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1.どちらにしても、良くないお知らせです

「……お父様、今……なんとおっしゃいましたか?」


 節約の為にと、屋敷の中にはわずかなろうそくの灯りがあるだけだ。この暗闇では、字の読み間違えをしてしまったとしてもおかしくない。


「お前を……屋敷に招待したいと公爵家から手紙が届いている」


 お給金も十分に払われていない執事が、これでもかと手紙に灯りを近づけ、一緒になって目を見開いている。


 私に、招待状……ですって?


 

 社交界デビューすら満足に終えていない、それも超貧困にあえぐ弱小貴族の家に、お誘いがくるとは理解しがたい。



「公爵家からだなんて……」


 寝落ちしてしまった幼い弟を抱きながら、お母様はすぐに勘づいたようにこちらを見る。


「ミラ、あなた……まさかアノことを知られるようなことしたんじゃ……」


「えっ!? そんなことは……ないと思っ……ぁ……」


 急に目をそらしたのがいけなかった。生身の人間に嘘をつくのは難しい。それがお母様ともなれば見逃すはずがない。


「思い当たることがあるのですね?」


「えぇと……先日山で野草をとっていた時に……偶然手助けした方が……改めて思い出しますと、身なりも馬車も品の良いものだった気が……」


「偶然、ね……」


 偶然という言葉を強調しながら頭を抱えるお母様をそっと支えると、ずっと手紙から目を離さないでいたお父様がいつもより深刻そうな声色で確認する。


「ミラ、その方は……その馬車は黒い塗装がされていたのではないか?」


「は……い。その方も全身が黒い装いで、確か乗られていた馬車も真っ黒な装飾でしたが……」


「なんということだ……」


「あの……不幸ごとがあったのでは……?」


「あぁ、やはり土下座してでもお金を工面して社交界デビューをさせておくべきだった……まさか、こんなにも世間知らずな娘に育ってしまうとは……いや、しかし、アレが視えてしまう状態ではどうしようも……はぁ。いいか、ミラよ。喪に服している者以外で黒を着飾り好む貴族はこの国では1つしかない」


「まさかお父様、その方が公爵様だと?」


「あなた、でもミラは手助けしたのなら、そのお礼でお呼ばれされたということも……招待状で招かれていることですし」


「ヴァロアナ公爵家は誰にも近づけさせないと有名だ。褒美であればわざわざ屋敷に招待などせずとも使用人をよこすだろう。表立って罰するなら、我々も名ばかりとはいえ貴族……裁判所を通さずにはあちらの名誉にも関わる。招待状にしたのは……なにか無礼な振る舞いをして呼びだされたか……あのことがバレてしまったか。2つにひとつだ」


「……それは、私の問題について……でしょうか?」


「う……む。どちらにしても、あまり良い状況ではない。かといって、あのヴァロアナ公爵家からの招待を断るなど無理な話だ……私が……一緒に行こう。セバス、首都に出向く支度を……頼めるか?」


「あなた……」


「お父様……」


「……承知しました。ご主人様のご要望とあれば、このセバス、どのような手を使ってでも必ず手はずを整えましょう」


 我が家に、それも2人分も首都に出向くだけの余裕があるとは思えない。


 セバスは傾いていく財政状況の中で、唯一残ってくれた執事だ。


 でも、どんな手を使ってでもって……当分食事は野草のみになりそうですわね。







「うわぁ!! おねーさん、きれい!!」


「あ、ありがとう。ヨコラ……」


 3つになる弟のヨコラだけは、ドレス姿に感嘆の声と拍手を送ってくれた。これから死刑宣告を受けに行くかもしれないという状況では、素直に喜べないが。



 それでも、人生初といってもいい私だけのドレス。


 今まではお母様のお古に布を足してかつ実用的に動けるようにと裾をしぼっていたが、これは本物だ。ふわりと広がる裾をそっとなでる。


「くれぐれも、首都まで大事に着ていくのですよ」


 一瞬浮かれた頭に、お母様からの言葉が急に現実へと連れ戻す。


 食費を削り、わずかに残っていた領地全てを売り払って用意したドレス、軽やかに思えた裾が、先ほどとは違って重く感じる。


「大丈夫だ。お前は何も知らないで通しなさい。あとは父が引き受けた」


 穏やかな表情とは裏腹に、頭をそっとなでる父の手は汗ばんでいる。


「お父様……」


「心配ない。こんな辺境地だが、意外にも首都までは近いからな。使ってしまったお金も……あちらにいる旧友たちに工面してもらえないか、ついでに頼めるかもしれないからな」


「……あなた。お気をつけて……それとミラ、言動には気をつけるのですよ。特に、あのことは絶対に周りに気づかれないように」


「もちろんですわ。お母様」


 そう、お父様達には偶然手助けしたと言ったが、あの時の方がヴァロアナ公爵様ならまずい。


 公爵家へ返事を出した後、屋敷までの迎えの馬車をあちらで手配してくれたようだった。真っ黒な外装ながらも、細かな手彫りや質の良い木材、座らずともふかふかだと分かる豪華な内装が、今さらながら公爵家のものだと思い知らされる。初めて乗る馬車にお父様の手を借りなんとか乗る。


「さぁ、ミラ行こうか。それと」


「はい?」


「偶然、の件について、しっかり聞かせてもらおうか?」


「…………はい」


 

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