外側の場所
それから数日後の夜だった。
閉め作業を終え、三人で店を出た。
夜の空気に、秋の気配が混じり始めていた。
八月も終わりを迎えようとしていた。
駅へ向かう途中、渚が言った。
「ちょっとコンビニ寄っていい?」
「いいよ」
三人で店に入り、飲み物を買う。
外に出ると、店の前のベンチが空いていた。
なんとなく、そのまま腰を下ろした。
なんでもない話をする。
今日の客のこと。
失敗した注文のこと。
どうでもいい話ばかりだった。
俺は、意識していつも通りに笑った。
前と同じ距離で、
前と同じ調子で。
考えすぎないようにしていた。
「颯太さ」
渚が笑いながら言う。
「今日テンパってたよね」
「いやあれは無理だよ」
「顔やばかった」
「見るなって」
二人で笑う。
その空気は、昔と何も変わらなかった。
ふと横を見ると、涼真が缶を持ったまま黙っていた。
視線は下に落ちている。
少しの沈黙。
次の瞬間だった。
涼真が立ち上がり、何気ない動きで渚の肩を引き寄せた。
そして、軽くキスをした。
驚くほど自然だった。
特別な演出もなく、ただ日常の続きみたいな仕草だった。
近くにいたから見えただけ。
ただ、視線の先にあっただけだった。
それでも――
なぜか、自分に向けられた出来事のように感じた。
「……外ですよ」
俺は笑いながら言った。
声は思ったより軽かった。
「やば、普通に颯太いた」
渚が少し照れて笑う。
「いるは、ずっと」
三人で笑った。
何も壊れてない。
空気も変わってない。
いつも通りだった。
でも。
もし、少し先に「好き」と伝えていたら。
あの夏の、帰り道のどこかで。
隣にいたのは、俺だったのかもしれない。
そんな可能性を思い、すぐに手放した。
気づけば、缶ジュースの冷たさだけが、指先に長く残っていた。
会話は続いたはずなのに、内容をほとんど覚えていない。
ただ一つだけ分かった。
自分の立っている場所が、少しだけ外側に移っていたこと。
夏の終わりの風が、三人のあいだを静かに通り抜けていった。




