら出迎えてくるとは……」


 お父様の表情は固まり、そのまま身体が硬直しているのが分かる。


 お父様……確か、お父様のあとに私の挨拶という流れですのに、どうしたら……


 格上の相手が出迎え挨拶をして返さないなど、いくら経験不足でも分かる。とてもまずい状況だと。


 それに……やっぱりあの時のおじい様だわ。


「父に代わり、ご挨拶を申し上げます。なにぶん、今回は至らない私のために、急遽同行してくれたものですので、少々疲れが……」


 なかばやけくそに、だが、裾を持ち上げ挨拶する不慣れな姿にも、優しいまなざしが向けられていると分かる。


「良い。来たばかりでこちらこそ気遣いが及ばなかったな。若い娘さんを1人招待など、親の心情に配慮が足りなかったのはこちらの不手際。すぐにでも話をしたいところだが……今夜はどうぞ休んでくだされ」


 当主の言葉と同時にすぐに使用人たちが動く。気づけばお父様とは別の部屋に案内され、女中と思われる複数人に囲まれている。こちらが何を言うわけでもなく、髪を清め、用意された着替えに変わり、荷物まで片付けられている。


「あの……」


「はい、ミラ様」


 うぅっ、なにこの距離感は……

 同じ使用人でも、セバスは家族も同然だ。お小言を言われながらも、一緒に食事の用意、家事、勉強を見てくれていた。


 ここにいる全員が、目を合わさない。まるで人形のように与えられた仕事をこなしているように見える。


「お父様は?」


「現在別の塔でおくつろぎいただいております。何か伝言があればお受けいたします」


「いえ、大丈夫です……あの」


「はい、ミラ様」


「いつまで皆さんここにいらっしゃるのでしょう?」


「ご当主様よりミラ様のお世話を申しつかっております。必要とあればすぐにご対応できるよう万全の体制をとっていますので、どうぞおくつろぎ下さいませ」


 いえ、それは無理がありますが?



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