並ばない影
そんな日が、しばらく続いた。
気づけば、また同じ帰り道だった。
特別なことがあったわけじゃない。
店が終わって、
三人で外に出る。
それも、もう当たり前になっていた。
それなのに、なぜか少しだけ落ち着かなかった。
理由は分からないまま、店の外に出た。
店を出ると、夜の空気が昼より少し軽かった。
シャッターの下りた商店街を抜けて、三人で海の方へ歩く。
観光客の声も減って、波の音がはっきり聞こえた。
「なんか今日、涼しくない?」
渚が前を歩きながら振り返る。
「やっと夏っぽくなってきたね」
「それ逆じゃん」
笑いながら歩く足音が、静かな道に小さく響く。
海まで出ると、砂浜にはほとんど人がいなかった。
遠くで誰かが花火をしていて、光だけが遅れて消える。
「ちょっと座ろ」
渚がそう言って、先に砂浜に腰を下ろした。
俺も隣に座ろうとして、少しだけ間を空ける。
涼真は反対側に静かに座った。
しばらく三人で波を見ていた。
風が強くて、砂が少しだけ足に当たる。
「ねえ涼真」
渚が言った。
「この前こぼしたやつ、結局大丈夫だったの?」
俺は思わず視線を上げた。
「ああ、服?洗ったら落ちたよ」
「ほんと?よかった」
渚は少し身を乗り出して、涼真の方を見た。
「めっちゃ焦ってたよね」
「まあ、熱かったし」
涼真が少しだけ笑う。
二人の声は小さくて、波の音に混ざっていく。
俺は砂を指でなぞりながら聞いていた。
会話に入れないわけじゃない。
ただ、入るタイミングが見つからなかった。
渚がふっと笑う。
「なんか珍しかったよね、涼真が慌ててるの」
涼真は少し困ったように肩をすくめた。
そのやり取りを見ながら、なぜか胸の奥が静かになっていく。
嫌な感じではなかった。
ただ、自分のいる場所が少しだけ遠くなった気がした。
波がひとつ、大きく崩れる音がした。
渚が立ち上がる。
「そろそろ帰ろっか」
砂を払って歩き出す背中を、俺たちは少し遅れて追いかけた。
帰り道、街灯の光が等間隔に続いていた。
三人で歩いているはずなのに、影はなぜか二つ並んで見えた。
もちろん、気のせいだったと思う。




