出会いは必然に
大遅刻更新。一週間は経ってないのでセーフ(アウト)。
メテオが世界に入る、少し前の場面。
「ふん...私を利用しようとはな」
建物も人間の姿は無く、取り残された草木が、赤い熱の絨毯を形作っている。
そこには、地獄が広がっていた。
「しかし、私の糧となれたんだ。不本意だろうが、これ以上ない名誉と喜んでくれたまえ」
その地獄の中心には、一人の...小さな少女が、ぽつんと立っていた。
彼女はレイル──この惨状を引き起こした、『亡国の悪魔』だ。
さて、そろそろ出発するか。
持たなければならないもの、それがここまで減ってしまうとは思わなんだ。
「行く当てもないが、これも試練だと思って乗り越えてみせよう」
何を代償にしても、「王」には民が必要だからな。
私はおもむろに歩き出し、まだ燻る炎をかき分けながら、しばらく森を進んでいくことにする。
しかし、つまらん森だな。鳥のさえずりも聞こえず、鬱蒼と木だけが茂っている。
そこまでして、人を寄せたくなかったのか...母上なら、そんなことはしないと思うのだが。
耳を澄ましても何も聞こえないとは、とことん密偵を恐れて────
ガサッ。
不意に、木の葉が何かに擦れる音が聞こえた。
「...なんだ?今の音は」
私は眉をひそめ、辺りをじっと見つめる。
しばらく待ったが、何も出てこない。
「...気のせいか?」
この森は上の方が枝で覆い尽くされているために、下の方に日光が差し込まず、昼だと言うのに仄暗い。だからこの辺りの木は背が高く、幹には枝葉がないのだ。
だとすると、風でも吹いたのだろうか...
私がそう考えた、まさにその瞬間。
────ガサガサガサッ!!
「!!」
私の真上から、大きな音が鳴った。
今度は気の所為ではない。私はもしものことを警戒し、迎撃の態勢を整える。
────ストン。
あの音からは想像もつかない軽い音を立てて落ちてきた何かを、私はじっと見つめた。
「...何者だ」
白銀の髪に、赤と白のオッドアイ。茶縁のメガネをかけた青年。
しかしその佇まいには、どことなく人間離れした雰囲気があった。
例えるなら、世界の全てを分かっているかのような。
「んー...ここらへんのはずなんだけど、どこにいるんだろ...設定では女って言ってたしな...」
青年は私のことなど意に介さず、ぶつぶつと何かを呟き始める。
その姿に、私はふつふつと苛立ちを覚える。
「...おい」
私は声をかけるが、青年はまるで反応する気配がない。
「うーん...もうちょっと先に行こうかな」
「...貴様」
眉間に皺が寄るのが分かる。
この青年は私を────”居ないもの”として扱っているのだ。
あまりにも...無礼が過ぎる。
「名を名乗れ!私の質問に答えろ!」
私は声を荒らげ、先程よりも強い口調で青年に問う。
「...あれ、もしかして僕に言ってる?」
ようやく青年は顔をこちらに向け、軽い驚きの表情を浮かべた。
「当たり前だ!貴様以外に誰がいる!」
「...おかしいな。普通こんな序盤に、僕に気づくわけないんだけど」
「何度も言わせるな!質問に!答えろ!!」
「そう大きな声を出さなくても...」
面倒くさそうに肩をすくめた青年は、少し考える素振りを見せ、次のように名乗った。
「僕は...そうだな、緋室 流星とでも呼んで」
ヒムロリュウセイ...陽昇とかいう国の出か?
あの国の者は皆名とは別に”家名”を持っている...なんとも不遜な奴らだ。
「...しかし貴様は格好からして、陽昇の出ではないだろう。本名じゃないな」
「まあ、そりゃあね」
あっさりと、緋室と名乗る青年は肯定する。
「あ、そうだ」
しばらく双方とも黙っていたが、不意に緋室が、何かを思い出したように手を叩く。
「君、あっちの方から来たでしょ?なら...『亡国の悪魔』レイルって奴知らない?僕は今、そいつを探してるんだ」
私は一瞬、言葉が出なかった。
どうやら緋室が探しているのは、私のことらしい。
「...何が目的だ」
こいつを無視して進んでも良かったが...興味が湧いた。
私は目の前の青年を改めて見据え、試すように問いかける。
「目的と言われても...ただ単純に、物語を見たいだけだよ」
だが緋室から帰ってきた答えは、想像の斜め上をいった。
「...物語、だと?それはその...英雄譚みたいなものか?」
「あー...うーん、そんな感じかな」
あまりに現実感のない話に、どちらにも戸惑いが生まれる。
「とにかく、僕はレイルを見つけたいんだ。だから、君みたいな少年に構っている暇はないんだよ」
────少年。
緋室がそう言うのも無理はない。今の私は、男に見えるよう男装をしているのだから。
だが...
「...私は少年ではない」
「ん?」
「私は一国を滅ぼした、『亡国の悪魔』だぞ!」
小柄な体躯。これを指摘されるのには、癪に障る。
端的に言えば、私はキレた。
「あ、君がレイルだったのか...ごめん、気付かなかった」
はたして緋室から返ってきたのは、あまりにも軽い謝罪。
驚きも、恐れも、謝意すらもない。
その言葉には、少しの好奇心と、確実な期待があった。
「...それだけか?」
「うん?」
「『亡国の悪魔』と言ったのだぞ」
「え、うん」
緋室は「何を言っているんだこいつは」という顔で、あっさりと肯定する。
「...」
絶句。
頭で構成された言葉の羅列が、一瞬にして打ち砕かれたような。
こいつは理解していないのか?
────いや、違う。
理解した上で、気にも留めていない。
「まぁ流石に、『亡国の悪魔』がこんな小さい少女だとは、さすがの僕も...」
「不敬」
「え?」
「不敬」
「え、なんで」
「不敬」
「...はい」
…はぁ、まあいい。
溢れんばかりの罵詈雑言を吐き散らしてやろうと思ったが、やめた。
一周回って、呆れてきた。
「貴様、変わっているな。異国の言葉で言うなら...デリカシーがない、だったか?」
「あはは、よく言われるよ」
悪びれもせず、緋室は即答する。
「...貴様、何者だ」
「あれ、名前なら言わなかった?」
「そういうことじゃない」
やはり、調子が狂う。
怒りも、呆れも消えてはいない。
だが私は────こいつを、面白いと感じてしまった。
「立ち位置の話だ」
「立ち位置?」
短く、正確に、私は緋室へ問う。
「お前がどういう存在で、どこから来たのか」
「あぁ、そっちか」
緋室はようやく納得したように頷き、その場で身を翻す。
「...うーん、そうだな」
緋室は顎に手を当て、しばらく考えたのち、こう答えた。
「まだ言えない、かな」
明日からは「天の真は花を繚う」と「女帝レイルの誕生奇譚」を交互に投稿していこうと思います。
初心者なのもあるので、とりあえず書き書きしないと...
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