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並んだ背中
八月に入るころには、店の忙しさにもすっかり慣れていた。
観光客が増えて、昼過ぎはずっとバタバタしている。
「颯太、テラスお願い!」
「了解!」
グラスを持って外に出ると、日差しがまだ強かった。
海からの風だけが救いみたいに吹いている。
テーブルを片付けて店内に戻ると、カウンターの奥で渚と涼真が並んでいた。
二人とも、同じ方向を向いてコーヒーを淹れている。
会話はしていなかった。
でも、静かすぎる感じもしなかった。
ただ自然に、同じ時間を使っているみたいだった。
「なにその職人感」
俺が言うと、渚が振り向いて笑った。
「邪魔しないで」
「してないって」
涼真は少しだけ口元を緩めた。
それだけだった。
渚は何かを思い出したみたいに言う。
「ねえ涼真くん、この前言ってた映画ってさ」
俺はグラスを拭きながら手を止めた。
会話は続いたけど、内容はよく聞こえなかった。
別に仲間外れにされたわけじゃない。
ただ、話の流れに入るタイミングが見つからなかった。
「颯太、それ乾いた?」
「あ、うん」
気づくと、同じグラスをずっと拭いていた。
店の外で風鈴が鳴った。
その音だけが、少し遠くで鳴っている気がした。




